唐と突厥とソグド人

文字数 918文字

 時代は八世紀のはじめ、舞台はユーラシア大陸の東。
 唐の絶頂期を迎えた玄宗皇帝の世も、即位後二十年以上経ち、朝廷の(たが)が少しずつ緩み始めていた。唐の北には、遊牧騎馬民族国家の突厥(とっくつ)があり、両国は長年、争いと友好を繰り返してきたが、ここ十年以上は友好政策がとられ平和な時代が続いてきていた。
 しかし、突厥の可汗(かがん)(王)が亡くなり、王位をめぐる内紛で弱体化してきたと見た唐は、再び突厥を脅かし始めていた。

 唐の都、長安では、西は大秦(東ローマ)、大食(アラビア)、天竺(インド)から東は日本まで、様々な文化や人種が混じりあい、人々が活き活きと活躍していた。東西を結ぶ草原や沙漠の道、そしてオアシス都市では、ソグド人商人が隊商(キャラバン)を組んで交易を担っていた。
 ソグド人とは、ソグディアナ(現在のウズベキスタン、タジキスタンの一部)地方の出身で、テュルク(トルコ)系の言葉を話し、商売を得意とした人々である。

 そんな時代に、主人公のリョウは、ソグド人商人の父アクリイと、長安の石屋の娘である母朝虹(ちょうこう)との間に生まれ、二歳年下の妹シメンと共に、長安の北、長城の外の草原で暮らしていた。
 リョウは、子供心に、いつかは父のようにはるか遠くの国々を歩いてみたいと思っていた。一方、石刻師の祖父のように自分で石に字を彫りたいとも思って、祖父から贈られた石鑿(いしのみ)を大事にしていた。

 その平和な集落を、唐の軍隊と思われる軍勢が突然、襲撃してきた。彼らはなぜ襲って来たのか、そして逃げるリョウとシメンはどうなるのか。
 漢人でもなく、ソグド人でもなく、突厥人でもないリョウが、人は何のために生き、何のために戦うのか、厳しくもおおらかな北の草原の暮らしの中で、悩み、もがきながら成長する姿を描く。
(注)
「突厥」は、「とっけつ」と発音する場合が多く、ワードの変換も「とっけつ」ですが、研究者の間では、テュルク語の発音を漢語にしたもので「とっくつ」の方が近いという意見があり、ルビを「とっくつ」としている本もあります。本稿では、「とっくつ」とさせていただきました。
(森安孝夫著「シルクロードと唐帝国」講談社学術文庫、杉山正明著「遊牧民から見た世界史」日本経済新聞出版社ほか)


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