第3話 Mement Pater (パパ思う)

文字数 877文字

 去っていく大きな背中を眺めながら、サオリはネーフェが屋上まで上がってきた理由を考えた。
ーー誰かから「屋上に人の気配がするから見に行って」とでも言われたのかな?
 まぁおそらく大した理由でもないだろう。女子校なので、立ってる男はグーグルよりもよく使われる。準備完了のメールはまだ来ない。サオリは再び寝転がり、体ではなく脳みそに神経を集中させた。
ーーうーん。アタピ、何のために生きてんだろ。
「唯、ぼんやりした不安」
 作家である芥川龍之介が自殺前に書いた手紙の一文だ。
 サオリは知らないうちに、左手首に巻きついている金の腕輪を触っていた。腕輪はクルクルに手首に巻きつくところから、『クルクルクラウン』と沙織から命名されている。沙織の父である加藤雅弘の形見だ。
 冒険家だったマサヒロは十年前、サオリが六歳の時に行方不明になってしまった。行方不明といわれてはいるが死体が見つからなかっただけで、周囲の人の様子からすると生きてはいなさそうだ。サオリは死んだと思っている。ただマサヒロとの楽しかった思い出は残っているので、触っていると心が安らいだ。
 ーーこういう時にパパだったら何て言ってくれたの?
 今日はクルクルクラウンから、やけにマサヒロの気配を色濃く感じる。
ーーパパがいたら、きっとこんな感じで甘えられるんだろな。
 サオリは何だか甘酸っぱい気持ちになった。
 その時、コートのポケットが震えた。スマートフォンを取り出すと、カメからのメールが届いている。「カモン」と言っている亀のスタンプが一枚貼られている。
ーー来た。
 サオリは、「オケ!」と言っている自作の白い小人スタンプを返信し、立ち上がって大きく伸びをした。祝われることが嬉しくないわけではない。ただ変わりばえもなく繰り返される狭い狭い世界にたいして、なんだか満足がいっていないだけなのだ。
 満たされているのに満たされていないなんて贅沢病の一種だ、ということは自分自身でも重々承知している。
ーーさて、祝われにいきますか。
 サオリは、寝起きにしては軽い足取りで階段を降り、ピーチーズの待つ教室へと向かっていった。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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