第115話 Isolation From The World (世界から隔離)
文字数 1,486文字
沙織は、教室の最後列にある自分の席から、クラスメイト全員の後頭部を眺め回した。
それぞれの人には、それぞれの世界がある。
成績でいつも沙織とトップ争いをしている丹(たん)ちゃんは、勉強を頑張って、将来は医者になるようだ。確か丹ちゃんのおばあちゃんが医療ミスで亡くなったという話を聞いたことがある。
英語が得意な明日香は、アメリカに留学して、将来はニューヨークで働きたいと言っていた。アメリカのドラマの影響だそうだ。
いつもうるさい望は、一流大学を卒業してマスコミに入社したいらしい。派手な場所が好きだからだ。
歌のうまい真幸(まさき)は、東大生歌手を目指して学校と音楽塾を掛け持ちしているらしい。
自分に出来る事があって、目指したい夢をしっかりと持っている人は、人生の生きる意味がわかりやすい。まるで、それぞれの頭の上に地球が回っているようだ。
けれども、まだ自分の生きる意味がわからない人もいる。ピーチーズなんて全員、まだ何をしたら良いのかよくわかっていないだろう。沙織もそうだ。毎日を、人それぞれの思う、『それなり』に過ごしているだけだ。
それでも生きていける。そして大人の言う、「みんなにはいくらでも選択肢がある。未来は明るいよ」を何となく信じている。
だが、それを信じてただ生きているだけだと、どうやら選択肢は、今いる社会に迎合した形を迎えるような気がする。そもそも、シタリガオトナたちは、自分たちの人生をちゃんと選択して今があるのだろうか。いつも怒っている羽生田先生も、太りに太った弁野先生も、しっかりと今、なりたい自分として、あのようにして生きているのだろうか。
ーー今いる世界ってなんだ?
その時、沙織は、とんでもないことに気がついた。
『今いるこの学校という世界。他の世界と繋(つな)がっているのは当然だと思っていたけど、学生という身分に閉じ込められている自分たちは、一見繋がっているように見せかけて、実は全く繋がっていない』ということを。
ーーアタピ、学校と家しか行き来してなかったから、学校の世界の常識が世界の常識だと信じて疑いもしなかったよ。それしか知らなかったから、学校とメディアと教科書だけが正しい事だと思ってたよ。アルケミストにならなかったら、今のアタピなんて、飼い犬のように毎日餌をもらって、囲まれたドッグランを走らされているようなもんだったよ。安全だけど何も無いから、なんか空虚だったんだ。
沙織は、たった今、気がついた。
『この世界は、自分たちの世界ではない』ということを。
自分たち学生は、良くも悪くも、世界から隔離されている。そして、世界と隔離されているからこそ、自分の力を思うように振るうこともできずに、小さい社会で暇を持て余している。
どんなに大きな想像力を持っていても、少ない情報しか持ってないから、実験動物のように言葉を作り替えて造語を作ったり、体を動かしてポーズを作ったり、大人が作った施設や遊びやメディアやブランドで踊らされたり、動物としての欲望の赴くままに小金や異性を求めたり、クラブやフェスに行くことくらいしかできない。
もしかしたら高校を卒業しても大学で飼い慣らされたり、社会に出ても会社に飼い慣らされたり、結婚しても夫に飼い慣らされるのかもしれない。先の情報は全く誰も教えてくれないから分からないが、もしかしたら先生も飼い犬の一人なのかもしれない。
ーーこれって、アタピの選んだ世界じゃ無いよね。
沙織の胃の上にいる赤い凶暴なケダモノが、牙を尖らせ、唸り声を上げ、首につけられた太い鎖を引きちぎろうとして暴れ始めた。
それぞれの人には、それぞれの世界がある。
成績でいつも沙織とトップ争いをしている丹(たん)ちゃんは、勉強を頑張って、将来は医者になるようだ。確か丹ちゃんのおばあちゃんが医療ミスで亡くなったという話を聞いたことがある。
英語が得意な明日香は、アメリカに留学して、将来はニューヨークで働きたいと言っていた。アメリカのドラマの影響だそうだ。
いつもうるさい望は、一流大学を卒業してマスコミに入社したいらしい。派手な場所が好きだからだ。
歌のうまい真幸(まさき)は、東大生歌手を目指して学校と音楽塾を掛け持ちしているらしい。
自分に出来る事があって、目指したい夢をしっかりと持っている人は、人生の生きる意味がわかりやすい。まるで、それぞれの頭の上に地球が回っているようだ。
けれども、まだ自分の生きる意味がわからない人もいる。ピーチーズなんて全員、まだ何をしたら良いのかよくわかっていないだろう。沙織もそうだ。毎日を、人それぞれの思う、『それなり』に過ごしているだけだ。
それでも生きていける。そして大人の言う、「みんなにはいくらでも選択肢がある。未来は明るいよ」を何となく信じている。
だが、それを信じてただ生きているだけだと、どうやら選択肢は、今いる社会に迎合した形を迎えるような気がする。そもそも、シタリガオトナたちは、自分たちの人生をちゃんと選択して今があるのだろうか。いつも怒っている羽生田先生も、太りに太った弁野先生も、しっかりと今、なりたい自分として、あのようにして生きているのだろうか。
ーー今いる世界ってなんだ?
その時、沙織は、とんでもないことに気がついた。
『今いるこの学校という世界。他の世界と繋(つな)がっているのは当然だと思っていたけど、学生という身分に閉じ込められている自分たちは、一見繋がっているように見せかけて、実は全く繋がっていない』ということを。
ーーアタピ、学校と家しか行き来してなかったから、学校の世界の常識が世界の常識だと信じて疑いもしなかったよ。それしか知らなかったから、学校とメディアと教科書だけが正しい事だと思ってたよ。アルケミストにならなかったら、今のアタピなんて、飼い犬のように毎日餌をもらって、囲まれたドッグランを走らされているようなもんだったよ。安全だけど何も無いから、なんか空虚だったんだ。
沙織は、たった今、気がついた。
『この世界は、自分たちの世界ではない』ということを。
自分たち学生は、良くも悪くも、世界から隔離されている。そして、世界と隔離されているからこそ、自分の力を思うように振るうこともできずに、小さい社会で暇を持て余している。
どんなに大きな想像力を持っていても、少ない情報しか持ってないから、実験動物のように言葉を作り替えて造語を作ったり、体を動かしてポーズを作ったり、大人が作った施設や遊びやメディアやブランドで踊らされたり、動物としての欲望の赴くままに小金や異性を求めたり、クラブやフェスに行くことくらいしかできない。
もしかしたら高校を卒業しても大学で飼い慣らされたり、社会に出ても会社に飼い慣らされたり、結婚しても夫に飼い慣らされるのかもしれない。先の情報は全く誰も教えてくれないから分からないが、もしかしたら先生も飼い犬の一人なのかもしれない。
ーーこれって、アタピの選んだ世界じゃ無いよね。
沙織の胃の上にいる赤い凶暴なケダモノが、牙を尖らせ、唸り声を上げ、首につけられた太い鎖を引きちぎろうとして暴れ始めた。