108.拘束
文字数 2,221文字
「これが俺の悪魔魔術、拘束血 よ。体内にある血管ってのはな、世界を二周半も回れる程長いんだぜ。縄で縛るより、血管で捕まえる方が早いだろ」
これが本当に血管だというなら、傷つけられることができたらゲリーを倒せるかもしれない。だけど、爪も魔法も効かない。斬ろうとするのはやめた。もがけばもがく程、悪魔が喜ぶのは分かっている。じゃあどうするか。何とかして攻略法を聞き出してみよう。
「縄で縛った方が便利だと思うけど」
挑発してみる。ある意味これは賭けだ。ゲリーは最初むっつりしていたが、急に笑い出した。
「何だとガキ? 縄が良いだぁ? その方が逃げやすいって意味だろ? 逃がしゃしねぇよ!」
おもいきり腹を蹴られた。鈍い痛みと嘔吐感にうめいた。でも、これで分かった。この男は短気だ。怒らせれば、色々と口を滑らせるかもしれない。
それにゲリーは勘違いをしている。この血管を解いたら僕が逃げると思っているが、実際のところ、ゲリーから逃げるつもりはない。倒すのだ。
「痛そうだな。だがな、ジークの蹴りはそんなもんじゃねぇ。俺の二倍ってところか」
ニヤついているゲリーだが、そんな顔を見ても苦にならない。目的はあくまでジークだ。ジークの蹴りは今の二倍か。
「今のうめき声はよかったぜ。もう一度聞かせろよ。ライブで逃げた分もな!」
脇腹を蹴られ痛みにあえぐと、息をつく間もなく、また蹴られる。激しい吐き気と、ずしりと響く痛み。次に蹴られる前に会話に持っていかないと、体がもたない。
「いいの?」
声を振り絞る。が、ここから声が出てこない。口から息が漏れていくだけだ。
「ああ? 何か言ったか?」
今しかチャンスはない。この男にかかると、本当に動けなくなるまで蹴られる。
「縄にしないと、逃げるよ」
意味ありげに笑ってやる。すると、ゲリーの眉が引きつって、けいれんし始めた。腹立たしいのが顔に出て分かる。
「まだ、言ってやがんのか! お前の考えなんて丸分かりだ。俺がすんなり聞くと思うか? 縄にした隙に、逃げるんだろ!」
がむしゃらに、胸倉をつかまれる。とても立てる状態ではない。これで何とかする方法が見つからなければ、やられる。
「逆」
単語を一つ述べるのがこんなに辛いとは。単語一つで怒りが頂点に達する男にも驚いたが。
「いい加減にしろ! それができるなら、とっくにお前は逃げてるだろうが! この血管はなぁ、お前みたいなガキのちんけな爪じゃ斬れねぇし、魔法も効かねぇ! 魔力がないってんなら別だがな!」
「いいこと聞いたよ」
魔力がない。つまり、心を無にし、体から魔力の存在を消し去る術をすればいい。無魔の術だ。魔界に来る直前、オルザドークに教えられたことが役に立つときが来た。
だけど、この術は一度も成功したことがない上、上級者向けの術だ。魔力を無にするには、気を沈め、体の力を抜き、一切のことを頭から叩き出さなければならない。呪文でどうこうできる問題ではないだけ、非常に難しい。
果たしてそれが今、できるだろうか? 体の力を抜くと、巻きついた血管が支えになるが、心を無にし、何も考えないとなると、ゲリーに思う存分痛めつけられることになる。
「急に黙ったところを見ると、はったりか? それとも俺が怖くなったか?」
自信はないが、やるしかない。サングラスの奥のゲリーの目が輝きを取り戻したように見える。
ゆっくり息を吐き出した。まず、気を沈めないと。そのとき、ゲリーの拳が胃に痛みを加えた。さっきの蹴りもあり、胃が潰れるような痛みをぶり返した。
「俺が怖いかって聞いてんだよ」
ここに来てゲリーが笑みを浮かべる。そう簡単にやらせてくれないようだ。耳を貸さないように努める。
「言ってみろよ」
おぞましいものが目に映った。ゲリーの体の表面が黒くなっている。それも、ミミズが這うように見えるのは、全て血管だ。さらに脈打っているのが見て取れる。
顔からも、黒い筋が浮かび上がり、皮膚を突き破る。本人は痛みを感じていないが、返って不気味に見える。その、全てが、飛びついてきた。元々動ける状態ではないのに、まだ動きを封じるのか!
