第117話 VEGEMITE (お土産ピーチューブ)
文字数 2,078文字
ーーうん。やっぱりそうだ。
沙織は確信した。
『世界は自分を中心に回り続けている』ということを。
自分の生きている世界は、愛染を中心にでも、イルミナティを中心にでも、他の誰かを中心にでもない。自分を中心に回り続けている。そして、自分の世界は自分だけの世界で、自分が思うような世界を作り続ければ、自分の思うような世界になっていくはずだ。自分が作りたい世界に向かって進んで行く姿を見せれば、世界はその姿に近づいていく。
沙織は、言語化したことではっきりとした確信を持ち、青春にありがちな悩み事が全て頭の中で晴れ渡ったような気がした。太宰治が隣にいたら、肩を叩いて教えてやりたいほどだった。
ーー今でもギンさんは、アタピのためにKOKに入団できるように尽力を尽くしてくれてるような気がする。挨拶もできずに別れているモフフローゼン師匠も、半年経ったらアルケミーの指導をしてくれると思う。また一緒に、蜂蜜の入った紅茶を飲みたい。愛ちゃんは、アタピのこと好きと言いながらも、自分の目指す野望のために一歩一歩着実に前進していくのだろう。アタピはそれを追いかけることによって、さらに自分の世界を大きくしてくんだ。再会したジョットは、次なる冒険にアタピを誘おうとしてくれているかもしれない。その他の人たちも、アタピの世界では、アタピと何らかの関わりを持ちながら、この瞬間を生きているのだろう。この世界。全部、アタピの中にあるこの世界。アタピがいなければない世界。ジミー・マンガヤリ。こういうことかな。
沙織は、この教室、この世界をもう一度じっくりと眺め回し、さらに遠くにまで感覚を広げようとしてみた。校舎を抜け、道路を越え、公園を越え、線路を越え、四谷全体に広がり、東京全体に広がり、日本全体に広がり、リアル全体に広がる。アルカディアだって感じられるほどだ。
ーーうん。人だけじゃない。あらゆるクリーチャー。自然も。大気だってそう。過去や未来だってそう。アタピが思えたことがこの世界の全てで、アタピが思ったことだけがこの世界の全てだ。アタピが見識を広げ、感覚を広げ、広い心を持ち、世界を大きくしようと思えば、それだけ無限に世界は大きくなる。アタピが見識を広げず、感覚を広げず、ただ誰かを妬んだり、誰かのせいにしていれば、世界はそれだけ、無限につまらないものになる。
沙織の頭の中には、腐って萎(しお)れていくリンゴと、瑞々(みずみず)しく光っていくリンゴがなぜか思い浮かんだ。
ーー何のために生きているのか。答えは、自分の世界を作るために生きているんだ。自分にとっての理想の世界を目指して生きているのなら、広い世界であろうが狭い世界であろうがどうでもいい。今のこの世界における立ち位置がどうかとか、誰かが自分のことをどう思うからどう、とかではない。この世界は、自分が自らの手で作るものだと分かった時、もうすでに自分の世界なのだ。
「これを、環世界と言います」
今は生物の授業中。八田先生が黒板に力強くチョークを打ちつけた。
ーーアタピの世界。みんなと違ってていいの。生きる意味なんて、アタピの思う理想の世界を作るためなんだ。みんな優しくて、エキサイティングで、えっと、えっと、あと、とにかく、ロマンチ ! 蜂蜜色のロマンチデーズがいい ! そのためには、とびっきりの力をつけるんだ。アタピだけの、とびっきりの力。
いつのまにか授業が終わっている。
諭吉が近づいてきて、じっと沙織を見た。
「なに?」
そうしようと思ったからといって、すぐに態度は変わらない。沙織はいつもどおりぶっきらぼうに答えたが、諭吉は不思議な顔をした。
「あれ? 沙織、なんか変わったー?」
自分が変わったかどうかはわからない。変化は他人が決めるものだ。
「んーん」
それでも沙織は変わってないよと断言した。
「ふーん。気のせいかー」
「それよりアタピ、お土産買ってきた。今日SNSで、食べるのやりたい」
「出るの久しぶりジャーン。カメに聞いてくるね!」
諭吉は嬉しそうにカメウサのところへ走っていく。
ーーアタピ、なんか変わったのかなー。
沙織はクルクルクラウンをそっと左手首から外し、両手で握ってオーラを集中した。今の自分の全てを注いでみた。
この何ヶ月間のこと。
十年前のあの事件の時の気持ち。
そして、今まで生きてきた人生に対する深い感謝。
授業中に考えていたこと。
自分の全てを心を込めて、クルクルクラウンに注入していった。
ーーあれ?
