第32話 Styx (地獄の一丁目)
文字数 1,362文字
まぶたの裏側で感じる光が先ほどまでと違う。サオリはそっと眼を開けた。
ーーん? んん? 眩しい。
だだっ広い空間にサオリが今まで見たことのない明るさ。アフリカやインドの明るすぎる日差しでもコンサートの照明のような痛い明るさでもない。どんな明るさが一番近いかといえば北欧の白夜がそれに近いだろうか。
ーー優しく冷たい明るさ。
見渡す限りただ明るく光り輝いて、地平線も天井もない。よく宇宙人に捕らえられた人が「突然まばゆい光に包まれて」と言っているがこんな感じなのかもしれない。VRゴーグルをはずした時のよう。まったく変わった景色に佇んでいる自分にサオリは驚きを隠せなかった。
ーーミハエル。ん?
周りを見回してみてもアイゼンしかいない。
ーークマオ?
自分でしっかりと抱きしめていたはずのクマオもいない。
「沙織」
アイゼンはサオリの肩に手を置いた。
ーーひとりじゃなくて、アイちゃんいてよかった。
サオリは気丈に振る舞った。
「アイちゃん。ここ、どこ? ロコ、モコ?」
アイゼンも周りを見渡しながら言う。
「イノギン、こと井上銀次郎さんのお話では、ここがKOKの本部で、クリスタルパレスってことなのかな?」
「本部、何もない」
「これでどんな仕事ができるんだろうね」
アイゼンは笑いながら辺りを見回す。
「イノギンさんもミハエルもクマオもいなくなっちゃった」
「うーん。私たちはどうすればいいんだろ? ま、なるようにしかならないか」
「さしずめ寿司詰。まな板の上の鯉」
「注文の多い料理店だったらまだ看板が出てるだけマシなのにね」
二人は何らかのヒントを探るべく更に辺りを見回したが何もなかった。何もないというのは恐ろしいもので、上下や地面もよくわからなくなってくる。
「少し探検してみる?」
「でもこの場所にまた戻ってこられるようにはしないとね。なにか目立つモノを置いておこうか?」
そんなことを話していると、天から声が聞こえてきた。
「そなたらはダビデ王の騎士団、井上銀次郎の名において推薦された、加藤沙織、藤原愛染の両名で間違いないな?」
どことなく物憂げで面倒臭そうな老婆の声だ。
ーーダビデ王の騎士団? そういえば先ほどイノギンさんが言っていた。
「はい。そうです」
サオリの不安などどこ吹く風という体でアイゼンは元気に答えを返した。サオリも慌てていない風を装って元気にうなづく。
「わかった。ちょっと待ってな」
しわがれた声だ。それっきり静かになる。
ーーちょっと? ちょっとって人によって感覚違う。十秒か十分かわかんない。
サオリが考えているとすぐにまた天の声が聞こえてきた。先ほどとは違う若い女性の声。今回の「ちょっと」は三十秒程度だった。
「加藤沙織。藤原愛染。確認、照合が完了いたしましたのでこちらへどうぞ。ただいまから入国審査を開始いたします」
光の空間に突如、漆黒の入口が出現する。まるで宇宙船の乗り込み口のようだ。
ーーわー。最新技術。
サオリは新しいことに対する好奇心が旺盛なので気分が高揚した。何もないところから出られる安心感もあったのかもしれない。
「行こう」
「ミハエルとかクマオ、どうしよう…」
「でも、ここにいてもわからないわ」
ーーそりゃそうか。
アイゼンに押し出されるように肩をそっと抱かれ、サオリはタタラを踏みながら入口に向かった。
ーーん? んん? 眩しい。
だだっ広い空間にサオリが今まで見たことのない明るさ。アフリカやインドの明るすぎる日差しでもコンサートの照明のような痛い明るさでもない。どんな明るさが一番近いかといえば北欧の白夜がそれに近いだろうか。
ーー優しく冷たい明るさ。
見渡す限りただ明るく光り輝いて、地平線も天井もない。よく宇宙人に捕らえられた人が「突然まばゆい光に包まれて」と言っているがこんな感じなのかもしれない。VRゴーグルをはずした時のよう。まったく変わった景色に佇んでいる自分にサオリは驚きを隠せなかった。
ーーミハエル。ん?
周りを見回してみてもアイゼンしかいない。
ーークマオ?
自分でしっかりと抱きしめていたはずのクマオもいない。
「沙織」
アイゼンはサオリの肩に手を置いた。
ーーひとりじゃなくて、アイちゃんいてよかった。
サオリは気丈に振る舞った。
「アイちゃん。ここ、どこ? ロコ、モコ?」
アイゼンも周りを見渡しながら言う。
「イノギン、こと井上銀次郎さんのお話では、ここがKOKの本部で、クリスタルパレスってことなのかな?」
「本部、何もない」
「これでどんな仕事ができるんだろうね」
アイゼンは笑いながら辺りを見回す。
「イノギンさんもミハエルもクマオもいなくなっちゃった」
「うーん。私たちはどうすればいいんだろ? ま、なるようにしかならないか」
「さしずめ寿司詰。まな板の上の鯉」
「注文の多い料理店だったらまだ看板が出てるだけマシなのにね」
二人は何らかのヒントを探るべく更に辺りを見回したが何もなかった。何もないというのは恐ろしいもので、上下や地面もよくわからなくなってくる。
「少し探検してみる?」
「でもこの場所にまた戻ってこられるようにはしないとね。なにか目立つモノを置いておこうか?」
そんなことを話していると、天から声が聞こえてきた。
「そなたらはダビデ王の騎士団、井上銀次郎の名において推薦された、加藤沙織、藤原愛染の両名で間違いないな?」
どことなく物憂げで面倒臭そうな老婆の声だ。
ーーダビデ王の騎士団? そういえば先ほどイノギンさんが言っていた。
「はい。そうです」
サオリの不安などどこ吹く風という体でアイゼンは元気に答えを返した。サオリも慌てていない風を装って元気にうなづく。
「わかった。ちょっと待ってな」
しわがれた声だ。それっきり静かになる。
ーーちょっと? ちょっとって人によって感覚違う。十秒か十分かわかんない。
サオリが考えているとすぐにまた天の声が聞こえてきた。先ほどとは違う若い女性の声。今回の「ちょっと」は三十秒程度だった。
「加藤沙織。藤原愛染。確認、照合が完了いたしましたのでこちらへどうぞ。ただいまから入国審査を開始いたします」
光の空間に突如、漆黒の入口が出現する。まるで宇宙船の乗り込み口のようだ。
ーーわー。最新技術。
サオリは新しいことに対する好奇心が旺盛なので気分が高揚した。何もないところから出られる安心感もあったのかもしれない。
「行こう」
「ミハエルとかクマオ、どうしよう…」
「でも、ここにいてもわからないわ」
ーーそりゃそうか。
アイゼンに押し出されるように肩をそっと抱かれ、サオリはタタラを踏みながら入口に向かった。