第98話 Last Song (最後の唄)
文字数 1,316文字
焚き火は十二を超え、最後のソングラインも終わりを迎えそうだ。
「間も無くだな」
ジミー爺さんがやってくる。普段絶対できない経験なので、沙織は、一人で見るのは勿体無いと思った。
「ギンさんとジョージさんも呼んでいい?」
「アルキメストの二人か」
「そう」
「二人にも見せろとは精霊から聞いていない」
ジミー爺さんは、たっぷりと間を取った後で続けた。
「が、沙織が言うのならば、きっと良いのだろう。よかろう。二人も連れてきなさい」
銀次郎とジョージは、カンガルーの肉を食べながら味付けについて話をしていた。
「もうすぐソングラインが終わるそうです。見に行きませんか?」
「いやいや。私たちはここからのんびり眺めてるよ。映像も撮ってるし」
「でも、絶対、近くで見た方がいいの」
沙織は、何と言っていいのかわからないもどかしさに包まれた。銀次郎は別に行きたくないわけではない。ただ調査隊を守る必要上、ジョージの近くにいなければならない。
「なるほど。エスゼロがそういうのなら。ジョージさん。行きませんか? もしかしたら調査の役に立つかもしれません」
「まったく。調査を盾にされるとどうしようもないな。行くとしよう。よっこらしょ、と」
ジョージは、連日の調査で痛めていた重い腰を持ち上げた。沙織はジョージと銀次郎と共に、再び焚き火の並ぶ最前に人をかき分けて戻る。
ソングラインは徐々にゆっくりとした旋律を奏でていく。
ジミー爺さんは十二番目の焚き火から一本燃え盛る木を抜き取り、そっと最後の薪の上に乗せた。木は薪の上でしばらくくすぶり、熱を辺りに放出し、やがて他の木にも影響を与え、徐々に炎を大きく燃え広がらせ始める。薪は焚き火となる。小さな世界の出来上がりだ。小さな世界が集まって大きな世界を生み出し、その中に人々の創造を詰め込んだ夢の世界が出来上がる。
ーー世界はどこを切っても世界なんだな。切っても切っても桃太郎。
沙織は、なんだか不思議な気分だった。
十三番目、最後の焚き火に火が灯り、聖地の真ん中に大きな火の輪ができる。ソングラインで囲まれた炎の輪は、踊り歌う人々の力を吸収するように神々しい光を放ち始めた。光は導火線のように各焚き火を繋ぐ。
全ての焚き火が繋がれた時、焚き火に囲まれた空間は光り輝いた。イコンでダイバーダウンする時のようだ。ただダイバーダウンとは違い、ずっと輝き続けている。アルキメストと一部のアナング族以外は見えないのだろう。こんなにも不思議で神々しいシーンだというのに、驚くものはほとんどいない。
その光景を見て驚いているのは、沙織、クマオ、戦士ウララ、銀次郎、ジョージADD、ヘンリー王子。それだけだった。
ーーミスターヘンリー?
沙織はなんとなく気になった。事前にオーラを測った時、ヘンリーは確かにアルキメストではなかった。だが、この変化が見えているようだ。ヘンリーは輪から離れ、電波が通っていないために使えないスマートフォンをいじっている。
ーーこの感動をメモ帳にでも残してるんかなー。
ただ、他人のことなんて気にしている場合ではない。目の前には美しい世界が広がっているのだから。
炎の円は水鏡のように輝き、強く大きく伸び始めた。
「間も無くだな」
ジミー爺さんがやってくる。普段絶対できない経験なので、沙織は、一人で見るのは勿体無いと思った。
「ギンさんとジョージさんも呼んでいい?」
「アルキメストの二人か」
「そう」
「二人にも見せろとは精霊から聞いていない」
ジミー爺さんは、たっぷりと間を取った後で続けた。
「が、沙織が言うのならば、きっと良いのだろう。よかろう。二人も連れてきなさい」
銀次郎とジョージは、カンガルーの肉を食べながら味付けについて話をしていた。
「もうすぐソングラインが終わるそうです。見に行きませんか?」
「いやいや。私たちはここからのんびり眺めてるよ。映像も撮ってるし」
「でも、絶対、近くで見た方がいいの」
沙織は、何と言っていいのかわからないもどかしさに包まれた。銀次郎は別に行きたくないわけではない。ただ調査隊を守る必要上、ジョージの近くにいなければならない。
「なるほど。エスゼロがそういうのなら。ジョージさん。行きませんか? もしかしたら調査の役に立つかもしれません」
「まったく。調査を盾にされるとどうしようもないな。行くとしよう。よっこらしょ、と」
ジョージは、連日の調査で痛めていた重い腰を持ち上げた。沙織はジョージと銀次郎と共に、再び焚き火の並ぶ最前に人をかき分けて戻る。
ソングラインは徐々にゆっくりとした旋律を奏でていく。
ジミー爺さんは十二番目の焚き火から一本燃え盛る木を抜き取り、そっと最後の薪の上に乗せた。木は薪の上でしばらくくすぶり、熱を辺りに放出し、やがて他の木にも影響を与え、徐々に炎を大きく燃え広がらせ始める。薪は焚き火となる。小さな世界の出来上がりだ。小さな世界が集まって大きな世界を生み出し、その中に人々の創造を詰め込んだ夢の世界が出来上がる。
ーー世界はどこを切っても世界なんだな。切っても切っても桃太郎。
沙織は、なんだか不思議な気分だった。
十三番目、最後の焚き火に火が灯り、聖地の真ん中に大きな火の輪ができる。ソングラインで囲まれた炎の輪は、踊り歌う人々の力を吸収するように神々しい光を放ち始めた。光は導火線のように各焚き火を繋ぐ。
全ての焚き火が繋がれた時、焚き火に囲まれた空間は光り輝いた。イコンでダイバーダウンする時のようだ。ただダイバーダウンとは違い、ずっと輝き続けている。アルキメストと一部のアナング族以外は見えないのだろう。こんなにも不思議で神々しいシーンだというのに、驚くものはほとんどいない。
その光景を見て驚いているのは、沙織、クマオ、戦士ウララ、銀次郎、ジョージADD、ヘンリー王子。それだけだった。
ーーミスターヘンリー?
沙織はなんとなく気になった。事前にオーラを測った時、ヘンリーは確かにアルキメストではなかった。だが、この変化が見えているようだ。ヘンリーは輪から離れ、電波が通っていないために使えないスマートフォンをいじっている。
ーーこの感動をメモ帳にでも残してるんかなー。
ただ、他人のことなんて気にしている場合ではない。目の前には美しい世界が広がっているのだから。
炎の円は水鏡のように輝き、強く大きく伸び始めた。