第113話 Judgement (判決)
文字数 4,019文字
「それでは最後に、本件に関わった騎士たちの意見をうかがおう」
ボビンゲの命令によって、右手にあった暗闇カーテンが開けられる。そこには、山中、銀次郎、愛染、チャタローが立っていた。
「それでは山中達也くん」
まずは山中が立ち上がり、壇上までやってきた。シーンとなっている周りをゆっくりと見回す。雰囲気を作っているのだ。それから、早口で話し始めた。
「俺は、今回の件は有罪だとは思わない。沙織は完全に騙されただけだ。俺の親友の名前を囮にしてな。子供が親の名前を出されて冷静でいられるなんてことがあるか? 俺は逆に、そんな時も冷静な人間がKOKに入団して欲しいとは思わないね。それに今回の件は、俺の弟子の銀次郎と愛染によって事前にしっかりと情報は俺に届いていたし、何かあったら俺が助ける予定だった。この俺が、だぜ? 危ないことはないだろう。もし次に沙織がこのような事件を起こすことがあったとしても、それが優しい心から起こったことだったなら、俺が全て責任を取る。大人になるまで子供を助けてやるのは俺たちの義務じゃあねーのか? カーッカッカッカッカッカ」
裁判所内に、声が高いという、本当の意味での高笑いが響いた。
「次に、井上銀次郎くん」
銀次郎は、身体中をヘンリーに斬られていたので、今は『妖精の包帯』というピンクの花柄の包帯で身体中を巻かれている。山中が早く銀次郎を連れて帰ったのは、リアルには持ち出せないこの妖精の包帯を使用するためだった。銀次郎は沙織を見ず、前だけを見て話した。
「俺は……正直ただの気持ちになってしまうのですが、沙織さんに、KOKの入団テストを受けさせて欲しいです。今回厳重注意で済ませてくれるのなら、俺もまだ未熟者ですけど、今回みたいに必死にクエストをクリアしてみせますし、今回のことを恩に着て、世界平和のために役立ってみせます」
山中の時とは違って、KORの面々は、お互いに話し合っていた。
「イノギンのモチベーションが上がるのなら、その一点だけでもいいのお」
「だが、その献身さが仇になり、沙織くんのせいで若い才能に危機をもたらしてしまう恐れもあるぞ」
「しかし、優しさこそがKOKの信条ではないのか?」
騎士達は心が揺れていた。
「最後に、藤原愛染くん」
「はいっ」
愛染は堂々として、光り輝いた顔をしている。まるで、これからライブ会場で一曲歌うポップスターのようだ。沙織とは違って一度シャワーを浴びている。服装もシックではあるものの、おしゃれなドレスを着ている。沙織は、それが羨ましいと思った。
「私は、沙織のしたことは有罪だと思います」
円卓の間はざわついた。みんな、愛染が沙織の親友だということを知っているからだ。
「ただし、それでも、今回の件に関しては不問にした方が、円卓の騎士団のためになると思います」
愛染の表情は新興宗教の教祖のようだ。
「なぜなら沙織は、ただ才能があるだけではなく、女王陛下のお友達であり、カトゥーさんの娘でもあるからです。この、他にはいない稀有なアルキメストを、他の団体や騎士団は放っておくでしょうか? もし私だったら、絶対に放ってはおきません。必ず囲って、自分たちの権力向上に利用するでしょう。沙織のまっすぐな性格も捻じ曲がってしまうかもしれません。ならばここで、円卓の騎士団の器の大きさを見せて心酔させた方が、明らかに世界は平和になるでしょう」
「しかし……、目的のためには手段を選ばないというのはなぁ」
「でも、KOR(円卓の騎士団)は、世界のバランスを取るための騎士団だぞ? 手段を選ぶ必要はないのでは?」
「いやいや。騎士たるもの、手段を選ばずして何の騎士道か」
「そのために世界が滅ぶのは喜ばしくないじゃろう」
「静粛に」
ボビンゲが机を叩いた。部屋の中の声は小さくなる。
「加藤沙織くん。今までのことは聞いていたか?」
