155.犯したミス
文字数 1,259文字
「自分が召喚した魔物にやられる気分はどうだ?」
魔王となった今、ジークは何でも従えてしまうのか? ざっと三十本はある歯をよけるのにも限界がある。刃の雨が再び降り出した。
「友達はどうする? ジークの前で死んでやることはない。影流 なら、この城を出られる」
激しくむせながらディスがうめく。だがまともに聞き入っていられない。振り払って、ないで、斬っても肩に、脇に、腰にと、歯が、その破片が突き刺さっていく。
「どうせ死ぬなら、あいつを一発殴る!」
苦しげだがはるかに明るい笑いがする。
「つき合おう。俺もどうかしてたな」
アグルからできるだけ離れる。無差別といっても、やはり狙いは僕だ。
頭蓋骨は無視して攻め入ると、ジークは好戦的に爪を交える。爪が交わる瞬間、胸が痛む。毒か、呪いか? それとも両方か。痛みに顔をしかめていると、空から歯が降ってくる。
ジークが鎖をしならせる。どっちをよける? そうジークは問いかけてくる。
手一杯だというのに、この男は弱みばかりにつけ込む。影流 で一時をしのぐ。結果は見えた。術が解けた瞬間、歯の雨と、鎖の鞭が体に打ち込まれる。熱い。体中の傷口が熱を放っていく。足が今にもくじけそうになる。膝の震えが止まらない。一歩下がるのも容易ではない。足を引きずると、血糊が床にこびりつく。
「こっちに来い。もっと斬ってやるよ。よけるんじゃねぇぜ」
笑みを歪めてジークが鎖を振るう。ディスがよけろと叫んでいるが、足が動かない。肩が悲鳴を上げる。ディスが何を言っているのか分からなくなる。痛い。痛みしか感じられない。
わけのわからないことを叫ぶ。ディスが必死に何かを伝えようとしているけれど、耳の奥にこもって分からない。
息をするのが辛い。だが、攻撃は終わらない。蹴りが来る。身構えたけれど間に合わない。凪ぎ倒され、床を滑る。頭が重い。めまいが酷くなる。
今度は、背骨が折れそうになった。再び鎖が襲ったのか。痛みが痛みの感覚を鈍らせている。生きているのか? 死んでいるのか定かでなくなる。
「最期に言い残すことはあるか?」
わざとらしい優しい声と共に、蛇のように鎖が這ってくる。この感覚。
初めてジークと出会ったときこそ恐れを抱いたが、何も怖いものなどないではないか。何も感じられない今、どこか心が穏やかだ。ディスの声も聞こえなくなった。この窮地、どうして冷静でいられるのだろうか。それは、ジークがすぐにとどめを刺さないと分かっているからだ。このまま絞め上げれば早いものを、どうして質問するのだろう?
この答えも分かる。そこがこいつの犯したミスだ。
「悪魔魔術」
「あきれるな。ディスの術は通用しないと、十分分からせてやったはずだぜ」
そう、確かに。頼ってばかりでは駄目なのだ。それは本当の魔術じゃない。
「食らえ!」
突然のできごとに見えたのだろう。鎖は出遅れ、僕の腕に絡みつけない。驚愕の表情のジークが、僕の拳でしかめ顔に変わる。勢いづいて床に横転し、憎しみのこもった顔が露わになる。
「何だと」
魔王となった今、ジークは何でも従えてしまうのか? ざっと三十本はある歯をよけるのにも限界がある。刃の雨が再び降り出した。
「友達はどうする? ジークの前で死んでやることはない。
激しくむせながらディスがうめく。だがまともに聞き入っていられない。振り払って、ないで、斬っても肩に、脇に、腰にと、歯が、その破片が突き刺さっていく。
「どうせ死ぬなら、あいつを一発殴る!」
苦しげだがはるかに明るい笑いがする。
「つき合おう。俺もどうかしてたな」
アグルからできるだけ離れる。無差別といっても、やはり狙いは僕だ。
頭蓋骨は無視して攻め入ると、ジークは好戦的に爪を交える。爪が交わる瞬間、胸が痛む。毒か、呪いか? それとも両方か。痛みに顔をしかめていると、空から歯が降ってくる。
ジークが鎖をしならせる。どっちをよける? そうジークは問いかけてくる。
手一杯だというのに、この男は弱みばかりにつけ込む。
「こっちに来い。もっと斬ってやるよ。よけるんじゃねぇぜ」
笑みを歪めてジークが鎖を振るう。ディスがよけろと叫んでいるが、足が動かない。肩が悲鳴を上げる。ディスが何を言っているのか分からなくなる。痛い。痛みしか感じられない。
わけのわからないことを叫ぶ。ディスが必死に何かを伝えようとしているけれど、耳の奥にこもって分からない。
息をするのが辛い。だが、攻撃は終わらない。蹴りが来る。身構えたけれど間に合わない。凪ぎ倒され、床を滑る。頭が重い。めまいが酷くなる。
今度は、背骨が折れそうになった。再び鎖が襲ったのか。痛みが痛みの感覚を鈍らせている。生きているのか? 死んでいるのか定かでなくなる。
「最期に言い残すことはあるか?」
わざとらしい優しい声と共に、蛇のように鎖が這ってくる。この感覚。
初めてジークと出会ったときこそ恐れを抱いたが、何も怖いものなどないではないか。何も感じられない今、どこか心が穏やかだ。ディスの声も聞こえなくなった。この窮地、どうして冷静でいられるのだろうか。それは、ジークがすぐにとどめを刺さないと分かっているからだ。このまま絞め上げれば早いものを、どうして質問するのだろう?
この答えも分かる。そこがこいつの犯したミスだ。
「悪魔魔術」
「あきれるな。ディスの術は通用しないと、十分分からせてやったはずだぜ」
そう、確かに。頼ってばかりでは駄目なのだ。それは本当の魔術じゃない。
「食らえ!」
突然のできごとに見えたのだろう。鎖は出遅れ、僕の腕に絡みつけない。驚愕の表情のジークが、僕の拳でしかめ顔に変わる。勢いづいて床に横転し、憎しみのこもった顔が露わになる。
「何だと」