35.盗賊
文字数 2,083文字
うなされて目が覚めた。また赤い大地と液体の夢だ。夜眠れなかったので、昼のつかの間の休息時に眠ってしまったようだ。グッデに起こしてもらえてよかった。
今日の夢はいつもよりひどかった。それに変な気分も感じた。あの赤い液は、ただの液体じゃなく、血で、しかもそれを、いつもは恐れていたのに、今日は違ったのだ。血が足下に広がっていく時、我を忘れる程あの血が、すばらしく美しく見えたのだ。
でもあの衝動は本物だったのが恐ろしい。グッデが心配して、水を飲まそうとしてくれたが、今は何も受けつけなかった。
「今日は何を見たんだ?」
グッデが本当に心配してくれる。でも口を割る気は起こりそうにない。
夢のことは一つも話さなかった。きっとこの前、悪魔と戦った時に飲んだ薬のせいだ。
でも、同じ薬を飲んで、グッデは平気だ。薬のことを言おうとしても、そのことが返って変に思われそうで言い出せなかった。
気を使って歩いてもらったせいで、マストルンベという町に着いたのは夕方になった。今まで見た町の中で一番賑やかだった。人口が多いせいだろう。町に入ると、橋が三つあった。その三つ目にさしかかった時だ、前から黒装束の少年が歩いてきた。
見覚えのある顔だった。でも人混みでよく分からない。向こうもこっちに気づいた。横をすれ違ったとき、お互い誰か分かった。悪魔祓い師のレイド・オーカスティクだ。
「あのむかつくやつ!」
グッデがわざと聞こえるように通り過ぎたときに言ったので、レイドは不機嫌だった。
「お前ら何でこの町にいる?」
「お前こそなんでここにいんだよ」
グッデの質問には答えずに何故か僕を見てくる。まるでグッデには興味を持っていない、というような態度ではないか。職業柄なのか、ただ単にそういう性格なのか。
「たまたま寄ったんだ。レイドは何で?」
レイドは以前と変わらずそっけなかった。
「旅をしてるって言えば分かるだろ」
歩いて行った。
「何だよあいつ」グッデが口をとがらす。その顔に紙が飛んできて当たった。
「号外だよ!」前を男の子が駆け抜けた。紙には一面でかでかと写真があった。
横向きで写っている精悍な顔はレイドだ! 見出しは、悪魔祓い師対盗賊!
「なになに、ここ数日、突如現れた盗賊集団に悩まされていた我が町の町長は、出身地不明の悪魔祓い師に盗賊退治を依頼。
その悪魔祓い師はまだ未成年でありながら、今朝九時二十三分頃、人にまぎれていた悪魔を一瞬にして消し去ることをやってのけたことから、町長は依頼に踏み切ったらしい。だってよ。ほんとか?」
レイドのことが取り立てられている記事がおもしろくないとグッデが不満そうな顔で読み上げた。
「おい、でも大丈夫か?」号外を見た周りの人達が口々に言った。
「盗賊って盗みより、殺しの方に力入れてるって噂じゃないか」と、ある男。
「町長も焦ってんだよ。だって何人殺されてんのさ。二十八人だよ。よそ様から来たもんを使うしかないって思ったんだろうよ」と、ある女。
心配になってきた。
「僕達に何かできないかな」
「おいおい、相手は盗賊だぞ! それに何で、おれ達があいつを助けないといけないんだよ」
正直、もう怖い思いはたくさんだ。でも、盗賊って一人じゃないはずだ。いくらレイドでも、一人で相手にできるはずがない。
「でも借りがある。そうだろ?」
「いや、借りはあるけどなぁ」グッデがうなった。
「盗賊だぞ? あいつに任せとこうぜ」
「様子を見るだけにしたら?」
グッデがいい考えが浮かんだらしく、顔をにやつかせる。
「つまり、あいつがピンチになったところを、おれが助けるってことか。何てかっこいいおれ様!」
「行くだけ行こうよ。もしかしたら、レイド一人で勝つかもしれないし」
幸いレイドを目撃した人が多かったので、すぐに追いついた。こっそり気づかれないようについて行った。しかし、見ていて変だ。本当に盗賊を倒しに行くのか? 武器らしい武器を持っているようには見えない。いつもつけている十字架のネックレスでやるのだろうか?