沙織はうなづいた。
「これから判決に入るがよろしいか?」
沙織は立ち上がりもせず、自問自答するかのように話し始めた。円卓の間は、沙織の声を聞こうとして静まり返る。遠くでコポコポというエレベーターフィッシュの上昇していく音が聞こえるほどだ。
「アタピは、悪いことしちゃったって思っています」
全員が沙織の言葉にうなづく。
「でも……、じゃあまた次同じ状況になったらどうするかというと、やっぱりまた、今回と同じことをしてしまうと思います」
場内はざわついた。
「反省して、もうしませんていうのは簡単だし、そうするのが得なのかなとは思うけど、それ、アタピの心に嘘ついちゃう。悪いことしてる意識は、する前からありました」
「本人が反省してないって……」
「じゃあ……、どうするんだ……」
騎士達から戸惑いの声が聞こえたので、沙織は慌てて言葉を付け加えた。
「あ……。かといって、KOKに入りたくないというわけではないんです。みなさんに興味あるし、パパが入団してたって聞いて……。冒険もしたいし、世界平和にも役立ちたいです。あの、都合がいいことはわかっているんですけど……。ただ、罰もなく、というのは何か違うかなとも思って……、でも……ホントは罰受けたくない」
部屋の中は小さな優しい笑いに包まれた。それは沙織の正直すぎる告白のせいだった。誰一人バカにしているものはいない。ただ、沙織の純粋さに心が和んだ。
「じゃあもう、どうします?」
「いやあ、なんかもう、ねぇ」
「まぁ、結果を出しますか?」
騎士団の全員が、沙織に対して何らかの考えを決めたようだ。
「それでは、判決だ。みなさん。よろしくファイナルアンサー !」
ボビンゲは、赤ハゲた顔をニヤニヤとさせながら進行を続けた。ボードには結果が出てくる。
『有罪8』
『情状酌量70』
『無罪22』
情状酌量が一番多い。ボビンゲは、何か無線のようなもので会話をした。
「みなさん ! 判決は、軽めの情状酌量!」
「おー」
部屋内がざわつく。
「そして今、リアルカディア首長ジョセフ・シュガーマン、KOK団長グスタフ・ダビデ、KOQ副団長ホームアローンの御三方の判断により、沙織に対する処罰は決まった」
沙織は、不安で胸がいっぱいになった。
「加藤沙織くん。貴女は、KOKへの入団無期限禁止。半年間のPカードとPS(賢者の石)の使用禁止。ならびに、監視のために、チャタローとのパートナー契約。以上とする!」
「ほほう」
「いいんじゃないいですか?」
半年でPカードと賢者の石が使用できるようになるし、無期限とは言いながら、これだけみんなから愛されているのだから、すぐにもKOKにも入団できるようになるだろう。チャタローとは元々パートナーを結んでいるようなものだ。ミハエルがいれば、半年の謹慎期間中にもアルケミー(錬金術)の訓練はできる。
全員が納得の裁定だった。
「待って、ください!」
その時、沙織が手をあげた。赤い部屋はざわついた。異論を唱える何かがどこにあるのか。もしかしたら、この加藤沙織という人物はとんでもなく欲深で、無罪を主張するのではないだろうか。騎士団の面々は戦々恐々とした面持ちで小さな少女を見た。
「異論があるのかね?」
ボビンゲが首を傾げる。沙織はおずおずと、それでもしっかりと話し始めた。
「裁定ありがとうございます。ただひとつだけ、チャタローとのパートナー契約という件だけが……」
チャタローは、飄々とした顔で特に気にしていないようだ。だが騎士団達は違う。見張られるのが嫌なことがあるのだろうか? もしや敵とつながっているのか? ひそひそと話をする騎士たちの反応を無視して、沙織は続ける。
「アタピ、チャタローとはもう親友です。罰として契約するんじゃなくて、アタピがしたいからしたい……」
ーーおお、そういうことか。
