61.親子
文字数 1,670文字
レイドはうっすらと目を開けた。古びた天井が目に入った。見覚えがない。そういえば最後に自分は何をしていたのだろうかと考えて、バレとの一件を思い出し、飛び起きた。
すると、激しい痛みが走った。一瞬顔をしかめたが、それでもベットから抜け出した。古びた部屋だが、病院のようだ。
一体誰に連れてこられた? と疑問を抱く。用心して部屋を出ると、いきなり医者らしき人物にぶつかった。傷に響いたのを何食わぬ顔をして見せる。
「君。まだ歩けるような状態じゃないはずですよ?」
俺は怒りを胸に問いただした。
「誰が俺をここに?」
医者はいいから早く部屋で寝ていなさいと厳格に命令してくるが関係ない。
「誰が連れてきた!」
医者は剣幕に負けた。
「確か緑っぽい、いや青かな? 珍しい髪の色をした青年だったよ」
(悪魔か? あいつ他の悪魔と合流したのか?)
「他には誰かいなかったか?」
「いたな。赤毛の男の子だ。それが何か?」
(あいつ! 何を考えてるのか知らないが、後悔させてやる)
俺はそのまま医者を押しのけて病院を足早に出て行く。全く、どいつもこいつも頭に来る。病院の外ののどかな平野がしゃくに障る。
悪魔を取り逃がしただけでなく、以前から何度も出会っていて気づかないなど、許されない! 足の爪先に触れた落ち葉を踏み散らし、町を出る。しかし、どこに行こう。
元々目的地などない旅だ。悪魔のいる場所に行くだけの旅。しかし、バレ・シューベルトがどこにいるのか分からない。もう、何日も眠っていたような気もするので、一度頭を冷やさなければ。
そう思って、あまり弾まない足取りでやってきたのは、大都会の空を走る道路、高速道路と呼ばれる乗り物専用の道が縦横無尽に町中を走る発展した国だ。
あまりに発展しているため、周辺国からは恐れられており戦争はもう二百年起きていない。夕日のこぼれ日が高層マンションの一画に差し込んでいる。俺は眩しくて反射する太陽を睨みつける。
無言でマンションの一室に入ると、懐かしい清らかな香りが漂ってくる。
「何しに帰って来たの? レイド」
奥の広い書斎から、母さんの冷めた声が響く。机に向かって仕事をしているにちがいない。
「自分の家に帰ってきたら悪いのか?」
案の定、微笑んだ母さんは机に向かっていた。どちらかというと嘲笑うような笑みを浮かべて。
「珍しいわね。怪我してるんじゃない?」
隠していたはずの包帯がコートからはみ出していた。
「母さんには関係ないだろ!?」
母さんの前だと、頬が火照りだす。それを必死に睨みつけて隠す。
「ええ。でもあなたを追って悪魔がこの町に来られたら困るわ」と言った母さんの目は鋭い。
「相手は誰?」
「母さんも悪魔を気にするようになったのか?」
「四大政師 の仕事には、悪魔だって関わることはあるわ」
母さんは水、月夜の要姫 なんて滑稽な名前を名乗っている。
一応この国の姫なのだが、弱小国の掟の制定や、治安維持など他国にまで手を伸ばしているのは国が平和主義国家で中立な国だからだ。
直感のようなものが俺の脳裏をかすめた。
「バレ・シューベルトを知ってるのか?」
「あなたも会ったのね」母さんは驚いた様子はない。
「いつ会ったんだ!」
「何ヶ月も前よ。追ってもよかったんだけど、やめたわ」
「何で!」
「シューベルトにはチャンスをあげたの。まだ意思があった」
「意思? あいつは始めから正体を隠してたんだ。俺を騙し、人を殺した」
母さんが、みすみす悪魔を逃がしていたことが信じられなかった。物事には冷ややかに対処するが、根は、正義感の強い人なのだから。
「これからどうするの? あいつを追うのはいいけど、私は手伝わないわよ」
「悪魔が定期的に集まるのは魔界だ」
「勝手にしなさい」
「ああ。止めないのか?」
母さんは俺とそっくりな冷笑をする。
「あいつには何かあるわ。まだ私にも分からないけど」
「そうかよ。でも俺は、あいつを殺すから」
俺はさっさと本棚に向かった。おおまかに地図を見て場所を頭に叩き入れた。
すると、激しい痛みが走った。一瞬顔をしかめたが、それでもベットから抜け出した。古びた部屋だが、病院のようだ。
一体誰に連れてこられた? と疑問を抱く。用心して部屋を出ると、いきなり医者らしき人物にぶつかった。傷に響いたのを何食わぬ顔をして見せる。
「君。まだ歩けるような状態じゃないはずですよ?」
俺は怒りを胸に問いただした。
「誰が俺をここに?」
医者はいいから早く部屋で寝ていなさいと厳格に命令してくるが関係ない。
「誰が連れてきた!」
医者は剣幕に負けた。
「確か緑っぽい、いや青かな? 珍しい髪の色をした青年だったよ」
(悪魔か? あいつ他の悪魔と合流したのか?)
