第110話 Apple On Za Table (りんご)
文字数 1,560文字
あっという間に夜は過ぎた。こんな出来事があっても、朝は普通にやってくる。何事もないように日々は過ぎていく。自分たちは一体、何のために生きているのだろう。答えはわからないが、自分の力が世界の行方を左右したような気がする。
沙織は、何か大きなことをやり遂げた満足感があった。
沙織は、いつの間にか眠っていた。
沙織だけではない。先ほどまで闘っていた全ての人が寝転がっていた。
誰も言葉は発さず、満身創痍なのか、満足感なのか、とにかく、ここにある全ての気持ちを、みんなが味わっていた。
一時間もすると、沙織以外の人たちはみんな起き上がった。
だが、沙織は寝ている。みんなは代わる代わるに、このぬいぐるみと手を繋いで寝ている小さな勇者を見て、健闘と共に安らかな気分になった。
リルキドベイベーはシュドー・リキトハスと共に、ネーフェを担いで山を降りていった。後についていくマルタ騎士団。その姿は、ゴルゴダの丘から降ろされるキリストとその弟子たちを喚起させた。
アーサー・マックス隊長やジョージ・テイラーADDら調査隊は戻ってこようとしたが、アナング族によって再び聖地に入ることを禁じられ、そのまま下山したらしい。
リック・リーボック大尉らオーストラリア国軍も反抗の意を示したものの、やはりアナング族に同じように言われ、渋々何人かの警備をウルルの麓に残し、国軍本部に戻った。リックはウルルを降りる時、手に入れられなかった沙織を見ながら忌々しそうな顔をし、その後、二度と振り向かなかった。
「これからまた、ここは立入禁止となる。じゃがワシは、沙織にこのタイミングでドリーミングを見せられたことは本当に良かったと思っている。人の成長にはその時に大切なものがある。今回の体験で、沙織はまたひとつ大きな人間になっただろう」
ジミー・マンガヤリは、しわくちゃの目を細くして沙織を見ていた。戦士ウルルはこの闘いで重傷を負って、この場所にはいない。
「さて、行くか」
山中が銀次郎をおぶる。
「こいつもよくやったよ」
ジョットが銀次郎の背中をたたく。山中もうなづいた。十年ぶりの再会だというのに、山中とジョットの間にはそれだけの言葉しか交わされなかった。
情報屋マヨネスは、嬉しそうにメガネをかけて、あちこちを調べ回っている。
愛染は魂を失ったかのように、そのマヨネスの動きと、戦いの痕をじっと見つめていた。
寝ている沙織の元には、当然のようにジョットが来る。ジョットは沙織を、お姫様のように持ち上げようとした。が、じっと沙織の寝顔を見ていたミハエルが手で制す。
「ジョット。その役目は私がやる」
「……わかったよ」
ジョットに多少の不満はあったが、今まで十年間、ずっと近くで見守り続けてきたミハエルの言葉には重みがあった。ミハエルは、クマオを沙織の胸の上に乗せ、そっと沙織を抱え上げた。
帰りは全員何も話さなかった。
下山すると山中は、ゲートを開いて銀次郎と共にリアルカディアに戻ると言う。高級なウイッシュを使用するらしい。ピッピを大量に持っている山中ならではの力技だ。
ジョットは、マヨネスが用意していたプライベートジェットでモスクワに戻るという。
「一緒に来るか?」
沙織を抱えたミハエルにジョットが尋ねたが、ミハエルはゆっくりと首を振った。
ウルルの麓では、毎朝、朝日を見るツアーが組まれているために、たくさんの観光客が集まっている。ツアー客のために用意されているテーブルには、果物や温かい飲み物が用意されている。
ミハエルが、沙織を片手で抱えながら、テーブルに置いてあるリンゴを手に取った。観光客は誰も気づいていない。ミハエルも特に気にしていない。
ーーそりゃ犯罪だよ。
愛染だけが気づいていて、遅れて自分のお腹が空いていることに初めて気がついた。
沙織は、何か大きなことをやり遂げた満足感があった。
沙織は、いつの間にか眠っていた。
沙織だけではない。先ほどまで闘っていた全ての人が寝転がっていた。
誰も言葉は発さず、満身創痍なのか、満足感なのか、とにかく、ここにある全ての気持ちを、みんなが味わっていた。
一時間もすると、沙織以外の人たちはみんな起き上がった。
だが、沙織は寝ている。みんなは代わる代わるに、このぬいぐるみと手を繋いで寝ている小さな勇者を見て、健闘と共に安らかな気分になった。
リルキドベイベーはシュドー・リキトハスと共に、ネーフェを担いで山を降りていった。後についていくマルタ騎士団。その姿は、ゴルゴダの丘から降ろされるキリストとその弟子たちを喚起させた。
アーサー・マックス隊長やジョージ・テイラーADDら調査隊は戻ってこようとしたが、アナング族によって再び聖地に入ることを禁じられ、そのまま下山したらしい。
リック・リーボック大尉らオーストラリア国軍も反抗の意を示したものの、やはりアナング族に同じように言われ、渋々何人かの警備をウルルの麓に残し、国軍本部に戻った。リックはウルルを降りる時、手に入れられなかった沙織を見ながら忌々しそうな顔をし、その後、二度と振り向かなかった。
「これからまた、ここは立入禁止となる。じゃがワシは、沙織にこのタイミングでドリーミングを見せられたことは本当に良かったと思っている。人の成長にはその時に大切なものがある。今回の体験で、沙織はまたひとつ大きな人間になっただろう」
ジミー・マンガヤリは、しわくちゃの目を細くして沙織を見ていた。戦士ウルルはこの闘いで重傷を負って、この場所にはいない。
「さて、行くか」
山中が銀次郎をおぶる。
「こいつもよくやったよ」
ジョットが銀次郎の背中をたたく。山中もうなづいた。十年ぶりの再会だというのに、山中とジョットの間にはそれだけの言葉しか交わされなかった。
情報屋マヨネスは、嬉しそうにメガネをかけて、あちこちを調べ回っている。
愛染は魂を失ったかのように、そのマヨネスの動きと、戦いの痕をじっと見つめていた。
寝ている沙織の元には、当然のようにジョットが来る。ジョットは沙織を、お姫様のように持ち上げようとした。が、じっと沙織の寝顔を見ていたミハエルが手で制す。
「ジョット。その役目は私がやる」
「……わかったよ」
ジョットに多少の不満はあったが、今まで十年間、ずっと近くで見守り続けてきたミハエルの言葉には重みがあった。ミハエルは、クマオを沙織の胸の上に乗せ、そっと沙織を抱え上げた。
帰りは全員何も話さなかった。
下山すると山中は、ゲートを開いて銀次郎と共にリアルカディアに戻ると言う。高級なウイッシュを使用するらしい。ピッピを大量に持っている山中ならではの力技だ。
ジョットは、マヨネスが用意していたプライベートジェットでモスクワに戻るという。
「一緒に来るか?」
沙織を抱えたミハエルにジョットが尋ねたが、ミハエルはゆっくりと首を振った。
ウルルの麓では、毎朝、朝日を見るツアーが組まれているために、たくさんの観光客が集まっている。ツアー客のために用意されているテーブルには、果物や温かい飲み物が用意されている。
ミハエルが、沙織を片手で抱えながら、テーブルに置いてあるリンゴを手に取った。観光客は誰も気づいていない。ミハエルも特に気にしていない。
ーーそりゃ犯罪だよ。
愛染だけが気づいていて、遅れて自分のお腹が空いていることに初めて気がついた。