第47話 Guide (案内人?)
文字数 2,128文字
クネクネと曲がるオーロラロードを進む。クリスタルパレスに降り注いでいる蛍光灯のような冷たい光は、春の太陽のように柔らかく温かな光へと変化し始めた。
「もうすぐ出口やな」
サオリに腕を持たれてブラブラとしたクマオが、ウキウキとした声で話す。
「クマオはリアルカディアに来たことある?」
「ワイか? あらへん。せやけど話は聞いたことがあんで。夢と現実のごった煮やゆうてな。まあワイはぬいぐるみで、女王陛下のお城を歩き回るだけで毎日楽しかったから、こんなところに来ようとは夢にも現実にも思わへんかったけどな」
「ふーん」
サオリがさして興味のなさそうな返事をしたので、クマオは慌てて早口で付け加えた。
「せやけど沙織に再開してからは、今までの日々が嘘のように新しいところに行きたいいう冒険心にあふれとるんや。嘘やないで。リアルカディア。どんなとこやろな?」
サオリもクマオと同じことを思っていたが、早く行きたいという思いが強すぎて反応出来ていないだけだった。サオリは言葉を発する代わりにクマオの手をギュッと握りしめた。温かなオレンジ色の光は徐々に強くなる。オーロラのように蒼いクリスタルパレスは終わり、サオリの足元は大理石の地面に変わっていく。
ーーうわー。
クリスタルパレスの外はちょうどいい気温だ。乾燥していることもなく、湿気がきついわけでもない。過ごしやすいことこの上ないという表現が一番適当だ。上に太陽はないが、空がそのまま太陽の柔らかい温かさを全方位から自分の体に染み込ませてくれる。日焼けもしなさそうだ。
振り向くと、自分の出てきた場所からモウモウと肌に良さそうな蒸気が漏れている。クリスタルパレスの外観は、ローマ帝国の巨大神殿のように、大理石の柱が左右に並んでいる。真ん中には細長い塔が立っている。昨日登った世界塔だ。高過ぎて頂上が見えない。
クリスタルパレスは高台に建てられている。周りを見渡すとここを中心に放射上に街が広がっていることがわかる。サオリがリアルカディアだと思っていた場所はクリスタルパレスの内部に過ぎなかったようだ。
「遅かったな。まったく。待たせるんじゃねーよ」
足元から声がしたので下を見ると、一匹の子猫がいた。茶色い。虎模様。
ーー見たことある。
「おー、チャタローやないか! もしかして自分がガイドか ? まったく銀次郎のやつ。チャタローの正体隠しやがって。ワイらをなんや思てんねん」
そうだ。最初にクマオを連れてきてくれた子猫だ。ギンジロウによると、サオリがネーフェと戦っている場所を教えてくれたのもチャタローだと言っていた。もしあの時、ギンジロウが来るのが遅ければ、サオリやアイゼンは大怪我、いや、もしかしたら死んでいたかもしれない。そう考えるといかに偉そうな喋り方をしていても、命の恩人なのだから感謝しなければならない。
「チャタ!」
サオリの声がけにチャタローは目を合わせた。
「この前、助けてくれて、ありがと」
「ば、ばかやろ。俺はただ、雅弘の子供を守ってやろうと思っただけで、その、お前のことなんて、少しも考えちゃいねえんだからな」
サオリの言葉にチャタローは慌てて目をそらした。
「パパのこと知ってるの?」
サオリの言葉にクマオが答える。
「あったりまえやないか。チャタローは雅弘のパートナーだったんやで」
「パートナー?」
「せや。アルキメストの多くはパートナーと呼ばれる動物と契約してることが多いんや。特にKOKは百萬猫がKOQにいる関係上、猫と契約していることが多い。優秀なパートナーはアルキメストにとっては必須やからな。何匹も契約するアルキメストもおるが、雅弘はチャタロー一匹としか契約しとらんかったらしいで」
ーーパパのパートナー…。
サオリは話を聞いてもなお信じられなかった。猫の寿命は十五年くらい。だが目の前にいるのは明らかな子猫。
ーーまあ、わからないことは聞いてみよう。
サオリは素直にチャタローに聞いた。
「パパのパートナーにしては、チャタ若すぎ…」
「俺は三代目だよ」
チャタローは、ちゃんと聞いてくれたなという顔で食い気味に答えた。
「三代目?」
「チャタローは、猫魂いうSDFを持っとって、死んでも死んでも転生するんや。つまり、三代目いうことは、雅弘がいなくなってから二回死んだーいうことや」
サオリとチャタローは言葉足らずでなかなか話が噛み合わないが、おしゃべりなクマオが全てに解釈を入れてくれる。一人と二匹はいい組み合わせだ。サオリはファンタジーを知って一日しか経っていなかったが、ファンタジーの力といわれれば何を言われても納得するようになっていた。
「てことはチャタロー無敵?」
「なわけねーだろ。受け継げるのは知識と思い出だけ。死んだらまた一から修行しなおさなきゃなんねー。しかも自分と同じ血を引き継いでいねーとダメときた。この子猫の体、クソ弱ええんだ。最初の体が懐かしいぜ」
チャタローは自分の体を睨め回した。
「それよりモフフローゼンの所に行くんだろ? 案内するぜ」
「ありがと」