場内は感心の息が漏れ、騎士団たちはみな立ち上がって拍手した。その一言で、やはりこの情状酌量は間違っていなかったのだと誰もが思った。心からいい気分になった。
愛染は表情こそ変えていないが、目にうっすらと涙を浮かべている。普段泣く姿を見せない愛染が自分のことを思っていたことに、沙織も目頭が熱くなった。
全員が立ち上がり、全員が泣く。
「じゃあ、みんなの前でパートナー契約を結ぶとするか」
チャタローは、沙織の膝の上に飛び乗った。
「俺の首輪を見てみろ」
チャタローの赤い首輪には、黄色い三日月のマークがある。
「月のマークに指を当てて、オーラを注入してみな」
沙織は言われた通りに指を当て、感情を込めてオーラを注入した。三日月のマークが徐々に丸くなり、満月になる。満月は大きく光り輝き、またもとの落ち着いた黄色を取り戻した。
「これでパートナー契約は完了だ。俺はいつでも沙織がどこにいるのかはっきりとわかるし、ピンチの時は俺を思い出してPS(賢者の石)を触ってくれれば、俺がゲートを開いて助けに行く。ただしパートナーとはいえ、もちろんそれ相応のピッピはいただくぜ。俺も百万猫様にお賽銭を差し上げなければならねーからな」
クールな顔をしたチャタローの肩は震えている。親子二代に渡ってパートナー契約を結べたことに感動しているのだ。しかし、あくまでクールな表情を崩さないまま、チャタローはさっさと沙織の膝から降り、何処かへ行ってしまった。
ーーもしかして、裏に行って泣いているのかなぁ。
沙織は、なんだかチャタローが愛おしくなって胸が熱くなった。赤坊主は机を二回、小さなハンマーで叩いた。
「今回の裁判は以上とする」
騎士団員たちは、再度大きく拍手をした。拍手は、沙織がエレベーターフィッシュに乗って下に降りるまで鳴り止まなかった。まるで、大統領の選挙演説のようだった。下り際に愛染の顔を見たが、すでに愛染は、全開の太陽の顔つきで、沙織に笑顔を返してくれていた。
ーーいいゴールデンウィークだったな。
沙織は、疲れ切った体とは裏腹に、心だけが気持ちよく浮かんでいた。
ボビンゲの命令によって、右手にあった暗闇カーテンが開けられる。そこには、山中、銀次郎、愛染、チャタローが立っていた。
「それでは山中達也くん」
まずは山中が立ち上がり、壇上までやってきた。シーンとなっている周りをゆっくりと見回す。雰囲気を作っているのだ。それから、早口で話し始めた。
「俺は、今回の件は有罪だとは思わない。沙織は完全に騙されただけだ。俺の親友の名前を囮にしてな。子供が親の名前を出されて冷静でいられるなんてことがあるか? 俺は逆に、そんな時も冷静な人間がKOKに入団して欲しいとは思わないね。それに今回の件は、俺の弟子の銀次郎と愛染によって事前にしっかりと情報は俺に届いていたし、何かあったら俺が助ける予定だった。この俺が、だぜ? 危ないことはないだろう。もし次に沙織がこのような事件を起こすことがあったとしても、それが優しい心から起こったことだったなら、俺が全て責任を取る。大人になるまで子供を助けてやるのは俺たちの義務じゃあねーのか? カーッカッカッカッカッカ」
裁判所内に、声が高いという、本当の意味での高笑いが響いた。
「次に、井上銀次郎くん」
銀次郎は、身体中をヘンリーに斬られていたので、今は『妖精の包帯』というピンクの花柄の包帯で身体中を巻かれている。山中が早く銀次郎を連れて帰ったのは、リアルには持ち出せないこの妖精の包帯を使用するためだった。銀次郎は沙織を見ず、前だけを見て話した。
「俺は……正直ただの気持ちになってしまうのですが、沙織さんに、KOKの入団テストを受けさせて欲しいです。今回厳重注意で済ませてくれるのなら、俺もまだ未熟者ですけど、今回みたいに必死にクエストをクリアしてみせますし、今回のことを恩に着て、世界平和のために役立ってみせます」
山中の時とは違って、KORの面々は、お互いに話し合っていた。