レイドが突然立ち止まった。慌てて木の陰に退却した。ここから私語は厳禁だ。レイドに気づかれたかもしれない。しかしレイドは近くの石の上に座り込んだ。何をするのかと見ていると、落ちている枝を集めて、たき火を始めた。
「あいつやる気あんのか!」
とっさにグッデの口を押さえた。レイドがこっちを見た。危ない危ない。でもすぐレイドは視線をたき火の煙に置いた。
煙は高く上がっていく。そのまま何十分も過ぎた。いい加減レイドが動いてくれてもいいのに、動かない。そろそろこっちも疲れてきた。何がしたいのだろう。
レイドと同じように煙を見た。ずいぶん高くまで上がっている。盗賊が来るのを待っているようだ。やっと理解できた。煙で人がいることを教えているのだ。
後ろで小石を踏むような音がした。レイドから目を離したら、手が四つか六つ出てきた。口をふさがれた。男が飛び乗ってきた。グッデが既に捕まっている。そろって仲良く縛られた。不覚にも、一網打尽だ。
今日の夢はいつもよりひどかった。それに変な気分も感じた。あの赤い液は、ただの液体じゃなく、血で、しかもそれを、いつもは恐れていたのに、今日は違ったのだ。血が足下に広がっていく時、我を忘れる程あの血が、すばらしく美しく見えたのだ。
でもあの衝動は本物だったのが恐ろしい。グッデが心配して、水を飲まそうとしてくれたが、今は何も受けつけなかった。
「今日は何を見たんだ?」
グッデが本当に心配してくれる。でも口を割る気は起こりそうにない。
夢のことは一つも話さなかった。きっとこの前、悪魔と戦った時に飲んだ薬のせいだ。
でも、同じ薬を飲んで、グッデは平気だ。薬のことを言おうとしても、そのことが返って変に思われそうで言い出せなかった。
気を使って歩いてもらったせいで、マストルンベという町に着いたのは夕方になった。今まで見た町の中で一番賑やかだった。人口が多いせいだろう。町に入ると、橋が三つあった。その三つ目にさしかかった時だ、前から黒装束の少年が歩いてきた。
見覚えのある顔だった。でも人混みでよく分からない。向こうもこっちに気づいた。横をすれ違ったとき、お互い誰か分かった。悪魔祓い師のレイド・オーカスティクだ。
「あのむかつくやつ!」
グッデがわざと聞こえるように通り過ぎたときに言ったので、レイドは不機嫌だった。
「お前ら何でこの町にいる?」
「お前こそなんでここにいんだよ」
グッデの質問には答えずに何故か僕を見てくる。まるでグッデには興味を持っていない、というような態度ではないか。職業柄なのか、ただ単にそういう性格なのか。
「たまたま寄ったんだ。レイドは何で?」
レイドは以前と変わらずそっけなかった。
「旅をしてるって言えば分かるだろ」
歩いて行った。
「何だよあいつ」グッデが口をとがらす。その顔に紙が飛んできて当たった。
「号外だよ!」前を男の子が駆け抜けた。紙には一面でかでかと写真があった。
横向きで写っている精悍な顔はレイドだ! 見出しは、悪魔祓い師対盗賊!
「なになに、ここ数日、突如現れた盗賊集団に悩まされていた我が町の町長は、出身地不明の悪魔祓い師に盗賊退治を依頼。
その悪魔祓い師はまだ未成年でありながら、今朝九時二十三分頃、人にまぎれていた悪魔を一瞬にして消し去ることをやってのけたことから、町長は依頼に踏み切ったらしい。だってよ。ほんとか?」
レイドのことが取り立てられている記事がおもしろくないとグッデが不満そうな顔で読み上げた。
「おい、でも大丈夫か?」号外を見た周りの人達が口々に言った。
「盗賊って盗みより、殺しの方に力入れてるって噂じゃないか」と、ある男。
「町長も焦ってんだよ。だって何人殺されてんのさ。二十八人だよ。よそ様から来たもんを使うしかないって思ったんだろうよ」と、ある女。
心配になってきた。
「僕達に何かできないかな」
「おいおい、相手は盗賊だぞ! それに何で、おれ達があいつを助けないといけないんだよ」
正直、もう怖い思いはたくさんだ。でも、盗賊って一人じゃないはずだ。いくらレイドでも、一人で相手にできるはずがない。
「でも借りがある。そうだろ?」
「いや、借りはあるけどなぁ」グッデがうなった。
「盗賊だぞ? あいつに任せとこうぜ」
「様子を見るだけにしたら?」
グッデがいい考えが浮かんだらしく、顔をにやつかせる。
「つまり、あいつがピンチになったところを、おれが助けるってことか。何てかっこいいおれ様!」
「行くだけ行こうよ。もしかしたら、レイド一人で勝つかもしれないし」
幸いレイドを目撃した人が多かったので、すぐに追いついた。こっそり気づかれないようについて行った。しかし、見ていて変だ。本当に盗賊を倒しに行くのか? 武器らしい武器を持っているようには見えない。いつもつけている十字架のネックレスでやるのだろうか?
レイドが突然立ち止まった。慌てて木の陰に退却した。ここから私語は厳禁だ。レイドに気づかれたかもしれない。しかしレイドは近くの石の上に座り込んだ。何をするのかと見ていると、落ちている枝を集めて、たき火を始めた。
「あいつやる気あんのか!」
とっさにグッデの口を押さえた。レイドがこっちを見た。危ない危ない。でもすぐレイドは視線をたき火の煙に置いた。
煙は高く上がっていく。そのまま何十分も過ぎた。いい加減レイドが動いてくれてもいいのに、動かない。そろそろこっちも疲れてきた。何がしたいのだろう。
レイドと同じように煙を見た。ずいぶん高くまで上がっている。盗賊が来るのを待っているようだ。やっと理解できた。煙で人がいることを教えているのだ。
後ろで小石を踏むような音がした。レイドから目を離したら、手が四つか六つ出てきた。口をふさがれた。男が飛び乗ってきた。グッデが既に捕まっている。そろって仲良く縛られた。不覚にも、一網打尽だ。