「他には誰かいなかったか?」
「いたな。赤毛の男の子だ。それが何か?」
(あいつ! 何を考えてるのか知らないが、後悔させてやる)
俺はそのまま医者を押しのけて病院を足早に出て行く。全く、どいつもこいつも頭に来る。病院の外ののどかな平野がしゃくに障る。
悪魔を取り逃がしただけでなく、以前から何度も出会っていて気づかないなど、許されない! 足の爪先に触れた落ち葉を踏み散らし、町を出る。しかし、どこに行こう。
元々目的地などない旅だ。悪魔のいる場所に行くだけの旅。しかし、バレ・シューベルトがどこにいるのか分からない。もう、何日も眠っていたような気もするので、一度頭を冷やさなければ。
そう思って、あまり弾まない足取りでやってきたのは、大都会の空を走る道路、高速道路と呼ばれる乗り物専用の道が縦横無尽に町中を走る発展した国だ。
あまりに発展しているため、周辺国からは恐れられており戦争はもう二百年起きていない。夕日のこぼれ日が高層マンションの一画に差し込んでいる。俺は眩しくて反射する太陽を睨みつける。
無言でマンションの一室に入ると、懐かしい清らかな香りが漂ってくる。
「何しに帰って来たの? レイド」
奥の広い書斎から、母さんの冷めた声が響く。机に向かって仕事をしているにちがいない。
「自分の家に帰ってきたら悪いのか?」
案の定、微笑んだ母さんは机に向かっていた。どちらかというと嘲笑うような笑みを浮かべて。
「珍しいわね。怪我してるんじゃない?」
隠していたはずの包帯がコートからはみ出していた。
「母さんには関係ないだろ!?」
母さんの前だと、頬が火照りだす。それを必死に睨みつけて隠す。
「ええ。でもあなたを追って悪魔がこの町に来られたら困るわ」と言った母さんの目は鋭い。
「相手は誰?」
「母さんも悪魔を気にするようになったのか?」
「
母さんは水、月夜の
一応この国の姫なのだが、弱小国の掟の制定や、治安維持など他国にまで手を伸ばしているのは国が平和主義国家で中立な国だからだ。
直感のようなものが俺の脳裏をかすめた。
「バレ・シューベルトを知ってるのか?」
「あなたも会ったのね」母さんは驚いた様子はない。
「いつ会ったんだ!」
「何ヶ月も前よ。追ってもよかったんだけど、やめたわ」
「何で!」
「シューベルトにはチャンスをあげたの。まだ意思があった」
「意思? あいつは始めから正体を隠してたんだ。俺を騙し、人を殺した」
母さんが、みすみす悪魔を逃がしていたことが信じられなかった。物事には冷ややかに対処するが、根は、正義感の強い人なのだから。
「これからどうするの? あいつを追うのはいいけど、私は手伝わないわよ」
「悪魔が定期的に集まるのは魔界だ」
「勝手にしなさい」
「ああ。止めないのか?」
母さんは俺とそっくりな冷笑をする。
「あいつには何かあるわ。まだ私にも分からないけど」
「そうかよ。でも俺は、あいつを殺すから」
俺はさっさと本棚に向かった。おおまかに地図を見て場所を頭に叩き入れた。