「イノギンのモチベーションが上がるのなら、その一点だけでもいいのお」
「だが、その献身さが仇になり、沙織くんのせいで若い才能に危機をもたらしてしまう恐れもあるぞ」
「しかし、優しさこそがKOKの信条ではないのか?」
騎士達は心が揺れていた。
「最後に、藤原愛染くん」
「はいっ」
愛染は堂々として、光り輝いた顔をしている。まるで、これからライブ会場で一曲歌うポップスターのようだ。沙織とは違って一度シャワーを浴びている。服装もシックではあるものの、おしゃれなドレスを着ている。沙織は、それが羨ましいと思った。
「私は、沙織のしたことは有罪だと思います」
円卓の間はざわついた。みんな、愛染が沙織の親友だということを知っているからだ。
「ただし、それでも、今回の件に関しては不問にした方が、円卓の騎士団のためになると思います」
愛染の表情は新興宗教の教祖のようだ。
「なぜなら沙織は、ただ才能があるだけではなく、女王陛下のお友達であり、カトゥーさんの娘でもあるからです。この、他にはいない稀有なアルキメストを、他の団体や騎士団は放っておくでしょうか? もし私だったら、絶対に放ってはおきません。必ず囲って、自分たちの権力向上に利用するでしょう。沙織のまっすぐな性格も捻じ曲がってしまうかもしれません。ならばここで、円卓の騎士団の器の大きさを見せて心酔させた方が、明らかに世界は平和になるでしょう」
「しかし……、目的のためには手段を選ばないというのはなぁ」
「でも、KOR(円卓の騎士団)は、世界のバランスを取るための騎士団だぞ? 手段を選ぶ必要はないのでは?」
「いやいや。騎士たるもの、手段を選ばずして何の騎士道か」
「そのために世界が滅ぶのは喜ばしくないじゃろう」
「静粛に」
ボビンゲが机を叩いた。部屋の中の声は小さくなる。
「加藤沙織くん。今までのことは聞いていたか?」
沙織はうなづいた。
「これから判決に入るがよろしいか?」
沙織は立ち上がりもせず、自問自答するかのように話し始めた。円卓の間は、沙織の声を聞こうとして静まり返る。遠くでコポコポというエレベーターフィッシュの上昇していく音が聞こえるほどだ。
「アタピは、悪いことしちゃったって思っています」
全員が沙織の言葉にうなづく。
「でも……、じゃあまた次同じ状況になったらどうするかというと、やっぱりまた、今回と同じことをしてしまうと思います」
場内はざわついた。
「反省して、もうしませんていうのは簡単だし、そうするのが得なのかなとは思うけど、それ、アタピの心に嘘ついちゃう。悪いことしてる意識は、する前からありました」
「本人が反省してないって……」
「じゃあ……、どうするんだ……」
騎士達から戸惑いの声が聞こえたので、沙織は慌てて言葉を付け加えた。
「あ……。かといって、KOKに入りたくないというわけではないんです。みなさんに興味あるし、パパが入団してたって聞いて……。冒険もしたいし、世界平和にも役立ちたいです。あの、都合がいいことはわかっているんですけど……。ただ、罰もなく、というのは何か違うかなとも思って……、でも……ホントは罰受けたくない」
部屋の中は小さな優しい笑いに包まれた。それは沙織の正直すぎる告白のせいだった。誰一人バカにしているものはいない。ただ、沙織の純粋さに心が和んだ。
「じゃあもう、どうします?」
「いやあ、なんかもう、ねぇ」
「まぁ、結果を出しますか?」
騎士団の全員が、沙織に対して何らかの考えを決めたようだ。
「それでは、判決だ。みなさん。よろしくファイナルアンサー !」
ボビンゲは、赤ハゲた顔をニヤニヤとさせながら進行を続けた。ボードには結果が出てくる。
『有罪8』
『情状酌量70』
『無罪22』
情状酌量が一番多い。ボビンゲは、何か無線のようなもので会話をした。
「みなさん ! 判決は、軽めの情状酌量!」
「おー」
部屋内がざわつく。
