66.狙われたアグル

文字数 1,929文字

 「でもいいのか? 父親に会いに来たんだろう?」

 「着いてきてくれるよね?」


 俺は少し考えた後、ある結論に至って顔をほころばせた。


 「お断りだ」

 走って逃げた。今度は俺の勝ちだ。


 「不意打ちなんてずるいよ。待ってよー」


 走っても追いつけず、へなへなとアグルが座り込む。気をよくした俺は笑みを浮かべる。大またに大地を駆け抜ける。後ろで誰かが転んだ砂の音がする。泣き声。頼むからやめてくれ。後ろめたい。


 (何考えてるんだ。あいつは悪魔なんだ)


 立ち止まったが、自分にそう言い聞かせて走る。下を向いていたらしく、前から来た何かにぶつかった。しかも反動で転んだ。

 「ぶつかって挨拶はなしか?」


 不覚にも、痛みにしかめていると、この太った男の嫌な気配に気づく。この重い感じ。しかもストレートに伝わってくるのは悪魔の魔力ではない。


 「迎えに来てくれたんだ、パパ」


 後ろでアグルが駆け出す。


 「アグル来るな。お前の親父も魔物だ」

 驚きの声を上げて立ち止まるアグル。その周りに影が現われる。悪魔の気配を察した。これは明らかにアグルを狙った罠だ。


 「何やってる逃げろ」

 遅かった。アグルを囲んで人影が出現する。一人はがっちりした体つきで、スキンヘッドで耳の尖った男。二人は女で、片方がピンク色の髪で、へそを出している。もう一方は金髪でブロンドのメガネの女。

 「アグルー元気か?」


 鶏を思わせるとさか頭の太った男、父親の振りをしているが、魔物だ。

 アグルは父親の顔をおろおろと見つめる。全く世話がやけると思いながら、レイドは声を荒げる。

 「お前ら何者だ。悪魔の子守にしちゃ、大げさな人数だな」


 「何だお前は? 人間の分際で俺の息子とどういう関係だ」

 太った男の生臭い息がかかる。ネックレスを外してわざと見せつけると、男は確信したようだ。


 「ああ。悪魔祓い師か。妻の姿が見えないが? モズドローンはどうした?」

 レイドは思わず噴出す。自分から魔物と認めているようなものではないか。

 「倒した。お前、あいつの仲間か」


 「仲間? ああ、確かにそうかもね。仕事仲間っていう意味なら」と、金髪の女が仲間が死んだというのに気にしていない。それより奇妙なことを言った。仕事仲間だと? この女は、悪魔のようだ。アグルの父親以外全員そのようだ。


 「何の集まりだ?」

 答えないだろうと思いながら十字架を剣にして脅す。だが、意外にも簡単に答えた。

 「D・E・Oよ。略してだけどね」


 ピンクの髪を揺らして女がリズムよく話した。

 「知らないんでしょ? そうよね。数年前にできた組織なんだから。考えてみて」

 俺は苦笑しそうになり、冷笑に変えて睨みつける。


 「教えろ」

 すると背後で悲鳴が上がる。アグルを金髪の女悪魔が捕まえたのだ。

 「私達はこの子を殺すことにするわ。あなたのせいよ」


 冷酷な女に、切りかかろうとした。だがアグルの父親が本来の姿を現した。緑の煙。黄色いうろこに覆われた巨体があらわになる。発達した二本の角は腕よりも長い。その角が、振り下ろされる。さっと剣で払い、後方へ飛ぶ。


 「人間にしては早いな」

 「アグルを殺すつもりだったのか」


 後方でアグルの悲鳴と、女の悲鳴がする。アグルが女の腕に噛みついている。メガネの女は思わず手を引っ込める。

 「逃がさないわ」


 続いてピンクの女。だが、そうはさせない。すんでのところで、剣を凪ぐ。だが、横からスキンヘッドの男の蹴り。アグルを抱え、背で受けた。

 「ぐあ!」


 アグルをかばいながら転がる。相手が多い。アグルを抱えて起き上がると、魔物の顔が上にあった。角が赤い月を割って、落ちてくる。これも転がってよける。

 「魔物も入ってるとは妙な組織だな。Oはオーガナイズ。組織だろ? Dは悪魔ってところか」


 レイドは起き上がりながら考えを述べた。

 「Eは何だ?」


 魔物は驚いた顔をする。他の仲間の悪魔達もだ。

 「なかなか言ってくれるぜ。いいだろう教えてやる。教育だ。俺達は悪魔教育組織の監督者だ」


 スキンヘッドがぶっきらぼうに言った。

 「ゾルスそこまで教えていいの?」


 メガネの女が聞く。ゾルスと呼ばれたスキンヘッドの男は、敵意を剥き出しに言い放つ。

 「殺すまでだ」


 スキンヘッドのゾルスの爪が何十センチも伸びる。一瞬の笑み。これから殺すという喜びを惜しみ隠さず。斜めからの刃。剣で弾く。こっちの反撃。振りかぶると、大きくのけ反ってかわされ、その姿勢からの爪の乱れ突き。軟体生物のような動きだ。剣で、一つずつ正確に弾く。


 その間に魔物が迫っていた。角で突きが炸裂する。アグル目がけて。後ろまで気がいかなかった。横からピンクの女の爪が迫る。

 「アグルに手を出すな!」
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