第56話 White Soil  (白い土に点)

文字数 1,648文字

 二月が終わり、三月も半分が過ぎた。学校は三学期が終わり、春休みに入っている。サオリは毎日、スカイにオーラを集中する訓練を続けていた。
 ミドリのアドバイスは、「オーラ量は多いほうだけど、クリエイティビティが足りない。もっとPSが白くなることを想像してみたほうがいいもん」という一言の繰り返しだ。サオリは手芸やお絵描きが得意だし、創造力に関しては自信を持っていたので、思ったよりも衝撃を受けた。
ーー「石よ白くなれ」といくら念じても白くならない。アタピの目の前は黒くなっちゃいそうだよ。お先真っ暗くら。
 サオリは今日も、ぶつくさとオーラをこめながら創造したが、いつも通り、一向にスカイは白くならない。モフフローゼンが白くした時のことははっきりと覚えているが、どうしてもあの時のようにはいかない。
ーーアタピ、才能ない?
 いつもは、「やればできる」という言葉を胸に一切の迷いがないのだが、なにか、絶望的ななにかを今日は感じる。
ーーこのままじゃダメ。
 サオリの心の中に、悲痛なほどの決意が溢れてきた。石を握る手に力がこもる。
ーーお願い!
 サオリは、今までにないくらいに祈りを込めて賢者の石に集中した。すると、気のせいかもしれないが、手のひらを通して石に呼吸を感じる。黒い石に白く輝く、小さな光の鼓動を感じる。
 ひとつではない。
 ふたつ。
 みっつ。
 徐々に光が増えていく。
ーーそうだ。モフフローゼンから賢者の石をもらった時も、やっぱり光る星がいくつか瞬いていた。
 サオリは集中を続けた。
ーーあの後、光はどうなったっけ? 確か、光輪を描いて拡がっていった。
 サオリは、小さく灯った光を爆発させるようなイメージを拡げてみた。光が徐々に拡がっていく。点が丸になっていく。丸の中でエネルギーがボールのように膨らみ、これ以上は広がらないというところで、光の丸は一気に弾け、土星の輪っかのような形に飛び散った。
 パアア。
 パアア。
 そっと手の平を広げてみる。手の上に乗っているスカイは真っ白になっていた。
ーーわああ。
 心の中で達成感が弾けた。サオリは手の上で輝く白い石を見つめて、とてつもなく幸せになった。この幸せな気分は誰かに分配しないと気が済まない。クマオは街に遊びに行っている。サオリはミドリを探しにいった。

「みどりん!」
 ミドリはハンモックに揺られながら、顔だけをサオリの方に向ける。
「どうしたもん?」
ーーへへ。
 サオリは、後ろ手に隠していたスカイを見せた。ミドリは特に反応がなく、ただ、「へー」とだけつぶやいた。
「できたよ!」
 サオリは褒めてもらいたいので、再度言葉に出して結果を報告する。
「うん」
 首をかしげているサオリに、ミドリは仕方がないなという顔でボソリと言った。
「MAは?」
「MA?」
 ミドリは意地悪な顔で、ハンモックの中で座り直した。
「そう。MA。モードアルケミスト。それができないと、アルケミストとは認められないんだもん」
 サオリは驚いた。モードアルケミストなんて聞いたことがないからだ。ミドリはその顔を見て、勢いづいて話を続けた。サオリに情報を隠していたのだ。
「MAっていうのは、体にPSをまとわりつかせる方法だもん。その白い石を気化させて、全身のオーラにまとわりつかせんなん。ただし、鼻とか口も閉じちゃうと息ができなくなるから、それは注意すんだもん」
 サオリは、すぐに創造力を働かせて、自分の体にスカイをまとわりつかせようと思った。だが、見たこともないので、そのやり方がまったくわからない。スカイは、うんともすんとも応えなかった。
ーーま、一歩進んだし。できるまでやるだけ。
 サオリは成果が出たのでもはや悩まない。ああでもないこうでもないと考えながら、そのまま深い集中に入った。いつも練習しているワンワン工房の裏庭に行くこともなく、すぐ目の前で修行を再開したことにミドリは驚いたが、「どうでもいいか」と思い直し、またハンモックに寝転がり、反対側を向いて、鼻歌を歌いながらのんびりと体を揺らした。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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