「そして今、リアルカディア首長ジョセフ・シュガーマン、KOK団長グスタフ・ダビデ、KOQ副団長ホームアローンの御三方の判断により、沙織に対する処罰は決まった」
沙織は、不安で胸がいっぱいになった。
「加藤沙織くん。貴女は、KOKへの入団無期限禁止。半年間のPカードとPS(賢者の石)の使用禁止。ならびに、監視のために、チャタローとのパートナー契約。以上とする!」
「ほほう」
「いいんじゃないいですか?」
半年でPカードと賢者の石が使用できるようになるし、無期限とは言いながら、これだけみんなから愛されているのだから、すぐにもKOKにも入団できるようになるだろう。チャタローとは元々パートナーを結んでいるようなものだ。ミハエルがいれば、半年の謹慎期間中にもアルケミー(錬金術)の訓練はできる。
全員が納得の裁定だった。
「待って、ください!」
その時、沙織が手をあげた。赤い部屋はざわついた。異論を唱える何かがどこにあるのか。もしかしたら、この加藤沙織という人物はとんでもなく欲深で、無罪を主張するのではないだろうか。騎士団の面々は戦々恐々とした面持ちで小さな少女を見た。
「異論があるのかね?」
ボビンゲが首を傾げる。沙織はおずおずと、それでもしっかりと話し始めた。
「裁定ありがとうございます。ただひとつだけ、チャタローとのパートナー契約という件だけが……」
チャタローは、飄々とした顔で特に気にしていないようだ。だが騎士団達は違う。見張られるのが嫌なことがあるのだろうか? もしや敵とつながっているのか? ひそひそと話をする騎士たちの反応を無視して、沙織は続ける。
「アタピ、チャタローとはもう親友です。罰として契約するんじゃなくて、アタピがしたいからしたい……」
ーーおお、そういうことか。
場内は感心の息が漏れ、騎士団たちはみな立ち上がって拍手した。その一言で、やはりこの情状酌量は間違っていなかったのだと誰もが思った。心からいい気分になった。
愛染は表情こそ変えていないが、目にうっすらと涙を浮かべている。普段泣く姿を見せない愛染が自分のことを思っていたことに、沙織も目頭が熱くなった。
全員が立ち上がり、全員が泣く。
「じゃあ、みんなの前でパートナー契約を結ぶとするか」
チャタローは、沙織の膝の上に飛び乗った。
「俺の首輪を見てみろ」
チャタローの赤い首輪には、黄色い三日月のマークがある。
「月のマークに指を当てて、オーラを注入してみな」
沙織は言われた通りに指を当て、感情を込めてオーラを注入した。三日月のマークが徐々に丸くなり、満月になる。満月は大きく光り輝き、またもとの落ち着いた黄色を取り戻した。
「これでパートナー契約は完了だ。俺はいつでも沙織がどこにいるのかはっきりとわかるし、ピンチの時は俺を思い出してPS(賢者の石)を触ってくれれば、俺がゲートを開いて助けに行く。ただしパートナーとはいえ、もちろんそれ相応のピッピはいただくぜ。俺も百万猫様にお賽銭を差し上げなければならねーからな」
クールな顔をしたチャタローの肩は震えている。親子二代に渡ってパートナー契約を結べたことに感動しているのだ。しかし、あくまでクールな表情を崩さないまま、チャタローはさっさと沙織の膝から降り、何処かへ行ってしまった。
ーーもしかして、裏に行って泣いているのかなぁ。
沙織は、なんだかチャタローが愛おしくなって胸が熱くなった。赤坊主は机を二回、小さなハンマーで叩いた。
「今回の裁判は以上とする」
騎士団員たちは、再度大きく拍手をした。拍手は、沙織がエレベーターフィッシュに乗って下に降りるまで鳴り止まなかった。まるで、大統領の選挙演説のようだった。下り際に愛染の顔を見たが、すでに愛染は、全開の太陽の顔つきで、沙織に笑顔を返してくれていた。
ーーいいゴールデンウィークだったな。
沙織は、疲れ切った体とは裏腹に、心だけが気持ちよく浮かんでいた。