152.吸血鬼
文字数 1,460文字
「緊張しすぎるな。よけられるものも動けなくなる」
ディスの指示が心強い。張り詰める空気が軽くなる。そう感じたとき、ジークが視界から消えた。ディスに答えを求めようとしたら、横だ! と、声がする。注意をやるより早く、痛みが突き刺さる。さっきより数段動きが速い!
「戦うのはお前一人だ。ディスに従ったところで、何も変わらない」
薄笑いを浮かべたジークの腕から見覚えのある黒い鎖が実体化して出てきた。逃れようとすると、絡まる。
「まずいぞ。魔王の力を使ってやがる」
ディスの言いたいことは分からないが、解こうとすれば絡まる脈打つ血管は知っている。ゲリーが使った悪魔魔術、拘束の血だ。悪魔魔術に同じものはない。だのになぜジークは使えるのか? とにかく、心を無にする無魔 の術に取りかかる。できない。何も考えていないはずなのに、解けない。
「ハハハハ、見覚えはあるが解けない、だろ? ご存知ゲリーと同じ魔術だが、欠点のある術をそのままオレが使うと思うか?」
弱点はないのか。見る間もなく、両腕が縛られる。
「魔王の特権だ。他者の能力、魔術も習得できる」
苦々しげにディスが説明してくれた。
「魔術には魔術、影流 だ」
こうなったらディスの魔術を全部借りるつもりで戦おう。風と水になれば、血管の網に捕まることもない。ジークの後ろに回る。
「そうはいかないぜ」
先読みをされていた。液状から戻った身体に待ち構えていたのは、無数の鎖。上と左右からしなる。
「なめるな!」
これぐらいでひるんでいられない。そのまま直進し、裂く。これが意表をついた。ジークの胸に数本の傷を走らせた。ジークは悲鳴をあげさえしないが、その場で固まる。直後、僕を鎖の鞭が襲う。三度も浴び、斬りつけられた。
お互い闇色の血が滴っている。これで死んでくれるといいが、傷は共に浅い。
ジークの狂った笑い。ますます頭がいかれたか?
とんでもない拳を食らった。血を吐いただけでなく、部屋の壁に叩きつけられる。身動きができなくて、壁に埋まっていることに気づいた。意識が危うい。壁から這い出ると、荒い息をするジークに出会った。苦しそうではなく、歓喜している。こちらの目がおかしくなければ、ジークの焦点がわずかにずれている。
「捕まえた」
鬼ごっこで勝ったような、無邪気な声。覆いかぶさるジークの髪。
逃げろと叫ぶディスの声と同時に、両腕をつかまれる。首に針のような痛みが刺さり、一気に激痛に倍増する。悪夢であるのに叫ぶことができない。
無意識に何も感じたくないと、無魔 の術をしていた。
それでも恐ろしい音が聞こえる。激しく上下するジークの喉仏が、繰り返し喉を鳴らす。
ジークが僕の血を飲んでいる。気が変になりそうだ。仮にも、理性ある同種族を食らうことなどあるのか? いや、それができるのだ。ジークの考えが読める。極めて原始的な考えだ。弱肉強食としか考えていないのだろう。やはりこいつは獣だ!
「悪魔魔術、吸血鬼」
口の周りにこびりついた血を舐めて、ジークが気品を添えて微笑む。僕の血はいつの間にか赤色に戻っていたが、喜びが湧いてこない。飲み物と化した血から視点が動かない。
「いい味してるぜ。オレを傷つけた罰だ」
血を飲まれただけではなさそうだ。膝から力が抜ける。危うく転びそうになる。ジークを見上げると、さっき胸につけた傷が、またしても塞がっていくところだった。
「嘘だろ」
「おしかったな。何度オレを傷つけても、お前の血さえあれば元通りだ。ディスも少しは大人しくなっただろう」
ディスの指示が心強い。張り詰める空気が軽くなる。そう感じたとき、ジークが視界から消えた。ディスに答えを求めようとしたら、横だ! と、声がする。注意をやるより早く、痛みが突き刺さる。さっきより数段動きが速い!
「戦うのはお前一人だ。ディスに従ったところで、何も変わらない」
薄笑いを浮かべたジークの腕から見覚えのある黒い鎖が実体化して出てきた。逃れようとすると、絡まる。
「まずいぞ。魔王の力を使ってやがる」
ディスの言いたいことは分からないが、解こうとすれば絡まる脈打つ血管は知っている。ゲリーが使った悪魔魔術、拘束の血だ。悪魔魔術に同じものはない。だのになぜジークは使えるのか? とにかく、心を無にする
「ハハハハ、見覚えはあるが解けない、だろ? ご存知ゲリーと同じ魔術だが、欠点のある術をそのままオレが使うと思うか?」
弱点はないのか。見る間もなく、両腕が縛られる。
「魔王の特権だ。他者の能力、魔術も習得できる」
苦々しげにディスが説明してくれた。
「魔術には魔術、
こうなったらディスの魔術を全部借りるつもりで戦おう。風と水になれば、血管の網に捕まることもない。ジークの後ろに回る。
「そうはいかないぜ」
先読みをされていた。液状から戻った身体に待ち構えていたのは、無数の鎖。上と左右からしなる。
「なめるな!」
これぐらいでひるんでいられない。そのまま直進し、裂く。これが意表をついた。ジークの胸に数本の傷を走らせた。ジークは悲鳴をあげさえしないが、その場で固まる。直後、僕を鎖の鞭が襲う。三度も浴び、斬りつけられた。
お互い闇色の血が滴っている。これで死んでくれるといいが、傷は共に浅い。
ジークの狂った笑い。ますます頭がいかれたか?
とんでもない拳を食らった。血を吐いただけでなく、部屋の壁に叩きつけられる。身動きができなくて、壁に埋まっていることに気づいた。意識が危うい。壁から這い出ると、荒い息をするジークに出会った。苦しそうではなく、歓喜している。こちらの目がおかしくなければ、ジークの焦点がわずかにずれている。
「捕まえた」
鬼ごっこで勝ったような、無邪気な声。覆いかぶさるジークの髪。
逃げろと叫ぶディスの声と同時に、両腕をつかまれる。首に針のような痛みが刺さり、一気に激痛に倍増する。悪夢であるのに叫ぶことができない。
無意識に何も感じたくないと、
それでも恐ろしい音が聞こえる。激しく上下するジークの喉仏が、繰り返し喉を鳴らす。
ジークが僕の血を飲んでいる。気が変になりそうだ。仮にも、理性ある同種族を食らうことなどあるのか? いや、それができるのだ。ジークの考えが読める。極めて原始的な考えだ。弱肉強食としか考えていないのだろう。やはりこいつは獣だ!
「悪魔魔術、吸血鬼」
口の周りにこびりついた血を舐めて、ジークが気品を添えて微笑む。僕の血はいつの間にか赤色に戻っていたが、喜びが湧いてこない。飲み物と化した血から視点が動かない。
「いい味してるぜ。オレを傷つけた罰だ」
血を飲まれただけではなさそうだ。膝から力が抜ける。危うく転びそうになる。ジークを見上げると、さっき胸につけた傷が、またしても塞がっていくところだった。
「嘘だろ」
「おしかったな。何度オレを傷つけても、お前の血さえあれば元通りだ。ディスも少しは大人しくなっただろう」