(四)

文字数 950文字

 突然、リョウたちの前方から猛烈な勢いで走って来る馬がいた。一瞬、バルタ隊の兵士が何かを追っているのかと思ったが、近づいてきたのは野生の馬だった。アユンが、鋭く叫んだ。
「逃がすな!」
 テペが素早く前方に回り込むと、方向を変えて逃げようとする馬の行く手を他の仲間がさらに塞ぎ、やむなく野生の馬は輪の内側へと戻って行った。
「よくやった、テペ、あれでいいぞ」
 アユンが、テペと他の仲間をほめたが、リョウは何もできなかったことを悔いた。やはり、ここ一番というところで、素早く馬を操ることに関しては、遊牧民の若者が数段上だと思った。

 やがて、並んでいる左右の僚友との距離も数歩の距離になり、動物も簡単には逃げられなくなってきた。反対側から囲みを縮めてくる騎馬隊の姿もだいぶ近くに見えて来て、そろそろ二里の距離ではないかと思ったときに、ドムズの旗が上がり、前後に振られた。ここからは、騎射で獲物を仕留めながら前に進んでいくことになっている。リョウは仕留められた獲物を集めるために、仲間の後ろに回った。
 野兎や狐が、次々と仕留められていく。リョウは、馬に乗ったまま先端に鉤の付いた鉤槍で、それらを拾い回り、後からまとめて回収できるように、何か所かに分けて山積みにしていった。

 その時だった。前を行くアユンたちの前方に、バルタ隊に追われていたのだろうか、背中に矢が突き刺さったまま、狂ったように突進してくる巨大な動物が見えた。「あれが猪か」、そう思う間もなく、猪の突進に驚いたアユンの馬が棒立ちになり、大きく(いなな)いた。 
 初めて眼前で見る猪の突進だったが、それでもテペやクッシは馬を抑えこみながら、必死に弓を射た。さすがにアユンは落馬しなかったが、まっすぐ突進してくる猪を止めることはできず、猪は囲みの輪から抜け出し、後方にいたリョウの方に向かって走ってきた。
 リョウは、鉤槍の横刃が前に出るよう持ち替え、高く振り上げると、後ろから前に草を()ぎ払うように、突進してくる猪に向かって思い切り叩きつけた。確かに手ごたえを感じたが、猪は鉤槍ごとリョウを引きずり、たまらずリョウは落馬した。猪も向きを変え、起き上がったリョウに向かってさらに突進するかのように見えたが、鉤槍は猪の喉に深々と刺さっており、そこでドウと倒れ込んだ。
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