42.道案内人
文字数 1,606文字
コウモリは部屋の中をぐるぐる飛び回ったあげく、天井の割れた電灯にぶらさがった。
「いつからいたんだよ」
「いなかったはずだけど」
不思議なコウモリだ。こちらを観察するように見ている。
「あれ、あんなのさっきあったか?」
コウモリばかり見ていて気づかなかったが、コウモリの止まっている割れた電灯に紙がぶら下がっていた。『割れているので注意』ではなく、『観光歓迎。道案内人の家はすぐそこ』と書いている。
「こんなところが、観光地?」
問いに、コウモリは答えるはずもなく、また飛び立った。何と窓をすり抜けて外に出て行った。目で後を追うと、すぐ向かいの家の窓を同じようにすり抜けて行く。
「コウモリって、窓とか通り抜けられるのかよ」グッデが布団に隠れてささやく。
「魔法ならできるかも」
半分上の空で話した。それより、気になったのは、「歓迎って、どういうことだろう」
グッデが手をぽんと打った。
「そっか、歓迎してくれてんだ! 料理が食べ放題か!」
この町でそんなことはないと思う。人はいない。だとすると、人間じゃないもの。何たって悪魔に狙われているのだ。魔王になれるゲームの内容が、自分を殺すことなのだから、何が出てもおかしくない。
しかし、歓迎の準備をしてくれているのだ。不意打ちってことはないだろう。
行って、何で殺しのターゲットが自分なのか直接聞いてみたらどうだろう? もちろん危ないだろう。
ひょっとすると悪魔はいなくて、ただの思い過ごしかもしれない。どの道、さっきのコウモリが気になって後に引けない。それに死なない体なら、何とかなりそうな気がする。
「グッデはここにいて」
「何で?」
「悪魔がいるかもしれない」
「ど、どういうことだよ?」
そろそろ秘密も潮時だ。グッデを危ない目に遭わせるわけにはいかない。
「悪魔が探しているコステットは、僕だから」
「何だって! でも、待てよ。おまえのどこがどうなってコステットなんだ?」
「それは」
最初からあったわけではない名前だ。少年が勝手に僕に名付けた。心当たりはない。
「とにかく、一緒にいたら危ないよ。僕は死なないけど、グッデは」
「危ないんなら、一人で行かせるか! おれだって、魔法で何とかするぜ」
「でも、敵は悪魔だよ」
「いつもおれ達、人と戦ってねぇじゃん。それに、おまえ助けてくれただろ? おれだって、何かしたい。おまえがいつも悩んでるの知ってんだぞ」
グッデが大股で歩き出した。
「行くなら、一緒に蹴散らしてやろうぜ」
こうなると負けだ。
「分かったよ」
コウモリの行った家は道案内人の家と、わざわざ玄関のドアに札が掛かっている。屋根が平べったく、箱型の家だ。入り口は一つだけで、どこから入ったものかと迷うこともできなかった。
どうしても正面から突入するしかない。ドアを開ける時は、慎重にした。何が出てくることか。しかし、恐ろしい物体も、悪魔も出なかった。
廊下が長く続いている。床はローズ色と緑色が渦巻くデザインで、目が吸い込まれるような錯覚がする。
壁には数メートルごとにランプが細々と灯っている。ようやくたどり着いたのは、何もない灰色の部屋だ。ロウソクの明かりで照らされていた開け放しのドアを通って、グッデの安心したため息がもれる。
「何もいなかったな」
「いや、いる」
そんな気がしてならなかった。後ろのドアがひとりでに閉まった。後ろに現れたのは意外な男だ。悪魔でも、怪物でもない。
「ようこそ。死者の町へ」
「バロピエロ?」
相変わらず微笑むのが好きな人物だ。挑発でも、あざけりでもない笑み。それだから不気味だ。
今夜は前と違って、口紅の色が黄色だ。顔の右半分が白、左半分が黒の奇妙なペイントは変わらぬままだ。あと、紳士服と、シルクハットも。