その時、腕輪になっているクルクルクラウンの影から、一匹の白い小人がそっと顔を出した。沙織が子供の頃に作った、初めてのオリジナルキャラだ。
小人は恥ずかしそうに「ハロー」と沙織に挨拶し、また腕輪の影に隠れる。小人の存在は誰にも見えてはいないようだが、沙織は明らかに自分が成長したと確信した。
「沙織ー。オッケーだって !」
「やた !」
沙織は、今までにない明るい笑顔で、ピーチーズに向かって大きく両手を突き上げた。
世界はある、と自分が自覚した時に初めて生まれる。
沙織の世界は続く。
沙織は確信した。
『世界は自分を中心に回り続けている』ということを。
自分の生きている世界は、愛染を中心にでも、イルミナティを中心にでも、他の誰かを中心にでもない。自分を中心に回り続けている。そして、自分の世界は自分だけの世界で、自分が思うような世界を作り続ければ、自分の思うような世界になっていくはずだ。自分が作りたい世界に向かって進んで行く姿を見せれば、世界はその姿に近づいていく。
沙織は、言語化したことではっきりとした確信を持ち、青春にありがちな悩み事が全て頭の中で晴れ渡ったような気がした。太宰治が隣にいたら、肩を叩いて教えてやりたいほどだった。
ーー今でもギンさんは、アタピのためにKOKに入団できるように尽力を尽くしてくれてるような気がする。挨拶もできずに別れているモフフローゼン師匠も、半年経ったらアルケミーの指導をしてくれると思う。また一緒に、蜂蜜の入った紅茶を飲みたい。愛ちゃんは、アタピのこと好きと言いながらも、自分の目指す野望のために一歩一歩着実に前進していくのだろう。アタピはそれを追いかけることによって、さらに自分の世界を大きくしてくんだ。再会したジョットは、次なる冒険にアタピを誘おうとしてくれているかもしれない。その他の人たちも、アタピの世界では、アタピと何らかの関わりを持ちながら、この瞬間を生きているのだろう。この世界。全部、アタピの中にあるこの世界。アタピがいなければない世界。ジミー・マンガヤリ。こういうことかな。
沙織は、この教室、この世界をもう一度じっくりと眺め回し、さらに遠くにまで感覚を広げようとしてみた。校舎を抜け、道路を越え、公園を越え、線路を越え、四谷全体に広がり、東京全体に広がり、日本全体に広がり、リアル全体に広がる。アルカディアだって感じられるほどだ。
ーーうん。人だけじゃない。あらゆるクリーチャー。自然も。大気だってそう。過去や未来だってそう。アタピが思えたことがこの世界の全てで、アタピが思ったことだけがこの世界の全てだ。アタピが見識を広げ、感覚を広げ、広い心を持ち、世界を大きくしようと思えば、それだけ無限に世界は大きくなる。アタピが見識を広げず、感覚を広げず、ただ誰かを妬んだり、誰かのせいにしていれば、世界はそれだけ、無限につまらないものになる。
沙織の頭の中には、腐って萎(しお)れていくリンゴと、瑞々(みずみず)しく光っていくリンゴがなぜか思い浮かんだ。
ーー何のために生きているのか。答えは、自分の世界を作るために生きているんだ。自分にとっての理想の世界を目指して生きているのなら、広い世界であろうが狭い世界であろうがどうでもいい。今のこの世界における立ち位置がどうかとか、誰かが自分のことをどう思うからどう、とかではない。この世界は、自分が自らの手で作るものだと分かった時、もうすでに自分の世界なのだ。
「これを、環世界と言います」
今は生物の授業中。八田先生が黒板に力強くチョークを打ちつけた。
ーーアタピの世界。みんなと違ってていいの。生きる意味なんて、アタピの思う理想の世界を作るためなんだ。みんな優しくて、エキサイティングで、えっと、えっと、あと、とにかく、ロマンチ ! 蜂蜜色のロマンチデーズがいい ! そのためには、とびっきりの力をつけるんだ。アタピだけの、とびっきりの力。
いつのまにか授業が終わっている。
諭吉が近づいてきて、じっと沙織を見た。
「なに?」
そうしようと思ったからといって、すぐに態度は変わらない。沙織はいつもどおりぶっきらぼうに答えたが、諭吉は不思議な顔をした。
「あれ? 沙織、なんか変わったー?」
自分が変わったかどうかはわからない。変化は他人が決めるものだ。
「んーん」
それでも沙織は変わってないよと断言した。
「ふーん。気のせいかー」
「それよりアタピ、お土産買ってきた。今日SNSで、食べるのやりたい」
「出るの久しぶりジャーン。カメに聞いてくるね!」
諭吉は嬉しそうにカメウサのところへ走っていく。
ーーアタピ、なんか変わったのかなー。
沙織はクルクルクラウンをそっと左手首から外し、両手で握ってオーラを集中した。今の自分の全てを注いでみた。
この何ヶ月間のこと。
十年前のあの事件の時の気持ち。
そして、今まで生きてきた人生に対する深い感謝。
授業中に考えていたこと。
自分の全てを心を込めて、クルクルクラウンに注入していった。
ーーあれ?
その時、腕輪になっているクルクルクラウンの影から、一匹の白い小人がそっと顔を出した。沙織が子供の頃に作った、初めてのオリジナルキャラだ。
小人は恥ずかしそうに「ハロー」と沙織に挨拶し、また腕輪の影に隠れる。小人の存在は誰にも見えてはいないようだが、沙織は明らかに自分が成長したと確信した。
「沙織ー。オッケーだって !」
「やた !」
沙織は、今までにない明るい笑顔で、ピーチーズに向かって大きく両手を突き上げた。
世界はある、と自分が自覚した時に初めて生まれる。
沙織の世界は続く。