50.赤い血の悪魔
文字数 1,120文字
耳を疑った。しかし耳鳴りのように響いたのは確かな証拠。だけど。
「僕が悪魔?」
ありえない。絶対にありえない。
「コステット。悪魔の子」歌のような調子の声。白い歯を見せて笑う。
「悪魔語で、そういう意味です。もっとも、私は悪魔ではありませんが」
バロピエロに肩を抱かれたまま、繰り返し唱えていた。ありえないと。悪魔のような野蛮な生き物と自分は違う。そんなやつらといっしょじゃない。いっしょになんかなりたくない。
何より、悪魔は血が黒いと、悪魔祓い師のレイドが言っていたではないか。
顔を髪にうずめ、頼りなく立っていると、不思議そうに問いかけてきた。
「信じられませんか? バレ君は血の色のことを言いたいようですね。確かに悪魔は普通、闇色 の血です」
知っている言葉に驚いて顔を上げた。旅に出た頃に、火水、暁のジェルダン王に言われた言葉だ。
「そうです。見た目は黒色ですけど、悪魔達はそう呼びます。しかしバレ君。中には例外もあるんですよ。あまり知られていませんが、赤い血の悪魔というのがいます。ごく少数ですが、例えば、君のように」
どうしようもない感情が押し寄せてきた。信じたくない一方で、認めざるをえないという部分がある。それでも、人間でいたいと願うのはいけないことなのだろうか? 尋ねもしないのに、バロピエロは説明を続けていく。
「彼らは赤い血、レッズと呼ばれ、多くの場合、闇色の悪魔の教育を受ければ闇色の血になるんです。君もその一人というわけですね」
なおさら受け入れられない。それに、納得のいく証拠がなければ聞きたくもない。
「証拠は? 僕はただの不死身だ! そうだ、何で今まで考えつかなかったんだろう。ただ死なないだけなんだ」
反論すると、冷ややかな笑みが注がれた。ところがよく見ると、バロピエロの口紅の色が赤に変わっていた。血のような赤に。
倒れているグッデが浮かぶ。血が目の前で飛散する。なぜだ。のどから手が出るほど、望んでいる。血を望んでいる。体が震えそうで我慢すると、余計に指が震える。
「赤色を見るのは辛いですか? まあ、これぐらいにしておきましょう」
バロピエロが手袋をはめた手で、すっと口元を覆うと、手が離れた時には、口紅が紫に変わっていた。
「自分の手をごらんなさい」
まだ息が整っていない内にそう言われ、よく分からないまま視線を落とすと、驚くものがあった。
爪。黒い爪が伸びている。ざっと数十センチ。いや、今縮みはじめているところを見ると、もっとあったのかもしれない。
「諦めるしかありませんね。君の幻想は」嘲笑が耳に響いた。
「ありえない。僕が悪魔だなんて。おまえがやったのか? そうだろ! おまえがやったんだろ
「僕が悪魔?」
ありえない。絶対にありえない。
「コステット。悪魔の子」歌のような調子の声。白い歯を見せて笑う。
「悪魔語で、そういう意味です。もっとも、私は悪魔ではありませんが」
バロピエロに肩を抱かれたまま、繰り返し唱えていた。ありえないと。悪魔のような野蛮な生き物と自分は違う。そんなやつらといっしょじゃない。いっしょになんかなりたくない。
何より、悪魔は血が黒いと、悪魔祓い師のレイドが言っていたではないか。
顔を髪にうずめ、頼りなく立っていると、不思議そうに問いかけてきた。
「信じられませんか? バレ君は血の色のことを言いたいようですね。確かに悪魔は普通、
知っている言葉に驚いて顔を上げた。旅に出た頃に、火水、暁のジェルダン王に言われた言葉だ。
「そうです。見た目は黒色ですけど、悪魔達はそう呼びます。しかしバレ君。中には例外もあるんですよ。あまり知られていませんが、赤い血の悪魔というのがいます。ごく少数ですが、例えば、君のように」
どうしようもない感情が押し寄せてきた。信じたくない一方で、認めざるをえないという部分がある。それでも、人間でいたいと願うのはいけないことなのだろうか? 尋ねもしないのに、バロピエロは説明を続けていく。
「彼らは赤い血、レッズと呼ばれ、多くの場合、闇色の悪魔の教育を受ければ闇色の血になるんです。君もその一人というわけですね」
なおさら受け入れられない。それに、納得のいく証拠がなければ聞きたくもない。
「証拠は? 僕はただの不死身だ! そうだ、何で今まで考えつかなかったんだろう。ただ死なないだけなんだ」
反論すると、冷ややかな笑みが注がれた。ところがよく見ると、バロピエロの口紅の色が赤に変わっていた。血のような赤に。
倒れているグッデが浮かぶ。血が目の前で飛散する。なぜだ。のどから手が出るほど、望んでいる。血を望んでいる。体が震えそうで我慢すると、余計に指が震える。
「赤色を見るのは辛いですか? まあ、これぐらいにしておきましょう」
バロピエロが手袋をはめた手で、すっと口元を覆うと、手が離れた時には、口紅が紫に変わっていた。
「自分の手をごらんなさい」
まだ息が整っていない内にそう言われ、よく分からないまま視線を落とすと、驚くものがあった。
爪。黒い爪が伸びている。ざっと数十センチ。いや、今縮みはじめているところを見ると、もっとあったのかもしれない。
「諦めるしかありませんね。君の幻想は」嘲笑が耳に響いた。
「ありえない。僕が悪魔だなんて。おまえがやったのか? そうだろ! おまえがやったんだろ