「お久しぶりで。そんなに驚くこともないでしょう。私は今、この町の案内人を職としているのです」
「いつからいたんだよ」
「いなかったはずだけど」
不思議なコウモリだ。こちらを観察するように見ている。
「あれ、あんなのさっきあったか?」
コウモリばかり見ていて気づかなかったが、コウモリの止まっている割れた電灯に紙がぶら下がっていた。『割れているので注意』ではなく、『観光歓迎。道案内人の家はすぐそこ』と書いている。
「こんなところが、観光地?」
問いに、コウモリは答えるはずもなく、また飛び立った。何と窓をすり抜けて外に出て行った。目で後を追うと、すぐ向かいの家の窓を同じようにすり抜けて行く。
「コウモリって、窓とか通り抜けられるのかよ」グッデが布団に隠れてささやく。
「魔法ならできるかも」
半分上の空で話した。それより、気になったのは、「歓迎って、どういうことだろう」
グッデが手をぽんと打った。
「そっか、歓迎してくれてんだ! 料理が食べ放題か!」
この町でそんなことはないと思う。人はいない。だとすると、人間じゃないもの。何たって悪魔に狙われているのだ。魔王になれるゲームの内容が、自分を殺すことなのだから、何が出てもおかしくない。
しかし、歓迎の準備をしてくれているのだ。不意打ちってことはないだろう。
行って、何で殺しのターゲットが自分なのか直接聞いてみたらどうだろう? もちろん危ないだろう。
ひょっとすると悪魔はいなくて、ただの思い過ごしかもしれない。どの道、さっきのコウモリが気になって後に引けない。それに死なない体なら、何とかなりそうな気がする。
「グッデはここにいて」
「何で?」
「悪魔がいるかもしれない」
「ど、どういうことだよ?」
そろそろ秘密も潮時だ。グッデを危ない目に遭わせるわけにはいかない。
「悪魔が探しているコステットは、僕だから」
「何だって! でも、待てよ。おまえのどこがどうなってコステットなんだ?」
「それは」
最初からあったわけではない名前だ。少年が勝手に僕に名付けた。心当たりはない。
「とにかく、一緒にいたら危ないよ。僕は死なないけど、グッデは」
「危ないんなら、一人で行かせるか! おれだって、魔法で何とかするぜ」
「でも、敵は悪魔だよ」
「いつもおれ達、人と戦ってねぇじゃん。それに、おまえ助けてくれただろ? おれだって、何かしたい。おまえがいつも悩んでるの知ってんだぞ」
グッデが大股で歩き出した。
「行くなら、一緒に蹴散らしてやろうぜ」
こうなると負けだ。
「分かったよ」
コウモリの行った家は道案内人の家と、わざわざ玄関のドアに札が掛かっている。屋根が平べったく、箱型の家だ。入り口は一つだけで、どこから入ったものかと迷うこともできなかった。
どうしても正面から突入するしかない。ドアを開ける時は、慎重にした。何が出てくることか。しかし、恐ろしい物体も、悪魔も出なかった。
廊下が長く続いている。床はローズ色と緑色が渦巻くデザインで、目が吸い込まれるような錯覚がする。
壁には数メートルごとにランプが細々と灯っている。ようやくたどり着いたのは、何もない灰色の部屋だ。ロウソクの明かりで照らされていた開け放しのドアを通って、グッデの安心したため息がもれる。
「何もいなかったな」
「いや、いる」
そんな気がしてならなかった。後ろのドアがひとりでに閉まった。後ろに現れたのは意外な男だ。悪魔でも、怪物でもない。
「ようこそ。死者の町へ」
「バロピエロ?」
相変わらず微笑むのが好きな人物だ。挑発でも、あざけりでもない笑み。それだから不気味だ。
今夜は前と違って、口紅の色が黄色だ。顔の右半分が白、左半分が黒の奇妙なペイントは変わらぬままだ。あと、紳士服と、シルクハットも。
「お久しぶりで。そんなに驚くこともないでしょう。私は今、この町の案内人を職としているのです」