62.魔界行きの汽車
文字数 1,460文字
「キロレイト山。地下トンネル跡」
薄暗い洞窟とも言えるトンネルで、レイドがつぶやくと声が反響する。
「確かここのはず」
奥へ行けば行くほど、足元に転がっている岩が道を悪くするが、俺の街には懐中電灯とよばれる、持ち歩きできる灯りがあるので、あまり困らない。問題はいつまで経っても目的の駅に着けないことだ。
もう何キロメートルも歩いたと思われた頃、コウモリが天井にたむろしている開けた空間に出た。
「ここか?」
足元に大きな溝。岩肌から加工されているのが一目で分かる。その中に線路が引かれている。線路に降り立とうかと迷っていると、岩陰から眩しい光が漏れてきた。灯りが近づいてくる。
金属が擦れあう嫌な音がする。いきなり天を割るような轟音に変わる。黒い煙が押し寄せてきた。思わず目を覆った瞬間、足元に地響きが走る。
よろけそうになって、踏みとどまると、目の前を黒い物体が走り抜けているのが見えた。黒煙と砂埃で、むせてしまう。
汽車。黒く重圧感のある車体が、コウモリを追い払い、洞窟に到着した。ススだらけになっていた俺は一時呆然としていた。しかし、嫌なものを感じる。汽車を取り巻く黒いオーラが見てとれた。
「イーヴルで動く汽車か」
普段なら、十字架の剣で叩き斬っているところだが、今日は見逃してやるよ。これに乗らなければ魔界に行けないのだから。
発車を知らせる低音の汽笛とともに、足早に乗り込む。中には客らしき血の気のない人々が数人。
(乗客は死人だけか。全く気味悪い汽車だな)
汽車が走り出した。下へ下へと魔界に向かって下っていく。外に見えるのは岩だけだった。しばらくして、いつの間にか闇しか見えなくなった。
客は押し黙り、隙間風が不気味な口笛を立てる。車内は天井から下げたロウソクで照らされていたが、突然ロウソクが必要ないくらいに、明るくなった。汽車が減速し始めた。
轟音を放ち停車。駅が他にもあったことに驚いた。汽車に乗り合わせたのは、長い髪の女性と、五歳ぐらいの紺色の髪の男の子。どちらも死人ではない。
黒いコウモリの羽、黒い爪、耳は尖っている。目が合うと、男の子は笑顔で、俺に手を振った。
(悪魔め)
睨みつけると、男の子は笑顔で向かいの席に座る。汽車が発車する。
「こらアグル。爪で何をしているの」
母親らしき女の悪魔が人間のように子供を叱る。
アグルという男の子は爪で窓を引っかいている。耳障りな音が高く響く。
「爪を研いでるんだよ。ママ見てて。今からいいものをプレゼントしてあげる」と、アグルは俺を見てクスクス笑うのだった。
なおも、睨み続けていると、木で床を叩くような足音がした。前から骸骨が歩いてきた。骸骨は肩から黒い鞄をかけているだけの格好で、アグルと母親の前で止まる。
アグルの母は無表情で、黒いコインを三枚、骸骨に渡す。それと引き換えに、鞄から手渡された切符を手に取る。
骸骨は俺の前にもやってきた。
「これでいいのか?」
魔界行きの汽車にも秩序があるのかと意外に思いながら、とりあえず銅貨を手渡した。骸骨は入念にお金を調べ始めた。その様子をずっと見ていたアグルが笑い声を漏らす。
「ダメだよ。そんなお金」
「何だと?」
アグルを睨みつけると、アグルが口を開ける。後ろ後ろと指を指す。骸骨がお金を握りつぶした。明らかな殺気。手には包丁。上から振り下ろされる。
「くっ」
身を床まで、落として避けた。包丁は深々と座席に刺さった。
「ちょっと本気でやらないでよ! 僕の獲物だよ! ママにあげるんだから!」
薄暗い洞窟とも言えるトンネルで、レイドがつぶやくと声が反響する。
「確かここのはず」
奥へ行けば行くほど、足元に転がっている岩が道を悪くするが、俺の街には懐中電灯とよばれる、持ち歩きできる灯りがあるので、あまり困らない。問題はいつまで経っても目的の駅に着けないことだ。
もう何キロメートルも歩いたと思われた頃、コウモリが天井にたむろしている開けた空間に出た。
「ここか?」
足元に大きな溝。岩肌から加工されているのが一目で分かる。その中に線路が引かれている。線路に降り立とうかと迷っていると、岩陰から眩しい光が漏れてきた。灯りが近づいてくる。
金属が擦れあう嫌な音がする。いきなり天を割るような轟音に変わる。黒い煙が押し寄せてきた。思わず目を覆った瞬間、足元に地響きが走る。
よろけそうになって、踏みとどまると、目の前を黒い物体が走り抜けているのが見えた。黒煙と砂埃で、むせてしまう。
汽車。黒く重圧感のある車体が、コウモリを追い払い、洞窟に到着した。ススだらけになっていた俺は一時呆然としていた。しかし、嫌なものを感じる。汽車を取り巻く黒いオーラが見てとれた。
「イーヴルで動く汽車か」
普段なら、十字架の剣で叩き斬っているところだが、今日は見逃してやるよ。これに乗らなければ魔界に行けないのだから。
発車を知らせる低音の汽笛とともに、足早に乗り込む。中には客らしき血の気のない人々が数人。
(乗客は死人だけか。全く気味悪い汽車だな)
汽車が走り出した。下へ下へと魔界に向かって下っていく。外に見えるのは岩だけだった。しばらくして、いつの間にか闇しか見えなくなった。
客は押し黙り、隙間風が不気味な口笛を立てる。車内は天井から下げたロウソクで照らされていたが、突然ロウソクが必要ないくらいに、明るくなった。汽車が減速し始めた。
轟音を放ち停車。駅が他にもあったことに驚いた。汽車に乗り合わせたのは、長い髪の女性と、五歳ぐらいの紺色の髪の男の子。どちらも死人ではない。
黒いコウモリの羽、黒い爪、耳は尖っている。目が合うと、男の子は笑顔で、俺に手を振った。
(悪魔め)
睨みつけると、男の子は笑顔で向かいの席に座る。汽車が発車する。
「こらアグル。爪で何をしているの」
母親らしき女の悪魔が人間のように子供を叱る。
アグルという男の子は爪で窓を引っかいている。耳障りな音が高く響く。
「爪を研いでるんだよ。ママ見てて。今からいいものをプレゼントしてあげる」と、アグルは俺を見てクスクス笑うのだった。
なおも、睨み続けていると、木で床を叩くような足音がした。前から骸骨が歩いてきた。骸骨は肩から黒い鞄をかけているだけの格好で、アグルと母親の前で止まる。
アグルの母は無表情で、黒いコインを三枚、骸骨に渡す。それと引き換えに、鞄から手渡された切符を手に取る。
骸骨は俺の前にもやってきた。
「これでいいのか?」
魔界行きの汽車にも秩序があるのかと意外に思いながら、とりあえず銅貨を手渡した。骸骨は入念にお金を調べ始めた。その様子をずっと見ていたアグルが笑い声を漏らす。
「ダメだよ。そんなお金」
「何だと?」
アグルを睨みつけると、アグルが口を開ける。後ろ後ろと指を指す。骸骨がお金を握りつぶした。明らかな殺気。手には包丁。上から振り下ろされる。
「くっ」
身を床まで、落として避けた。包丁は深々と座席に刺さった。
「ちょっと本気でやらないでよ! 僕の獲物だよ! ママにあげるんだから!」