75.グッデの夢
文字数 2,099文字
静かになった街を歩いていた。オルザドークやチャスの姿が見えない。どこに行ったんだろうと思いながら歩き続ける。道は暗くてどこまでもまっすぐだ。
建物はハデなものではなくなっている。歩いている感覚がなかった。ひたすら歩き続けても疲れない。遠くで誰かが呼んでいる気がする。このまま行けばきっとグッデに会えると思った。僕は会えることを望んでやまない。
遠くに黒いもやが見える。進むと人の姿がぼうっと見えてきた。向こうもこっちに近づいてくる。顔が見えはじめた。いつの間にか自分の足が止まる。
息を飲むしかなかった。この目は確かか? 金髪の少年が見える。青い目こちらを見ている。思いが頭の中をすごい速さで駆け巡っていく。何かの間違いか? 幻か?
どうしてここに?
少年は目の前まで来ていた。顔は虚ろで、こちらには気づいていない。
「グッデ! グッデ! ねぇ生きてたの?」
グッデは何の反応も示さない。申し訳なくて涙が溢れてくる。グッデがこんな状態になったのは自分のせいだ。
ここに何もないかのようにグッデが通り過ぎた。
「待ってよ! 僕、謝りたいんだ! ごめん。ごめんよグッデ!」
謝って済むことではない。これでは何の解決にもならないと分かりながら、訴えるだけで必死だった。どうかどこにも行かないでと願うだけで精一杯で、何を叫んでいるか分からない。一度に言葉にできないから、涙が止まらなかった。
「待つ? 逃げたのはお前じゃないのか?」
振り向いたグッデの顔に笑みが浮かぶ。グッデではない。グッデの顔は別人に変わる。金色の髪はたちまち変色し、白く伸びる。ニヤリと歯を見せて笑う顔は、忘れられない憎い男だ。
「俺のライブに来るらしいな」
何故こいつが知っているんだ! ジークの取り出した黒い鎖の先端が尖る。あっと思ったときには胸に突き刺さった。
飛び起きた。夢? 今のが夢だというのか? 息が荒く冷や汗もかいている。すぐ隣でチャスが寝息を立てているので安心した。外を見るとまだ暗かったので、汗を拭って横になった。久しぶりに眠れたのに酷い夢だ。
グッデが出てきたことが嬉しいようで悲しくて辛い。それよりジークが出てきたのが恐ろしい。身に危険を感じずにはいられない。ジークのあの言葉が引っかかる。あれは夢だったはず。だけど、もしライブの客に紛れることを気づかれていたとした
ら・・・・・・。
「ん? 朝だな」
チャスがまだ日も昇っていないというのに起き出した。
「顔色悪いぞ。今日は頑張るんだろ?」
「もちろん」
そう言われるとやる気が出た。考えたって仕方がないのだ。
「もう朝なの?」
「魔界に太陽は存在しない。月があるのが夜で、雷がたいてい鳴ってるのが朝と昼なんだ」
「そうなんだ」
確かにあの忌まわしい月は見当たらない。そのときオルザドークが朝飯だと呼びにきたので、倉庫の外のバーへ連れ出された。バーで働いていたのはリデルだ。朝食は人間界の食べ物と同じような、パンとスープだったので助かった。近くの悪魔達は、見るからに気持ち悪いものを口にしている。赤いスープに入っているのは人骨。緑の肉は明らかにこの世のものとは思えない。
「何食ってんだか」
チャスが小声でぼやく。みな、食があまり進まないのだ。
「メニューは聞かない方がいいよね」
ねばねばしているものを見て吐きそうになる。
「たぶん人間の内臓だ」
オルザドークが聞きもしないことを説明するので全員がうえっと言った。
朝食を終えることができてほっと一息ついたとき、近くにいた悪魔の会話が耳に入った。
「それにしてもコステットってどういうやつなんだろうな」
背筋びくっとする。
「どうした?」
オルザドークに訝しがられたので何でもない振りをした。
「さっきの内臓の料理思い出しちゃって」
そう言いながら悪魔達の話に聞き耳を立てた。
青い髪の悪魔が首を振る。
「さあな。でもコステットを殺せば魔王になる権利はジーク以外にもあるんだろ?」
蛾の羽をした悪魔が馬鹿にする。
「魔王になってもすぐ、ジークにやられるって」
「そうかよ。ジークも回りくどいことするよな。何でディスを殺したときに、魔王にならなかったんだろうな」
「噂じゃ、ジークの親父をディスが殺したんだとさ。腹違いの兄弟じゃ中が悪いのも当然だ。それにディスは赤い血だろ? 色々恨みもあったんだろうな」
(ディスへの恨みか)
今度は青い髪の悪魔が思い出したように言った。
「噂って言えば、今夜のライブ前に広場でイベントをやるらしいぞ」
「本当か?」
返事をした悪魔と同じ気持ちだった。ジークに早く会える。
「行くなよ」
オルザドークが聞いてないという顔をして聞いていた。
「でも」
「客に紛れ込むんだろ」
一刻も早くあいつを倒したかった。でも作戦は無駄にはできない。それでも様子を見に行くくらいはやってもいいと思う。
納得していないと心を読み取ったチャスは気づいたようだ。何かを言おうとして口を開けた瞬間、「こん中で赤毛のガキを見たやつはいねぇか!」
それは通りすがりに殴ってきたスキンヘッドの男だった。
建物はハデなものではなくなっている。歩いている感覚がなかった。ひたすら歩き続けても疲れない。遠くで誰かが呼んでいる気がする。このまま行けばきっとグッデに会えると思った。僕は会えることを望んでやまない。
遠くに黒いもやが見える。進むと人の姿がぼうっと見えてきた。向こうもこっちに近づいてくる。顔が見えはじめた。いつの間にか自分の足が止まる。
息を飲むしかなかった。この目は確かか? 金髪の少年が見える。青い目こちらを見ている。思いが頭の中をすごい速さで駆け巡っていく。何かの間違いか? 幻か?
