(五)

文字数 950文字

 立ち上がっていたクッシが、テペに促されてその話を継いだ。クッシは普段から口数が少ないようで、テペのような面白い話しぶりではないが、より正確に状況を説明した。
「岩山の狭い道に入ってしまうと、追い越すことが難しくなる、それがわかっていて、カプランは馬渡の前で妨害に出たのだと思います。われわれも必死に追いかけましたが、残念ながら岩山にとりついたのはカプラン達の方が少し先でした。先を急ぐカプランとわれわれの間には、カプランの手下がいて、道を塞ぎ、わざとゆっくりと進んでいるので、悔しい思いでした」
「そこでびっくり仰天、どこから出て来たのか、そこに座っているシメンが突然、集団の先の方に現れた!」
「シメンは、岩山の道のさらに上の段に上り、そこを通って追い越し、前に出ていたのです」
 皆がシメンの方を見、「ホー!」というどよめきがゲルを満たしたところで、アユンが立ち上がった。

「上にも通れる場所があるとわかり、俺もすぐに上に上り、シメンがカプランの手下の行く手を邪魔している間に、奴らを追い越して、カプランを追いかけた。あれは、シメンの手柄だ!」
 そう言って、シメンに立つように促した。シメンは顔を赤らめて立ち上がり、皆もやんやの喝采を浴びせたが、シメンはすぐにリョウの陰に隠れるように座った。アトが、満座に向かって大声で言った。
「シメンは、今年は売れ残ったが、来年は売らずに戦士にでもしようか」
 その言葉に、リョウとシメンを除く一同が大笑いした。二人の気持ちなど気付かないように、テペが続きを話し始めて、シメンの活躍の話はそれで終わった。
 テペによると、岩山を先に下りたカプランをアユンが猛追したが、岩山を迂回して砂漠を走ってきたキュクダグの馬が二頭とも追い抜き優勝した、アユンはゴール寸前にカプランを追い抜き準優勝したということで、これは皆が知っている話だった。 

 上機嫌のゲイックが酒を手に立ち上がった。
「まずは、この地の精霊と祖先に」
 そう言ってゲイックは、指先を酒で濡らし、それを四方の空中に(はじ)いて飛ばした。そして盃を高く上げると、皆がそれに続いて盃を高く掲げた。
「今日、活躍した若者たちに」
 そう言うとゲイックは一気に酒を飲み干し、そこに居た一同が「おめでとうございます」と唱和して盃を空けた。
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