二回目の感謝の言葉が高速で頭に当たったかのように、チャタローは首を反対に飛ばされるほど捻って歩き出した。サオリもクマオを掴んで後を追った。
「もうすぐ出口やな」
サオリに腕を持たれてブラブラとしたクマオが、ウキウキとした声で話す。
「クマオはリアルカディアに来たことある?」
「ワイか? あらへん。せやけど話は聞いたことがあんで。夢と現実のごった煮やゆうてな。まあワイはぬいぐるみで、女王陛下のお城を歩き回るだけで毎日楽しかったから、こんなところに来ようとは夢にも現実にも思わへんかったけどな」
「ふーん」
サオリがさして興味のなさそうな返事をしたので、クマオは慌てて早口で付け加えた。
「せやけど沙織に再開してからは、今までの日々が嘘のように新しいところに行きたいいう冒険心にあふれとるんや。嘘やないで。リアルカディア。どんなとこやろな?」
サオリもクマオと同じことを思っていたが、早く行きたいという思いが強すぎて反応出来ていないだけだった。サオリは言葉を発する代わりにクマオの手をギュッと握りしめた。温かなオレンジ色の光は徐々に強くなる。オーロラのように蒼いクリスタルパレスは終わり、サオリの足元は大理石の地面に変わっていく。
ーーうわー。
クリスタルパレスの外はちょうどいい気温だ。乾燥していることもなく、湿気がきついわけでもない。過ごしやすいことこの上ないという表現が一番適当だ。上に太陽はないが、空がそのまま太陽の柔らかい温かさを全方位から自分の体に染み込ませてくれる。日焼けもしなさそうだ。
振り向くと、自分の出てきた場所からモウモウと肌に良さそうな蒸気が漏れている。クリスタルパレスの外観は、ローマ帝国の巨大神殿のように、大理石の柱が左右に並んでいる。真ん中には細長い塔が立っている。昨日登った世界塔だ。高過ぎて頂上が見えない。
クリスタルパレスは高台に建てられている。周りを見渡すとここを中心に放射上に街が広がっていることがわかる。サオリがリアルカディアだと思っていた場所はクリスタルパレスの内部に過ぎなかったようだ。
「遅かったな。まったく。待たせるんじゃねーよ」
足元から声がしたので下を見ると、一匹の子猫がいた。茶色い。虎模様。
ーー見たことある。
「おー、チャタローやないか! もしかして自分がガイドか ? まったく銀次郎のやつ。チャタローの正体隠しやがって。ワイらをなんや思てんねん」
そうだ。最初にクマオを連れてきてくれた子猫だ。ギンジロウによると、サオリがネーフェと戦っている場所を教えてくれたのもチャタローだと言っていた。もしあの時、ギンジロウが来るのが遅ければ、サオリやアイゼンは大怪我、いや、もしかしたら死んでいたかもしれない。そう考えるといかに偉そうな喋り方をしていても、命の恩人なのだから感謝しなければならない。
「チャタ!」
サオリの声がけにチャタローは目を合わせた。
「この前、助けてくれて、ありがと」
「ば、ばかやろ。俺はただ、雅弘の子供を守ってやろうと思っただけで、その、お前のことなんて、少しも考えちゃいねえんだからな」
サオリの言葉にチャタローは慌てて目をそらした。
「パパのこと知ってるの?」
サオリの言葉にクマオが答える。
「あったりまえやないか。チャタローは雅弘のパートナーだったんやで」
「パートナー?」
「せや。アルキメストの多くはパートナーと呼ばれる動物と契約してることが多いんや。特にKOKは百萬猫がKOQにいる関係上、猫と契約していることが多い。優秀なパートナーはアルキメストにとっては必須やからな。何匹も契約するアルキメストもおるが、雅弘はチャタロー一匹としか契約しとらんかったらしいで」
ーーパパのパートナー…。
サオリは話を聞いてもなお信じられなかった。猫の寿命は十五年くらい。だが目の前にいるのは明らかな子猫。
ーーまあ、わからないことは聞いてみよう。
サオリは素直にチャタローに聞いた。
「パパのパートナーにしては、チャタ若すぎ…」
「俺は三代目だよ」
チャタローは、ちゃんと聞いてくれたなという顔で食い気味に答えた。
「三代目?」
「チャタローは、猫魂いうSDFを持っとって、死んでも死んでも転生するんや。つまり、三代目いうことは、雅弘がいなくなってから二回死んだーいうことや」
サオリとチャタローは言葉足らずでなかなか話が噛み合わないが、おしゃべりなクマオが全てに解釈を入れてくれる。一人と二匹はいい組み合わせだ。サオリはファンタジーを知って一日しか経っていなかったが、ファンタジーの力といわれれば何を言われても納得するようになっていた。
「てことはチャタロー無敵?」
「なわけねーだろ。受け継げるのは知識と思い出だけ。死んだらまた一から修行しなおさなきゃなんねー。しかも自分と同じ血を引き継いでいねーとダメときた。この子猫の体、クソ弱ええんだ。最初の体が懐かしいぜ」
チャタローは自分の体を睨め回した。
「それよりモフフローゼンの所に行くんだろ? 案内するぜ」
「ありがと」
二回目の感謝の言葉が高速で頭に当たったかのように、チャタローは首を反対に飛ばされるほど捻って歩き出した。サオリもクマオを掴んで後を追った。