34.悪魔の依頼
文字数 1,642文字
マストルンベという町の、あるカフェテリアで、悪魔祓い師レイドは紅茶をすすっていた。よく晴れていて、レンガ造りの家々がきれいに見える。町は買い物客で、とても賑やかだった。その中で一人、つまらなさそうに紅茶を飲む。さっき注文したサンドイッチが運ばれてきても、口に放り込み、味わいもせず、紅茶で流し込んだ。
背の高い、茶髪の男が、「ここの席いいかな」と、勝手に隣に座った。レイドは確信を持って尋ねた。
「あんた、悪魔か?」
横目で男を見やると男はニヤリと笑った。
「よく分かったな。今日は爪も隠して、服も地味なやつにしてきたのに。やっぱりうわさの悪魔祓い師、レイド・オーカスティクか」
俺もニヤリと笑う。
「悪魔が隣に座って、気づかないと思うか?」
男は笑ったが、俺はにらみつけた。
「ずっと俺をつけてただろ。何のマネだ?」
男は声を漏らして笑った。
「お前に頼みたいことがある」
前代未聞である。悪魔が悪魔祓い師に頼みごとをするなんて。
「どういうことだ?」さすがに動揺を隠せない。
「殺して欲しいやつがいる」
その言葉に俺はあきれ返った。
「はぁ? お前悪魔だろ。自分でやれるだろ」
男は続けた。
「損はしないぞ。そいつもお前にとって敵になるはずだ。ただどんなやつか分からない。分かってるのはコステットって名前と、変わったやつってことだけだ」
「悪魔とビジネスはしない」
即答すると、男は悪態をついて立ち去った。
「待てよ。俺は悪魔祓い師だぞ」
男が立ち止まる。その刹那を逃してなるものかと、俺は首から十字架のネックレスをはずす。男が振り向きざまに襲いかかった。爪が伸び、俺の首に迫った。十字架に呪文を小さくつぶやき、男の胸に押し当てた。光が満ちて、男が叫ぶ。
周囲の人が何事かと集まりだした頃には仕事は終わった。足下に黒い砂が舞う。その中に男の顔だけが残っている。もう死んだも同然だが悪魔は俺に遺言のように唇を震わせた。
「言い忘れていたが、コステットを殺しておかないと、後でお前も困るぞ」
悪魔の顔を踏みつぶした。血のりも飛ばずに全て砂になった。
「コステットってやつを殺すか殺さないかは、俺が決める」
昼。広場で俺はパンを一つ食べていた。しかしパンの味はしない。気になって仕方がないことがある。「コステット」この名が頭から離れない。
(なぜ悪魔が俺に)
気にしたくなかった。もしかすると、罠かもしれないからだ。しかし気づくと、コステットを探していた。しかし、名前と変わったやつだけでは情報が足りない。パンを飲み込んでから町長に会いに行った。人探しは町長が手っ取り早い。
「ちょっといいか? コステットって名前、聞いたことあるか?」
町長は少し考えてから首を振った。
「そうか」
ま、悪魔が探して見つからないのだ。人間かどうかも定かじゃない。立ち去ろうとした時、町長が厳しく言った。
「ちょっと君のことカフェテリアで見たよ。君は悪魔祓い師かい?」
「未成年がやっちゃ駄目なのか?」
睨みつけると謙虚な町長はうつむき加減に話し出した。
「そうじゃないよ。この頃、盗賊がこの近くに出るから我々は困っているんだ」
「それを俺にどうしろと?」
「もちろん未成年の君に無理を言ってるのは分かっている。大人の我々がふがいないのも分かっている」
自分で未成年とは言ったものの、そこばかり強調されているようで腹立たしかった。
「違う。俺が言いたいのは、俺の本業は悪魔を退治することだ。最近悪魔が多くて忙しい。盗賊ぐらい自分達で何とかしろ」
それにコステットのことも気になっていた。町長はなおもねばってきた。
「ただの盗賊じゃないんだ。次々に人を襲う。見えない所から現れるそうだ」
「見えない所?」
少し興味が沸いた。
