107.血管を操る悪魔ゲリー

文字数 1,369文字

 「ジョーカーはここを通れるはずだろ」


 僕が抗議すると、ゲリーは腕組みし、眉を吊り上げる。


 「お前には最高のもてなしをするように言われてる。大人しくついてきたらジークに会わせてやってもいいが」


 そう簡単に上手い話に乗ってたまるか。

 「嫌だと言ったら?」


 顎を上に突き上げたゲリーの口元が歪む。


 「そう言うと思ったぜ。だがな、忠告しとくぜ。お前が呪われてることぐらい知ってる。少しでも長生きしたいと思うなら俺に従う方が無難だぜ」


 胸に刻まれた死の呪いを指差される。確かにもう、時間は二日とない。だが、長く生きられなくても戦える。ゲリーについていき、ジークに会ってもフェアに戦える保障があるとは思えない。


 指をパキパキ鳴らし始めるゲリー。こちらも動じず、爪を伸ばす。ゆっくりと近づいてくる。

 「自分で会いに行く」


 「ついて来ないなら、いたぶって、お前が完全に弱ったところでジークに差し出してやるよ」

 こちらから仕掛けた。もうたくさんだ。みんなでここを通れなかった恨みを晴らしてやる。


 「カルテンス!」


 黄色い稲妻を爪から放つ。初歩的な呪文だが、一点に集中させると効果は大きい。が、これは軽くジャンプでよけられる。



 「いい根性してるじゃねぇか。俺に勝つ気か?」


 「ここを通してくれないなら」


 「こりゃ傑作だ。いいだろ。手加減しねぇからな」


 遠巻きに対角線に向かい合う。どちらが先に動くか。今度は出方を見てみる。

 「来ねぇのか?」


 妙にむかつく言い方だ。うすら笑いに惑わされて、挑発に乗りそうになる。その戸惑ったとき、ゲリーの走りが見えたとん、爪が喉元をかいた。かろうじて後ろに飛びのいたが、危なかった。


 「ガキのわりに反射神経はいいじゃねぇか。でも次はどうよける?」


 意地悪く笑うゲリーの顔がぐっと近づく。たったの一歩で間合いが詰められた。よけている暇はない。爪を交えて受け止める。火花こそ散らないが、象に体当たりされたような力だ。


 覆いかぶさる力で、手首が折れかねない。弾き飛ばされた。足元が揺らぐ。体勢を立て直すために踏ん張ると、何かに足をかすめとられた! 


 細長い紐が左足に巻きついている。それが何かを確認する前に、ありえない方向にひねられた。絶叫したときには、床に倒される。


 「その程度かよ。口程にもねぇってのは、このことだなガキ」


 痛みが激しくて、骨が折れているかは分からないが、足が赤く腫れ上がりはじめているのは見て取れた。


 手で起き上がろうとしたら、右手、左手と、巻きつかれてしまった。更に、右足、首と自由を奪われる。細い紐は全てゲリーの腕に集まっている。これでは操り人形の格好だ。


 こんなことでぐずぐずしてはいられない。しかし、爪で紐を斬ろうにも、通常の紐ではない。弾力性があって切れない。それに、黒くて脈打っている!



 「あがいたって無駄だ。斬れねぇもんは斬れねぇよ」


 「ザンロスト!」


 最上級の切断の呪文。これなら光の刃で、斬り落とせる。が、光が爪に集まった瞬間、弾け跳んだ。まさか呪文が失敗したのか? この魔法は失敗したことがないのに。


 「魔法も効かねぇぜ。それは俺の血管だ。てめえが魔法を使うと魔力(イーヴル)を吸い取る。」


 よく見ると、ゲリーの腕から生えているのは紐ではなく、血管のようだ。ゲリーは血管を体外へ出して操っているのか。
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