113.勃発

文字数 1,046文字

 レイドの形相が赤い池に照らされて、醜悪に歪む。血の池をものともせずに泳いで来る。ジェルダン王に気づいていないのか、僕の目の前に剣を突き出した。




 「やっと会えたな、バレ」




 レイドとの時間は止まったままだ。僕を悪魔として見ている。誤解ではないだけに、心苦しい。





 「ちょっとお兄ちゃん置いてかないでよ」アグルという幼い悪魔がおぼつかない泳ぎでこっちに来る。


 悪魔祓い師が、なぜ悪魔の子供をつれているのか。

 「おい、何だ、お前達は?」


 ジェルダン王がレイドの前に立ちはだかる。さすがのレイドも血でできた人間を見て後退する。

 「この赤毛を助けに来たのか?」


 助けに来たわけではないと思う。きっと追ってきたのだと、直感する。予想通りレイドの反応は冷たいものだ。

 「違う。俺はこいつを仕留めに来た」



 ひどくジェルダン王が驚くのも無理はない。まさか魔界にまで追ってきているとは自分も思わなかったのだ。塔で戦ったときの勝負は引き分けで、これ以上関わることもないと思っていた。


 「だから何者か知らないが、そこをどけ。俺がこの剣で仕留める」


 レイドは本気だ。これまで以上に意気込んでいる。ジェルダン王はどう答えるだろうか? 思案顔だが、その間も、僕の肩から出血が止まらないので、早めに結論を出したようだ。


 「面白い」


 荒っぽく、大きな手から放り出される。体まで浸かるほどの血が、ジェルダン王の下へ集まって引いていく。赤く湿った、粘土質の地表が顔を出した。




 「好きに戦うがいい。私が見学してやろう」




 自由になったが、喜びはない。今まさに新しい戦いが始まろうとしている。足元がぎこちなく、体もだるい。できるだけ避けたい戦いだ。意味がないし、レイドは少しだけ勘違いをしている。ジークのところに行くのを邪魔するのであれば、やむを得ない。


 「どうしてここだと分かったんだ」


 レイドの顔に笑みが見える。対峙する敵によく見せる笑みだ。

 「お前の行きそうな場所に来ただけだ。あと、ジークと、スキンヘッドの悪魔とか、色々倒すつもりだ」


 アグルという子供が気になる。どうしてこんなに仲がいいのだ? しかし、スキンヘッドというのは知っている。

 「スキンヘッドって、ゾルスか?」


 「何で知ってる?」


 何だか悪い予感がする。もうその悪魔なら、

 「僕が倒した」





 レイドの目つきが鋭くなる。標的を奪われたのが悔しいのだろう。そんなつもりはないのだが。不安そうなアグルがレイドと僕を見比べている。


 「なおさら、お前を倒さないといけないようだな」
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