第94話 Uluru Camel Cup (ウルルキャメルカップ)

文字数 1,375文字

 17時になり、調査隊の動きが慌ただしくなってきた。帰る時間は18時ごろのはずだ。どうしたのだろう。
 サオリがあたりを眺めていると、筋肉含有量の多い肉体が岩だらけの道を跳ねてきた。ウララが戻ってきたのだ。
「エスゼロ。明日の日没から、ドリーミングをおこなわれる。決定だ」ウララは、無愛想な表情で、嬉しそうに言った。
 さっそくアーサーと話をしてきたようだ。ジミーの言うことはよく当たる。許可は簡単におりたらしい。ただしウララは、ドリーミングの真の意味については話さなかった。ウララ自身でも理解できていなかったからだ。ただ、あの日におこなわれた儀式を再現したい、とだけ伝えていた。

 今日の調査では、色々な足跡や焦げ跡の数や特徴から、事件当時の様子がわかったらしい。
 その日は、100人以上が聖地にいて、踊りを踊っていたようだ。円形になって同じリズムで踊った足跡が見つかったことで分かった。
 また、複数人の争った跡もあり、一方的に誰かが攻撃していた、という現場状況も見てとれた。あらかじめ持ってきていたマサヒロの足型と同じ足跡を発見もした。だが、地面にある大量の焦げ跡で、それ以上の詳細についてはよくわからなかった。マサヒロの足跡が聖地から出たという証拠が何もない。とはいえ、死んだという証拠も何も出てこない。
 調査隊一行は、マサヒロが消えたと思われる場所を掘ってみたり、金属探知機で調べてみたりもした。だが、全ては徒労に終わった。
 これ以上のことは、おそらく明日以降もわからない。アーサーも途方に暮れていたところに、ウララからの申し出だ。ドリーミングをしてくれることによって当時の状況を知ることが出来る。これは、アーサーにとっても願ったり叶ったりというところだった。

 こうして今日の調査は、日没より1時間早く打ち切られた。アナング族は、これからすぐに、ドリーミングの準備に取り掛かってくれるらしい。お祭りのようなものだ。みんな喜んでいる。
 調査隊は監視カメラをつけた後、彼らの邪魔をしないように、早めにホテルに戻ることにした。

 ホテルに帰る途上、サオリは気分が高揚していた。自分から人に話しかけることなどあまりないが、珍しく自分から、アーサーに話しかける。
「キャメルカップ、知ってますか?」
「なんだい、それは?」唐突な質問にもアーサーは優しく応対した。
「今日はキャメルカップといって、ラクダ達が競争する祭が開催されるそうなんです」
「それは面白そうだね」
「ホテルの近くで行われるそうです」
「そうなんだね」
「アタピ、ラクダ観たい」
ーーこういう話をしている時のエスゼロは本当に子供だな。
 アーサーは心が和んだ。
「わかった。いこうか」
ーーわーい。
 見たことのない文化は見てみたい。サオリは、満面の笑みでうなづいた。
 この笑みに応えないわけにはいかない。アーサーは、助手席についているマイクを手に取った。無線になっていて、調査隊の全ての車両と話すことができる。
「各車に次ぐ。今日はこのままホテルに帰らず、キャメルカップを観戦しに行こう。晩飯はそっちで食べるぞ! お小遣いは、1人30オーストラリアドルだ!!
 隊長車からの無線に、各車内は喜びの表情で揺れた。
 人間は本来、祭りが好きなのだ。
 調査隊は全員で、ユルルが運営している、ウルルキャメルカップを観に向かった。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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