第15話 Sexual Entrapment (色仕掛け)
文字数 1,780文字
「まず、なんでワイが沙織のピンチを知ったのかやな」
「うん」
「クルリンや」
ーーこれ?
サオリは自分の腕輪を触った。
「クルリンがどうかしたの?」
「沙織はクルリンからなんか感じひんか? いつもと違う感覚」
「そういえば…」
サオリはつぶやくように答えた。
「なんかパパが近くにいるような気がする」
「えっ、沙織も? 私も今日は雅弘のことを強く思い出してたの」
アイゼンはサオリの父のことをマサヒロと呼ぶ。子供の頃サオリと一緒にマサヒロから仙術を教わっていたからだ。呼び捨てで呼ぶのはそれくらいマサヒロが垣根の無い人間だった証だ。
クマオは手を上げて反り返った。
「愛染も? そら驚いたわ。せやけどその感覚がわかるのは二人だけやない、たくさんのクリーチャーたちも感じてるんや」
「クリーチャー?」
「ワイら人間ちゃうやろ? せやから総称してクリーチャーや」
「てことは、クマオみたいな子が他にもいるってこと?」
「あ、お、え」
「言えることだけでいいよ」
アイゼンは今した質問をなかったことにして次の質問に移った。
「つまり雅弘の形見だから、腕輪が沙織のピンチを教えてくれたってわけ?」
「ちゃうねん。クルリンは凄く価値のある腕輪なんや。普通はそれがわからんようになっとるもんなんやけど、今はなぜかめっちゃわかるようになってしもうてるんや」
「なんで ?」
「わからん。でもクルリンからものごっつい特別な気配が溢れ出しとんのは確かや」
「価値があるって高価ってこと? 高価な宝飾品や腕時計を身につけている人なんてたくさんいるでしょ? それがなんでピンチなの?」
「高価な宝飾品や腕時計よりももっと高価なんや。そういう希少価値の高いモノが盗られない思てんのか? そら常識ないで」
ーーそういえばどこかの国で、運転してる人の腕時計を奪うために車窓を割ってオノで腕を切り落とす泥棒がいるて聞いたことある。たしか石田純一が言ってた。
「でもさすがに日本じゃそんなこと起こらないんじゃないの?」
「甘い。甘いわ。クューキーボーより甘いわ。クルリンは普通に生きとる人間に価値があるもんやない。違う世界のルールに生きとるクリーチャーにとって価値があるもんなんや」
ーークューキーボー ??? 何それ甘いの?
サオリは一言も話していないが、アイゼンにより聞きたいことは知られていく。
「金銭的に価値が高い訳じゃないってこと?」
「せや」
「じゃあ歴史的に価値のある物ってこと?」
「ちゃう」
サオリはなかなか教えてくれないクマオに対してもどかしい気持ちになった。だが、アイゼンは逆に優しい声になる。
「んー。クマオちゃーん」
アイゼンはクマオの両耳をクリクリといじりながら耳元で囁いた。
「全然わかんないよー。沙織の親友ってことは、私とももう親友でしょ? もう少し、もう少しだけでいいから教えてよー」
クマオは満更でもない様子だ。
「せやなー、愛染も親友やからなー。しゃーない、教えたるわ。クルリンの価値。それはな、世界を具現化するものってことや」
「世界を具現化する?」
具現化とは、頭で考えていることを実際に形にするという意味だ。世界は誰かが考えたことが実現されて出来ている。具現化しているからこそ存在しているのが世界なのだ。言葉の意味として矛盾している。
「どういう意味?」
サオリもアイゼンの真似をして、ぶっきらぼうな顔でクマオを後ろからつついた。クマオは嬉しそうに堂々と言った。
「わからん」
ーーわからんのかーい。
サオリは心の中でツッコんだ。けれどもアイゼンは聞き上手だ。さらに続ける。
「どんな意味がある腕輪かはわからないのに、その価値はわかるの?」
「せや」
「なんでなんでー?」
ーーこんなに可愛い子が二人、ただただぬいぐるみに甘える動画を撮ったらさぞかし再生回数伸びるだろなー。
サオリはますます可愛こぶった。クマオはますます反り返る。
「なんでわかるかいうと、それはな」
クマオは自分のお腹についたポケットに両手を入れた。中から大辞典のような厚さの赤い本が出てくる。表紙には閉じた大きな目が描かれている。明らかにポケットより大きい。なぜこの大きさでポケットに入っていたのかがわからない。不思議だ。
「これや。幻脳ウィキ。これで見たんや」
ーー幻脳ウィキ?