どうしてここに?
少年は目の前まで来ていた。顔は虚ろで、こちらには気づいていない。
「グッデ! グッデ! ねぇ生きてたの?」
グッデは何の反応も示さない。申し訳なくて涙が溢れてくる。グッデがこんな状態になったのは自分のせいだ。
ここに何もないかのようにグッデが通り過ぎた。
「待ってよ! 僕、謝りたいんだ! ごめん。ごめんよグッデ!」
謝って済むことではない。これでは何の解決にもならないと分かりながら、訴えるだけで必死だった。どうかどこにも行かないでと願うだけで精一杯で、何を叫んでいるか分からない。一度に言葉にできないから、涙が止まらなかった。
「待つ? 逃げたのはお前じゃないのか?」
振り向いたグッデの顔に笑みが浮かぶ。グッデではない。グッデの顔は別人に変わる。金色の髪はたちまち変色し、白く伸びる。ニヤリと歯を見せて笑う顔は、忘れられない憎い男だ。
「俺のライブに来るらしいな」
何故こいつが知っているんだ! ジークの取り出した黒い鎖の先端が尖る。あっと思ったときには胸に突き刺さった。
飛び起きた。夢? 今のが夢だというのか? 息が荒く冷や汗もかいている。すぐ隣でチャスが寝息を立てているので安心した。外を見るとまだ暗かったので、汗を拭って横になった。久しぶりに眠れたのに酷い夢だ。
グッデが出てきたことが嬉しいようで悲しくて辛い。それよりジークが出てきたのが恐ろしい。身に危険を感じずにはいられない。ジークのあの言葉が引っかかる。あれは夢だったはず。だけど、もしライブの客に紛れることを気づかれていたとした
ら・・・・・・。
「ん? 朝だな」
チャスがまだ日も昇っていないというのに起き出した。
「顔色悪いぞ。今日は頑張るんだろ?」
「もちろん」
そう言われるとやる気が出た。考えたって仕方がないのだ。
「もう朝なの?」
「魔界に太陽は存在しない。月があるのが夜で、雷がたいてい鳴ってるのが朝と昼なんだ」
「そうなんだ」
確かにあの忌まわしい月は見当たらない。そのときオルザドークが朝飯だと呼びにきたので、倉庫の外のバーへ連れ出された。バーで働いていたのはリデルだ。朝食は人間界の食べ物と同じような、パンとスープだったので助かった。近くの悪魔達は、見るからに気持ち悪いものを口にしている。赤いスープに入っているのは人骨。緑の肉は明らかにこの世のものとは思えない。
「何食ってんだか」
チャスが小声でぼやく。みな、食があまり進まないのだ。
「メニューは聞かない方がいいよね」
ねばねばしているものを見て吐きそうになる。
「たぶん人間の内臓だ」
オルザドークが聞きもしないことを説明するので全員がうえっと言った。
朝食を終えることができてほっと一息ついたとき、近くにいた悪魔の会話が耳に入った。
「それにしてもコステットってどういうやつなんだろうな」
背筋びくっとする。
「どうした?」
オルザドークに訝しがられたので何でもない振りをした。
「さっきの内臓の料理思い出しちゃって」
そう言いながら悪魔達の話に聞き耳を立てた。
青い髪の悪魔が首を振る。
「さあな。でもコステットを殺せば魔王になる権利はジーク以外にもあるんだろ?」
蛾の羽をした悪魔が馬鹿にする。
「魔王になってもすぐ、ジークにやられるって」
「そうかよ。ジークも回りくどいことするよな。何でディスを殺したときに、魔王にならなかったんだろうな」
「噂じゃ、ジークの親父をディスが殺したんだとさ。腹違いの兄弟じゃ中が悪いのも当然だ。それにディスは赤い血だろ? 色々恨みもあったんだろうな」
(ディスへの恨みか)
今度は青い髪の悪魔が思い出したように言った。
「噂って言えば、今夜のライブ前に広場でイベントをやるらしいぞ」
「本当か?」
返事をした悪魔と同じ気持ちだった。ジークに早く会える。
「行くなよ」
オルザドークが聞いてないという顔をして聞いていた。
「でも」
「客に紛れ込むんだろ」
一刻も早くあいつを倒したかった。でも作戦は無駄にはできない。それでも様子を見に行くくらいはやってもいいと思う。
納得していないと心を読み取ったチャスは気づいたようだ。何かを言おうとして口を開けた瞬間、「こん中で赤毛のガキを見たやつはいねぇか!」
それは通りすがりに殴ってきたスキンヘッドの男だった。