153.獄邪
文字数 1,404文字
ディスにも何かやらかしたのか? 慌てて心の中のディスに呼びかける。返事がない。ディスにも影響が出るのか。
「お前の思ってる通りだぜ。お前の体内にディグズリーの毒を流し込んだ。続きを始めようか。なーに、毒の回りは遅い。悪あがきする時間ぐらいある。楽しもうぜ」
ジークの見せた牙から毒らしき液体が滴る。ディスと会話ができない上、めまいと吐き気がしてきた。戦況は一気に不利になった。ジークが離れていく。
ある程度、毒が回るのを待つつもりか。それとも、楽しみたいだけか。そこが命取りだ。いくらでもチャンスを与えたことを後悔させてやる。
「悪魔魔術」
閃かない。他にどんな技があっただろうか。聞きだしたいところだが、一向にディスは沈黙している。
突進すると、軽やかに飛び越えられる。背中を蹴られた。前に体が回転して倒れそうになる。手をついて向きを変え、足蹴りをかます。また、軽いジャンプで逃げられる。疲れるまで動かすつもりか?
このままだとまずい、足に痺れが走る。何もせずにやられるよりは戦って死にたい。
爪、蹴り、何でもやる。途中、もたついて倒れそうになる。よけてばかりいたジークがチャンスとばかりに前に飛び出してくる。だが、転ばなかった。誰かが支えてくれた。
感覚がそう告げる。ディスだ。返事はないが、確かにディスだ。きっと、無意識に動く体の一部は、ディスのものだ。これならいける。言葉にならなくても、お互いに感じるのだ。
ジークが繰り出した腕より早く、軽やかになった爪が切り裂く。さすがジークというべきか急所は外された。だが、眉間には怒りでできたしわが寄る。
「バレ。また血を吸って欲しいのか?」
声が一オクターブ低くなっている。楽しんでいる声ではない。もう楽しませてやらない。
「吸えるもんならね」
稲妻のごとくジークの瞳孔が割れる。背中をかがめて走ってくる。早い、もう目の前だ。鋭い突きが襲う。爪がどこから来るか分からない。
一つずつ受け流しても、次々に繰り出される猛攻撃だ。後ろに押される。腕が裂け、肩が裂け、これ以上は限界だ。風と水の膜を作るように溶け込んで影流する。これで離れられる。
「その術、待ってたぜ」
ジークが消えた。怒りに身を任せて攻撃していたのではなかった。演技だとでもいうのか。流れ着いた先に影が見える。ジークを水と風が取り巻いて渦巻いている。
信じられない。ついさっき身に着けたディスの術を真似された。それも、どこに流れ着くか予想をし、先に着いている。
もう一度流れるしかない。いや、それはできないと、流れる体が教えている。この術は行き先に着いてからでないと次の行動に移れない。
すでに鋭い爪が用意されていた。体が形を成した瞬間、腹部に太刀が入る。焼けつく痛み。膝をつきそうになる。ここで倒れて、血を奪われるわけにはいかない。
もう一度、影流 して距離を離した。爪に残った血を、ジークが美味しそうに舐めている。一撃で仕留めるつもりはないのだ。このまま無駄な抵抗に終わるのか。いや、無駄にしてたまるか。
声が届いたのか。頭の中にディスの声が戻ってきた。
「まだ負けてない。そうだなバレ? いくぞ、俺達の最高の悪魔魔術」
自分の口がディスに合わせて動き始める。
「獄邪 !」
床から真っ赤に染まった鎖が噴火のごとく立ち昇った。ジークに降り注ぐそれは、赤い雪崩のようだ。
「親父を殺 った術か」
「お前の思ってる通りだぜ。お前の体内にディグズリーの毒を流し込んだ。続きを始めようか。なーに、毒の回りは遅い。悪あがきする時間ぐらいある。楽しもうぜ」
ジークの見せた牙から毒らしき液体が滴る。ディスと会話ができない上、めまいと吐き気がしてきた。戦況は一気に不利になった。ジークが離れていく。
ある程度、毒が回るのを待つつもりか。それとも、楽しみたいだけか。そこが命取りだ。いくらでもチャンスを与えたことを後悔させてやる。
「悪魔魔術」
閃かない。他にどんな技があっただろうか。聞きだしたいところだが、一向にディスは沈黙している。
突進すると、軽やかに飛び越えられる。背中を蹴られた。前に体が回転して倒れそうになる。手をついて向きを変え、足蹴りをかます。また、軽いジャンプで逃げられる。疲れるまで動かすつもりか?
このままだとまずい、足に痺れが走る。何もせずにやられるよりは戦って死にたい。
爪、蹴り、何でもやる。途中、もたついて倒れそうになる。よけてばかりいたジークがチャンスとばかりに前に飛び出してくる。だが、転ばなかった。誰かが支えてくれた。
感覚がそう告げる。ディスだ。返事はないが、確かにディスだ。きっと、無意識に動く体の一部は、ディスのものだ。これならいける。言葉にならなくても、お互いに感じるのだ。
ジークが繰り出した腕より早く、軽やかになった爪が切り裂く。さすがジークというべきか急所は外された。だが、眉間には怒りでできたしわが寄る。
「バレ。また血を吸って欲しいのか?」
声が一オクターブ低くなっている。楽しんでいる声ではない。もう楽しませてやらない。
「吸えるもんならね」
稲妻のごとくジークの瞳孔が割れる。背中をかがめて走ってくる。早い、もう目の前だ。鋭い突きが襲う。爪がどこから来るか分からない。
一つずつ受け流しても、次々に繰り出される猛攻撃だ。後ろに押される。腕が裂け、肩が裂け、これ以上は限界だ。風と水の膜を作るように溶け込んで影流する。これで離れられる。
「その術、待ってたぜ」
ジークが消えた。怒りに身を任せて攻撃していたのではなかった。演技だとでもいうのか。流れ着いた先に影が見える。ジークを水と風が取り巻いて渦巻いている。
信じられない。ついさっき身に着けたディスの術を真似された。それも、どこに流れ着くか予想をし、先に着いている。
もう一度流れるしかない。いや、それはできないと、流れる体が教えている。この術は行き先に着いてからでないと次の行動に移れない。
すでに鋭い爪が用意されていた。体が形を成した瞬間、腹部に太刀が入る。焼けつく痛み。膝をつきそうになる。ここで倒れて、血を奪われるわけにはいかない。
もう一度、
声が届いたのか。頭の中にディスの声が戻ってきた。
「まだ負けてない。そうだなバレ? いくぞ、俺達の最高の悪魔魔術」
自分の口がディスに合わせて動き始める。
「
床から真っ赤に染まった鎖が噴火のごとく立ち昇った。ジークに降り注ぐそれは、赤い雪崩のようだ。
「親父を