サオリはこんな状況だというのに、知らないことだらけでワクワクが止まらなかった。
「うん」
「クルリンや」
ーーこれ?
サオリは自分の腕輪を触った。
「クルリンがどうかしたの?」
「沙織はクルリンからなんか感じひんか? いつもと違う感覚」
「そういえば…」
サオリはつぶやくように答えた。
「なんかパパが近くにいるような気がする」
「えっ、沙織も? 私も今日は雅弘のことを強く思い出してたの」
アイゼンはサオリの父のことをマサヒロと呼ぶ。子供の頃サオリと一緒にマサヒロから仙術を教わっていたからだ。呼び捨てで呼ぶのはそれくらいマサヒロが垣根の無い人間だった証だ。
クマオは手を上げて反り返った。
「愛染も? そら驚いたわ。せやけどその感覚がわかるのは二人だけやない、たくさんのクリーチャーたちも感じてるんや」
「クリーチャー?」
「ワイら人間ちゃうやろ? せやから総称してクリーチャーや」
「てことは、クマオみたいな子が他にもいるってこと?」
「あ、お、え」
「言えることだけでいいよ」
アイゼンは今した質問をなかったことにして次の質問に移った。
「つまり雅弘の形見だから、腕輪が沙織のピンチを教えてくれたってわけ?」
「ちゃうねん。クルリンは凄く価値のある腕輪なんや。普通はそれがわからんようになっとるもんなんやけど、今はなぜかめっちゃわかるようになってしもうてるんや」
「なんで ?」
「わからん。でもクルリンからものごっつい特別な気配が溢れ出しとんのは確かや」
「価値があるって高価ってこと? 高価な宝飾品や腕時計を身につけている人なんてたくさんいるでしょ? それがなんでピンチなの?」
「高価な宝飾品や腕時計よりももっと高価なんや。そういう希少価値の高いモノが盗られない思てんのか? そら常識ないで」
ーーそういえばどこかの国で、運転してる人の腕時計を奪うために車窓を割ってオノで腕を切り落とす泥棒がいるて聞いたことある。たしか石田純一が言ってた。
「でもさすがに日本じゃそんなこと起こらないんじゃないの?」
「甘い。甘いわ。クューキーボーより甘いわ。クルリンは普通に生きとる人間に価値があるもんやない。違う世界のルールに生きとるクリーチャーにとって価値があるもんなんや」
ーークューキーボー ??? 何それ甘いの?
サオリは一言も話していないが、アイゼンにより聞きたいことは知られていく。
「金銭的に価値が高い訳じゃないってこと?」
「せや」
「じゃあ歴史的に価値のある物ってこと?」
「ちゃう」
サオリはなかなか教えてくれないクマオに対してもどかしい気持ちになった。だが、アイゼンは逆に優しい声になる。
「んー。クマオちゃーん」
アイゼンはクマオの両耳をクリクリといじりながら耳元で囁いた。
「全然わかんないよー。沙織の親友ってことは、私とももう親友でしょ? もう少し、もう少しだけでいいから教えてよー」
クマオは満更でもない様子だ。
「せやなー、愛染も親友やからなー。しゃーない、教えたるわ。クルリンの価値。それはな、世界を具現化するものってことや」
「世界を具現化する?」
具現化とは、頭で考えていることを実際に形にするという意味だ。世界は誰かが考えたことが実現されて出来ている。具現化しているからこそ存在しているのが世界なのだ。言葉の意味として矛盾している。
「どういう意味?」
サオリもアイゼンの真似をして、ぶっきらぼうな顔でクマオを後ろからつついた。クマオは嬉しそうに堂々と言った。
「わからん」
ーーわからんのかーい。
サオリは心の中でツッコんだ。けれどもアイゼンは聞き上手だ。さらに続ける。
「どんな意味がある腕輪かはわからないのに、その価値はわかるの?」
「せや」
「なんでなんでー?」
ーーこんなに可愛い子が二人、ただただぬいぐるみに甘える動画を撮ったらさぞかし再生回数伸びるだろなー。
サオリはますます可愛こぶった。クマオはますます反り返る。
「なんでわかるかいうと、それはな」
クマオは自分のお腹についたポケットに両手を入れた。中から大辞典のような厚さの赤い本が出てくる。表紙には閉じた大きな目が描かれている。明らかにポケットより大きい。なぜこの大きさでポケットに入っていたのかがわからない。不思議だ。
「これや。幻脳ウィキ。これで見たんや」
ーー幻脳ウィキ?
サオリはこんな状況だというのに、知らないことだらけでワクワクが止まらなかった。