第106話 Supporting Role Show Up Late,too

文字数 1,377文字

 今や聖地には、闘っている者と倒れた者以外は、沙織の他に誰もいなかった。沙織はMAこそ崩していなかったが、完全な混乱に陥っている。ネーフェと銀次郎を安全な場所に移動させるという名目の元、自分では到底太刀打ちできない闘いに恐れ慄いて逃げ、ただ地面に座り込んで臨場感溢れるアクション映画の行方を見守っているだけだ。

ーーでも……、どうしようもないよ……。だって、アタピには、あそこに立つことが出来る資格なんてない。王子か魔人が気まぐれでこちらに攻撃を仕掛けてきたら、アタピなんて一瞬でこの世からおさらば。いつも強い気持ちを持って生きてきたけど、本当の力にかかったら、アタピの生殺与奪の権利なんて、ここにいる全員に握られてる。その程度の軽い命。

 沙織は、そう思ってしまう自分の気持ちが悔しくて悔しくて堪らなかった。
 その時、こんな激戦の最中で、聖地に向かって崖を滑り降りてくる男が沙織の目に飛び込んできた。猫を一匹連れている。

「沙織! 大丈夫だったか?」

「ミハエル!」

 沙織は、先ほどとは違う涙が出そうになったが、グッと堪えた。

「遅くなったな」

「もうっ!」

 沙織は、自分が行く場所を言わなかったのが悪いのにも関わらず、ミハエルが遅れてきたことをなじるように、多少強めに、ミハエルの太いモモを叩いた。

「沙織が俺を置いて行くから、こんな目にあってんだぞ!」

 チャタローが沙織に説教を垂れる。

「ごめん」

 沙織は素直に謝った。ミハエルは困った顔をして聞いた。

「ところで、今はどんな状況なんだ?」

「ドリーミングしてたらマルタ騎士団に襲われて、クルリン発動して、しぇんしぇーが味方してくれたけど負けて。山中さんと愛ちゃんが来て、クルリンの発動も止まったけど、魔人とヘンリーが、まだアタピたちをやっつけようとしてくんの」

 ミハエルは、沙織のしっちゃかめっちゃかな説明でも、聖地を見回して大体の現状は理解できたようだ。ヘンリーを見て眉をしかめる。

ーーホワイトムーア? あいつ、まだ生きていたのか。ということは……なるほど」

 ミハエルは、沙織の両肩を優しく掴んだ。

「沙織はどうしたい?」

ーーアタピ ?

 沙織は、再度自分の心と話し合った。
 自分があまりにも実力差があることはわかっている。
 しかし、世界と自分のプライドのために戦っているみんなはカッコいい。
 たぶん、ミハエルには怒られるだろう。
 もしかしたら、明日の朝日を拝めないかも知れない。
 それでも……。
 それでも……。
 沙織の口からは、分不相応な言葉が溢れた。

「活躍、したい……」

 ミハエルは、深く青い双眸で沙織を見て、そして、一言言った。

「沙織。それが覚悟というものだ」

 もう何も言うまいという顔で、ミハエルは微笑んだ。
 その時、沙織の下で転がっていたクマオが、背を伸ばして起き上がった。

「まったく。ずっと待っとったで、親友。ワイはどうやら、沙織のオーラがないとリアルでは起きらんないらしいねん。難儀なこっちゃで」

「さあ。役者は揃ったな。Death13を使えるのは沙織、お前だけだ。最後は私のお姫様が全てにケリをつける。怪我人は私が面倒を見る。行ってこい!」

 体内にはどれだけのエネルギーが眠っているのだろう。沙織は、爆発している自分の体内エネルギーが核融合のように混ざり合って、熱く熱く燃え盛っている感覚を全身に感じた。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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