第18話 Girl’s Mountain (女子高生の山)

文字数 1,671文字

 バタバタ。ガタガタ。バターン。
 サオリたちがアイゼンの作戦を聞いていると、廊下から大勢の足音が聞こえてくる。カメたちと同じように騒々しい足音だ。
「少し早く来ちゃったね。全部は話せなかったけどわかった?」
 サオリは自分の太腿を軽く叩いた。大体わかったという合図だ。
 足音は一直線に教室に来て、勢いそのままに扉を開けた。先頭はジャージを着た太ってハゲかけている五十代の男性。体育教師の粂川敏郎だ。続いてバレーボールのユニフォームを着た大柄の女子生徒が三人やってくる。最後尾には警備服を着た体の締まった六十代の男性二人。合計六人だ。人数も多いし、一人一人の戦闘力もピーチーズと比べれば明らかに高い。
「沙織! よかったね!」
「うん!」
 サオリは笑顔を見せてアイゼンと共に身構えた。なぜサオリにとってこの状況が喜ばしいことなのか。今入ってきた六人は全員ピーチーズと同じ表情をしている。ということは、ピーチーズもこの人たちも敵ではない。操っている黒幕がいる。それがたった今わかったからだ。
 仙術を習っている二人にとって、体育系女子や年齢を重ねた男性程度なら何人いても脅威ではない。サオリは親友が敵ではないと知って安心した。と同時に、親友を危険な目に合わせている黒幕Xにたいして激しい怒りが湧いてきた。
「この人たちはそんなに強くない。傷つけないようにね」
ーー怪我させてもいいなら椅子投げて机ガンガン蹴り飛ばす。その隙にあそこにある傘の取手部分を利用して相手を転ばして、一人一人の急所を狙い撃つ。
 テンションも上がっているし可能性についてのシュミレーションはする。だがこの人たちは敵ではない。操られているだけだ。それにサオリは、どちらにせよ人を傷つけたくはなかった。傷つけなくても大事なものを守れるように仙術の修行を続けているのだから。
「力あるものは責任を持て」
 仙術の教えだ。
ーー絶対傷つけない。
 アイゼンの言葉に、サオリは力強くうなづいた。
 六人はアイゼンと比べれば身長が低い。アイゼンはサオリの前に立ち、長い手足で全員を抑えこもうとした。
 男たちはサオリの姿を確認すると同時に襲いかかってくる。アイゼンは一人の警備員の襟を掴み、もう一人の警備員に対しては足をかけて倒した。男性三人程度ならあやすのは簡単だ。
 とはいえ、さすがに先程までのか細い女子高生たちではない。警備員たちを盾にしてくめかわがアイゼンの脇を抜ける。アイゼンは抜けたクメカワの手首を掴んで捻(ひね)り倒す。
 倒れながらも這ってサオリの方に抜けようとする警備員。足で挟む。
 その間にバレーボール部の生徒たちはピーチーズの縄を解いていた。ピーチーズは嬉しそうに一声唸る。
 ピーチーズが救出されたことにより敵の数はさらに増えた。六人にピーチーズを加えて九人だ。
 九人は全員揃うと更に勢いづいた。机があることなど御構い無しにまっすぐサオリに向かってくる。
 最初に来たバレーボール部員に気を取られたアイゼンの脇を、別のバレーボール部員が抜ける。
 サオリも対抗したが、傷つけないようにすると体格の小さいサオリには不利だ。さらに一人バレーボール部員が抜けてくる。
 一人に押され。
 二人に潰され。
 徐々にサオリは教室の隅で、叩きつけられたお饅頭のように潰されていった。
 背が小さいユキチもアイゼンの脇を抜けてくる。先ほどからサオリを追いかけているからだろうか。他の人よりも手際がいい。これが欲しいのよとばかりに一直線にサオリの左手首を掴み、クルクルクラウンに手をかける。取りづらいのか、ユキチはサオリの手首を引っ掻いた。
ーー痛っ。
 けれども他の二人に潰されているためにサオリは抵抗できない。クルクルクラウンはユキチによって強引にはずされてしまった。
ーー待って!
 サオリの伸ばした手は願い虚しく、次々とやってくる女子高生の圧力によって人山の中に潰れて消えた。アイゼンも他の人に捕まっていて追いかけることができない。揉み合いの中でクルクルクラウンを持ったユキチが、サオリの視界からゆっくりと消えていった。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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