第9話 Staring Contest (にらめっこ)

文字数 1,498文字

 クマオは感謝されるものだと思っていたが、逆にサオリが困惑しているので、おかしいなと感じていた。
「ん? もしかして…。沙織、ピンチやなかったのか? ワイの勘違い? かくれんぼしとっただけ?」
ーーあれ? ドッキリだって気づいたのに。まだ続くの?
 サオリは少しがっかりした。良いネタは良いタイミングで終わらせることが肝要。これ以上は蛇足だ。ただ祝ってくれるピーチーズの気持ちを無下にするわけにもいかない。それにあのカメたちのことだ。もうひとネタ残っているのかもしれない。
ーーまっ、『笑う会』会長のカメの実力、見てみまひょ。
 サオリは最後までサプライズに乗ることを心に決めた。
「クマオー。今ピンチなの」
 ピーチゾンビーズに追われているのだからそういうことに違いない。一言繋いでみたらさらに面白い方向になる予感がする。サオリはワクワクが止まらなかった。
ーーさすがは桃。
 クマオは目を輝かせて答えた。
「せやろ! でも大丈夫。ワイと沙織がコンビを組んだら無敵やからな。ハニーズ再結成や。また一緒に蜂蜜色の冒険をしに行くでー!」
「おー!」
 なんのこっちゃと思いながらも、サオリはクマオのするがまま、コブシを同時に突きあげた。子猫は「やれやれ」という冷めた顔をしている。クマオはまた真面目な顔になった。
「ところで沙織。なんで沙織はピンチなんや?」
「カメ達に追われてるの」
 サオリはなるべく子猫のレンズに目線を向けないようにしながら、芝居がかって話をした。
「カメ? 沙織、爬虫類嫌いか? ワイ好きやで。首なんかクー伸ばしてな」
「そのカメじゃなくて親友のカメ」
「親友? ワイよりも親友なんか?」
 クマオは不機嫌な顔をした。
「親友はどっちが親友かなんて測れないよ」 
「でもワイ、沙織を追いかけてピンチにしたりはせーへんで」
 さらに不満顔になる。
ーーカメが操ってるクマぐるみに、「カメよりクマオの方が親友です」なんて言えるはずがないでしょー。
 サオリは無表情で首を傾けた。無言でお互い見つめ合う。
 一秒。二秒。
 先に目を離したのはクマオだった。
「わーった。わーった、わーった。ワイの負けや。ま、七勝八敗くらいの僅差やけどな。負けは負けや。せやけど親友の親友やったら、絶対ワイに紹介せえよ」
「おい」
 急に子猫がドスのきいた声を出して、クマオを睨んだ。その一言で急に何かを思い出したようだ。クマオは失敗したという顔をし、慌てて激しく両腕を振った。
「あかんあかん。やっぱ紹介せんでええ。むしろワイらが喋れるいうんは内緒にしといてくれへんか?」
ーーもう話の流れを切るような野暮はしない。
 サオリはただ真剣な顔をしてうなづいた。クマオは焦っていた表情を緩める。子猫もうなづいて再びそっぽを向く。今いる位置が映像を録画しやすいのだろう。全くその場から動かない。
「で。沙織は親友に追いかけられて何でピンチなんや? ワイやったらこっちから近づいて、ぎょうさんギュー抱いてやるけどな」
「アタピも普段はそうするけど。でも今日は変。カメも諭吉もウサも、なぜかアタピに怖い顔で向かってくんの」
「それは変やなー? 親友やったらついニコニコしてまうもんやからなー」
 クマオは短い腕を組んで考えた。
 が、すぐに顔を上げた。表情は明るい。
「まっ♪」
 クマオは一回地面を蹴るような動作をした。
「考えててもしゃーあらへん。会って話をせんと何もわからん。なんせ他クリ、いや他人やからな。そのカメとやらに会いにいくで!」
ーーあ! これで桃が集合して「おめでとう」て感じ? いいじゃない。
「うん!」
 緊張と緩和。サオリは今までにない楽しい誕生日になる予感がした。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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