73.バンド
文字数 2,165文字
どこに連れてこられたのか分からなかった。煙に紛れて裏路地を通り、寂れた通りに着いた。
「何だよ、さっきの台詞」
チャスが一人笑っている。
「あれぐらい悪魔らしくしないと、魔界の住人じゃないと分かるだろ」
オルザドークが欠伸をする。しかし、どこに来てしまったのだろう。
「俺の知り合いの家の近くだ」と、本当に近くにあるトタン屋根の倉庫のような建物のドアを開けた。
「魔界に知り合いがいるんですか?」
驚いて声を上げると、静かにしろと口を塞がれた。
「黙って着いて来い」
そこは悪魔達が何十人もいるバーだった。それぞれが、酒を飲んだり賭博をしたり好き勝手にしていた。その中で、人間界ではありえない行動をしているグループがちらほらいた。
高い天井の電灯にコウモリのごとくぶら下がっている男や、人間の頭蓋骨らしき骨でボーリングをしている者もいる!
オルザドークに黙っていろと言われた意味が分かった。この悪魔達と目を合わさないように、しっかりついていった。
しかし、僕は絡まれやすい体質なのだろうか? カウンターに座っている女が話しかけてきた。
「赤毛の坊や。一緒に乾杯しない?」
赤いドレスの女だった。以前だったら確実にここで暴れ出して大変なことになっていただろう。
「ねぇ聞いてるの?」
「俺が乾杯してやるよ」
チャスがまたも助け舟を出してくれた。
「あら、あなたが乾杯してくれるの?」
「そうさ。不満かな? プリンセス」
チャスが目で、先に行ってろと合図した。少しふざけているチャスが心配だった。口を開きかけたが、オルザドークも小突くので、後に着いていった。
倉庫の奥の部屋に連れていかれた。そこは個室のようになっていて誰もいない。勝手に入っていいのだろうか。
「もうしゃべっていいぞ」
「チャスは大丈夫なの?」
「さぁな」
この人はやる気がないだけではなく、無責任男だったとは。
「お前がいたところで何ができる? さっきのいざこざも俺がいなかったらどうなってた?」
言い返す言葉がなくなってしまった。
「とにかく。あいつならどうにかするだろ」
「じゃあさっそく乾杯しましょ」
悪魔の女はチャスフィンスキーにグラスを渡す。中を確かめなくても臭いでそれが何か分かる。ま、予想はしてたけど、血はさすがにな。
「じゃあ、乾杯」
女は一気に血を飲み干した。よく飲めるな。腹壊しそう。という感想を口走りそうになる。
チャスフィンスキーも飲む振りをする。
自分はタヌキとキツネのハーフだが、人間と同じように生活しているので、血など飲んだことがない。とはいえ相手は女といえど悪魔だ。機嫌を損ねるようなことをしたならば、一発で殺される。
「これ旨いな」勿論お世辞だ。
「もっと注ぎましょうか?」
チャスフィンスキーは遠慮した。
「変わった悪魔ね。あなたは名前は?」
「俺はチャス。いや、カッポロチーノ」
女は眉をひそめた。四大政師とばれないように作ったつもりだが、返って怪しまれたか。
「変な名前。魔物なの?」
「まあ」
勘違いしているようだ。
「魔物にしてはいい男じゃない」
女が青い瞳で見つめかけてきたので、チャスフィンスキーの頬が赤らむ。
「あなたの首を部屋に飾りたいわ」
すぐに顔は青みを帯びた。女は冗談だとあえて言わずに微笑む。
「ところで、さっきの連中とどこに行くつもりだったの?」
チャスフィンスキーは目覚めたように我に返る。この女の相手などどうだっていいのだ。自分は寧ろこの女からジークの情報を聞き出した方がいい。そう思いながらも顔色を伺った。
「俺たちジークに会いたいんだけど、あいつそんなに表に出ないよな」
てっきり女は驚くか、会おうとしていることを愚かに思うと思った。どちらでもなかった。人を小ばかにし、小さく笑い声を立てた。
「会うだけなら明日会えるじゃない」
「何だって!?」
「そんなに驚くことないじゃない。でも知らなかったの? 今町中の噂よ。明日のライブには町中の連中が行くわ」
チャスフィンスキーは興奮していた。
「明日会えるのか? どこに行けば?」
「どこってライブハウスに決まってるじゃない」
平然という女の言葉がよく分からなかった。
「らいぶはうす?」
自分で言っても奇妙な言葉が裏返った声だったので余計におかしい。
「まさかとは思うけどサタンズブラッドを知らないの? いくら魔物でも知らない魔物はいないと思ってたわ」
さすがに魔界の者ではないとばれたと思った。女が嫌らしく笑っているのが分かった。
「でも、たぶんだめよ。だって、満席だもの」
「満席?」
頭の中が混乱してきた。
「サンタズ何とかは一体何なんだよ」
「サタンズブラッド。バンド名よ。本当に知らないのね」
女が訂正をし、呆れかえる。
「魔界に音楽をもたらしたのはジークよ。おかげで私達も楽しみが増えたってわけ。町の外にいる魔物は知らないのかしら?」
「あ、ああ。遠くから来たから」
適当に話を合わせるしかなかった。しかし女はほろ酔い気分なのか全く疑っていない様子だ。
「だったら明日のライブは絶対行くべきね。噂では重大発表があるらしいとかで、入場が無料なんですって」
「本当か?」
これはチャンスだと思い、急いで知らせに行った。
「ありがとう」
「何だよ、さっきの台詞」
チャスが一人笑っている。
「あれぐらい悪魔らしくしないと、魔界の住人じゃないと分かるだろ」
オルザドークが欠伸をする。しかし、どこに来てしまったのだろう。
「俺の知り合いの家の近くだ」と、本当に近くにあるトタン屋根の倉庫のような建物のドアを開けた。
「魔界に知り合いがいるんですか?」
驚いて声を上げると、静かにしろと口を塞がれた。
「黙って着いて来い」
そこは悪魔達が何十人もいるバーだった。それぞれが、酒を飲んだり賭博をしたり好き勝手にしていた。その中で、人間界ではありえない行動をしているグループがちらほらいた。
高い天井の電灯にコウモリのごとくぶら下がっている男や、人間の頭蓋骨らしき骨でボーリングをしている者もいる!