「怖くなんかない。僕の敵はジークだ。邪魔をするな!」
またゲリーが激怒する。ジークという言葉に反応するようだ。
「俺を倒してから言いやがれ! 俺の恐ろしさが分かってねぇようだな!」
よけることをゲリーは許さない。身動き一つ許さないのだろう。また殴られても、苦痛にあえぐしかない。よろけても、倒れることを血管が許さない。
頭では、それでも心を無にしろと命令している。でも痛みが邪魔だ。僕の苦しむ姿を見て喜ぶゲリー。ジークと同じだ。とてもじゃないが、心を無にすることなどできない。
「さっきまでの威勢はどうした!」
今までで一番強く体にぶち込まれた。むせ返ると、赤いものが吐き出された。視界がぼやけてからそれが見えた。血だ。そういえば口の中が苦い味で詰まっている。
「赤い血か」顎をさすってゲリーがつぶやく。
全身が重く、うめいても、目だけは吊り上げて、睨む。
ゲリーが笑っている。どうやらまたこの悪魔を喜ばせてしまった。人間として見ているのだろう。
それは結構だが、残虐に扱うか、もっといたぶるつもりだ。何をされるか分からない。きっと今が最後のチャンスだ。ここで成功させなければ、ジークなんか倒せないぞ。
オルザドークにも面目が立たない。
これが本当に血管だというなら、傷つけられることができたらゲリーを倒せるかもしれない。だけど、爪も魔法も効かない。斬ろうとするのはやめた。もがけばもがく程、悪魔が喜ぶのは分かっている。じゃあどうするか。何とかして攻略法を聞き出してみよう。
「縄で縛った方が便利だと思うけど」
挑発してみる。ある意味これは賭けだ。ゲリーは最初むっつりしていたが、急に笑い出した。
「何だとガキ? 縄が良いだぁ? その方が逃げやすいって意味だろ? 逃がしゃしねぇよ!」
おもいきり腹を蹴られた。鈍い痛みと嘔吐感にうめいた。でも、これで分かった。この男は短気だ。怒らせれば、色々と口を滑らせるかもしれない。
それにゲリーは勘違いをしている。この血管を解いたら僕が逃げると思っているが、実際のところ、ゲリーから逃げるつもりはない。倒すのだ。
「痛そうだな。だがな、ジークの蹴りはそんなもんじゃねぇ。俺の二倍ってところか」
ニヤついているゲリーだが、そんな顔を見ても苦にならない。目的はあくまでジークだ。ジークの蹴りは今の二倍か。
「今のうめき声はよかったぜ。もう一度聞かせろよ。ライブで逃げた分もな!」
脇腹を蹴られ痛みにあえぐと、息をつく間もなく、また蹴られる。激しい吐き気と、ずしりと響く痛み。次に蹴られる前に会話に持っていかないと、体がもたない。
「いいの?」
声を振り絞る。が、ここから声が出てこない。口から息が漏れていくだけだ。
「ああ? 何か言ったか?」
今しかチャンスはない。この男にかかると、本当に動けなくなるまで蹴られる。
「縄にしないと、逃げるよ」
意味ありげに笑ってやる。すると、ゲリーの眉が引きつって、けいれんし始めた。腹立たしいのが顔に出て分かる。
「まだ、言ってやがんのか! お前の考えなんて丸分かりだ。俺がすんなり聞くと思うか? 縄にした隙に、逃げるんだろ!」
がむしゃらに、胸倉をつかまれる。とても立てる状態ではない。これで何とかする方法が見つからなければ、やられる。
「逆」
単語を一つ述べるのがこんなに辛いとは。単語一つで怒りが頂点に達する男にも驚いたが。
「いい加減にしろ! それができるなら、とっくにお前は逃げてるだろうが! この血管はなぁ、お前みたいなガキのちんけな爪じゃ斬れねぇし、魔法も効かねぇ! 魔力がないってんなら別だがな!」
「いいこと聞いたよ」
魔力がない。つまり、心を無にし、体から魔力の存在を消し去る術をすればいい。無魔の術だ。魔界に来る直前、オルザドークに教えられたことが役に立つときが来た。
だけど、この術は一度も成功したことがない上、上級者向けの術だ。魔力を無にするには、気を沈め、体の力を抜き、一切のことを頭から叩き出さなければならない。呪文でどうこうできる問題ではないだけ、非常に難しい。
果たしてそれが今、できるだろうか? 体の力を抜くと、巻きついた血管が支えになるが、心を無にし、何も考えないとなると、ゲリーに思う存分痛めつけられることになる。
「急に黙ったところを見ると、はったりか? それとも俺が怖くなったか?」
自信はないが、やるしかない。サングラスの奥のゲリーの目が輝きを取り戻したように見える。
ゆっくり息を吐き出した。まず、気を沈めないと。そのとき、ゲリーの拳が胃に痛みを加えた。さっきの蹴りもあり、胃が潰れるような痛みをぶり返した。
「俺が怖いかって聞いてんだよ」
ここに来てゲリーが笑みを浮かべる。そう簡単にやらせてくれないようだ。耳を貸さないように努める。
「言ってみろよ」
おぞましいものが目に映った。ゲリーの体の表面が黒くなっている。それも、ミミズが這うように見えるのは、全て血管だ。さらに脈打っているのが見て取れる。
顔からも、黒い筋が浮かび上がり、皮膚を突き破る。本人は痛みを感じていないが、返って不気味に見える。その、全てが、飛びついてきた。元々動ける状態ではないのに、まだ動きを封じるのか!
「怖くなんかない。僕の敵はジークだ。邪魔をするな!」
またゲリーが激怒する。ジークという言葉に反応するようだ。
「俺を倒してから言いやがれ! 俺の恐ろしさが分かってねぇようだな!」
よけることをゲリーは許さない。身動き一つ許さないのだろう。また殴られても、苦痛にあえぐしかない。よろけても、倒れることを血管が許さない。
頭では、それでも心を無にしろと命令している。でも痛みが邪魔だ。僕の苦しむ姿を見て喜ぶゲリー。ジークと同じだ。とてもじゃないが、心を無にすることなどできない。
「さっきまでの威勢はどうした!」
今までで一番強く体にぶち込まれた。むせ返ると、赤いものが吐き出された。視界がぼやけてからそれが見えた。血だ。そういえば口の中が苦い味で詰まっている。
「赤い血か」顎をさすってゲリーがつぶやく。
全身が重く、うめいても、目だけは吊り上げて、睨む。
ゲリーが笑っている。どうやらまたこの悪魔を喜ばせてしまった。人間として見ているのだろう。
それは結構だが、残虐に扱うか、もっといたぶるつもりだ。何をされるか分からない。きっと今が最後のチャンスだ。ここで成功させなければ、ジークなんか倒せないぞ。
オルザドークにも面目が立たない。