「そうだ。頼む。引き受けてくれないか? お金はあとで出そう」
次々と人を襲う。悪魔のような現象だ。調べる価値はあると思った。手を出した。町長は不思議な顔をする。
「金は前払いで」
背の高い、茶髪の男が、「ここの席いいかな」と、勝手に隣に座った。レイドは確信を持って尋ねた。
「あんた、悪魔か?」
横目で男を見やると男はニヤリと笑った。
「よく分かったな。今日は爪も隠して、服も地味なやつにしてきたのに。やっぱりうわさの悪魔祓い師、レイド・オーカスティクか」
俺もニヤリと笑う。
「悪魔が隣に座って、気づかないと思うか?」
男は笑ったが、俺はにらみつけた。
「ずっと俺をつけてただろ。何のマネだ?」
男は声を漏らして笑った。
「お前に頼みたいことがある」
前代未聞である。悪魔が悪魔祓い師に頼みごとをするなんて。
「どういうことだ?」さすがに動揺を隠せない。
「殺して欲しいやつがいる」
その言葉に俺はあきれ返った。
「はぁ? お前悪魔だろ。自分でやれるだろ」
男は続けた。
「損はしないぞ。そいつもお前にとって敵になるはずだ。ただどんなやつか分からない。分かってるのはコステットって名前と、変わったやつってことだけだ」
「悪魔とビジネスはしない」
即答すると、男は悪態をついて立ち去った。
「待てよ。俺は悪魔祓い師だぞ」
男が立ち止まる。その刹那を逃してなるものかと、俺は首から十字架のネックレスをはずす。男が振り向きざまに襲いかかった。爪が伸び、俺の首に迫った。十字架に呪文を小さくつぶやき、男の胸に押し当てた。光が満ちて、男が叫ぶ。
周囲の人が何事かと集まりだした頃には仕事は終わった。足下に黒い砂が舞う。その中に男の顔だけが残っている。もう死んだも同然だが悪魔は俺に遺言のように唇を震わせた。
「言い忘れていたが、コステットを殺しておかないと、後でお前も困るぞ」
悪魔の顔を踏みつぶした。血のりも飛ばずに全て砂になった。
「コステットってやつを殺すか殺さないかは、俺が決める」
昼。広場で俺はパンを一つ食べていた。しかしパンの味はしない。気になって仕方がないことがある。「コステット」この名が頭から離れない。
(なぜ悪魔が俺に)
気にしたくなかった。もしかすると、罠かもしれないからだ。しかし気づくと、コステットを探していた。しかし、名前と変わったやつだけでは情報が足りない。パンを飲み込んでから町長に会いに行った。人探しは町長が手っ取り早い。
「ちょっといいか? コステットって名前、聞いたことあるか?」
町長は少し考えてから首を振った。
「そうか」
ま、悪魔が探して見つからないのだ。人間かどうかも定かじゃない。立ち去ろうとした時、町長が厳しく言った。
「ちょっと君のことカフェテリアで見たよ。君は悪魔祓い師かい?」
「未成年がやっちゃ駄目なのか?」
睨みつけると謙虚な町長はうつむき加減に話し出した。
「そうじゃないよ。この頃、盗賊がこの近くに出るから我々は困っているんだ」
「それを俺にどうしろと?」
「もちろん未成年の君に無理を言ってるのは分かっている。大人の我々がふがいないのも分かっている」
自分で未成年とは言ったものの、そこばかり強調されているようで腹立たしかった。
「違う。俺が言いたいのは、俺の本業は悪魔を退治することだ。最近悪魔が多くて忙しい。盗賊ぐらい自分達で何とかしろ」
それにコステットのことも気になっていた。町長はなおもねばってきた。
「ただの盗賊じゃないんだ。次々に人を襲う。見えない所から現れるそうだ」
「見えない所?」
少し興味が沸いた。
「そうだ。頼む。引き受けてくれないか? お金はあとで出そう」
次々と人を襲う。悪魔のような現象だ。調べる価値はあると思った。手を出した。町長は不思議な顔をする。
「金は前払いで」