オルザドークに黙っていろと言われた意味が分かった。この悪魔達と目を合わさないように、しっかりついていった。
しかし、僕は絡まれやすい体質なのだろうか? カウンターに座っている女が話しかけてきた。
「赤毛の坊や。一緒に乾杯しない?」
赤いドレスの女だった。以前だったら確実にここで暴れ出して大変なことになっていただろう。
「ねぇ聞いてるの?」
「俺が乾杯してやるよ」
チャスがまたも助け舟を出してくれた。
「あら、あなたが乾杯してくれるの?」
「そうさ。不満かな? プリンセス」
チャスが目で、先に行ってろと合図した。少しふざけているチャスが心配だった。口を開きかけたが、オルザドークも小突くので、後に着いていった。
倉庫の奥の部屋に連れていかれた。そこは個室のようになっていて誰もいない。勝手に入っていいのだろうか。
「もうしゃべっていいぞ」
「チャスは大丈夫なの?」
「さぁな」
この人はやる気がないだけではなく、無責任男だったとは。
「お前がいたところで何ができる? さっきのいざこざも俺がいなかったらどうなってた?」
言い返す言葉がなくなってしまった。
「とにかく。あいつならどうにかするだろ」
「じゃあさっそく乾杯しましょ」
悪魔の女はチャスフィンスキーにグラスを渡す。中を確かめなくても臭いでそれが何か分かる。ま、予想はしてたけど、血はさすがにな。
「じゃあ、乾杯」
女は一気に血を飲み干した。よく飲めるな。腹壊しそう。という感想を口走りそうになる。
チャスフィンスキーも飲む振りをする。
自分はタヌキとキツネのハーフだが、人間と同じように生活しているので、血など飲んだことがない。とはいえ相手は女といえど悪魔だ。機嫌を損ねるようなことをしたならば、一発で殺される。
「これ旨いな」勿論お世辞だ。
「もっと注ぎましょうか?」
チャスフィンスキーは遠慮した。
「変わった悪魔ね。あなたは名前は?」
「俺はチャス。いや、カッポロチーノ」
女は眉をひそめた。四大政師とばれないように作ったつもりだが、返って怪しまれたか。
「変な名前。魔物なの?」
「まあ」
勘違いしているようだ。
「魔物にしてはいい男じゃない」
女が青い瞳で見つめかけてきたので、チャスフィンスキーの頬が赤らむ。
「あなたの首を部屋に飾りたいわ」
すぐに顔は青みを帯びた。女は冗談だとあえて言わずに微笑む。
「ところで、さっきの連中とどこに行くつもりだったの?」
チャスフィンスキーは目覚めたように我に返る。この女の相手などどうだっていいのだ。自分は寧ろこの女からジークの情報を聞き出した方がいい。そう思いながらも顔色を伺った。
「俺たちジークに会いたいんだけど、あいつそんなに表に出ないよな」
てっきり女は驚くか、会おうとしていることを愚かに思うと思った。どちらでもなかった。人を小ばかにし、小さく笑い声を立てた。
「会うだけなら明日会えるじゃない」
「何だって!?」
「そんなに驚くことないじゃない。でも知らなかったの? 今町中の噂よ。明日のライブには町中の連中が行くわ」
チャスフィンスキーは興奮していた。
「明日会えるのか? どこに行けば?」
「どこってライブハウスに決まってるじゃない」
平然という女の言葉がよく分からなかった。
「らいぶはうす?」
自分で言っても奇妙な言葉が裏返った声だったので余計におかしい。
「まさかとは思うけどサタンズブラッドを知らないの? いくら魔物でも知らない魔物はいないと思ってたわ」
さすがに魔界の者ではないとばれたと思った。女が嫌らしく笑っているのが分かった。
「でも、たぶんだめよ。だって、満席だもの」
「満席?」
頭の中が混乱してきた。
「サンタズ何とかは一体何なんだよ」
「サタンズブラッド。バンド名よ。本当に知らないのね」
女が訂正をし、呆れかえる。
「魔界に音楽をもたらしたのはジークよ。おかげで私達も楽しみが増えたってわけ。町の外にいる魔物は知らないのかしら?」
「あ、ああ。遠くから来たから」
適当に話を合わせるしかなかった。しかし女はほろ酔い気分なのか全く疑っていない様子だ。
「だったら明日のライブは絶対行くべきね。噂では重大発表があるらしいとかで、入場が無料なんですって」
「本当か?」
これはチャンスだと思い、急いで知らせに行った。
「ありがとう」