第89話<Same Hotel> 3rd Floor (三階)

文字数 3,313文字

 同じ時間、20メートルも離れていない同じホテルの3階の1部屋では、3人の白人が話をしていた。イタリア語だ。
 部屋は大きく、男3人でもまだ余裕がある。家具もホテルの家具ではない。ベッド類は全て端に避けられ、代わりに大きな簡易テーブルセットが置かれている。
 1人は190センチ近い40代。プロレスラーのような体型。髪は長めで金髪だ。顎髭と鼻髭が繋がっている。顔はややくどく、純粋なイタリア人のように見える。服装はジーパンとロングTシャツ。至って普通の出立ちだ。
 隣には、170センチあるかないかの身長だが、体重は100キロを下らないと思われる筋肉の塊のような男だ。白人にしては浅黒い。鼻が潰れている。30歳になるかならないかという年齢だ。短パンとTシャツ。上にチェックのシャツを羽織っている。
 机を挟んで180センチに届くかどうかという男。彼は逆に細い。60キロ代だろう。頬が痩けていて、髪も白髪だ。疲れ切っていて何歳なのかはわからないが、そこまで歳ではないようにも感じる。多く見積もっても40歳には届かない年齢だろう。服は、青いワイシャツと黒のスラックスだ。全員ラフな格好だが、それでもどこか無理があるようにも見える。
 どうやって来たのだろうか。ベランダに、1人の白人の青年があらわれた。長い銀髪を後ろで束ねている。全身黒づくめで、サングラスは黄色い。
 3人は立ち上がり、ベランダを開け、青年にお辞儀をした。
「お待ちしておりました。ホワイトモア様」
 どうやら、知っている顔のようだ。
「堅苦しい挨拶は要らぬ。現状を報告せよ。まずはカラヴァッジオからだ」
 ホワイトモアは、一番若いのに一番偉そうだ。だが、偉そうな話し方が様になっている。
「はっ !」
 顔の前で手を組み、一番体の大きな中年が話し始めた。
「我が部隊30名は、現在各部屋に2名ずつ、このホテルに泊まっております」
「うむ」
 次にホワイトモアは、残りの2人を見た。
「お前らは、リルキド・ベイベーとシュドー・リキハトスだな。もう1人来るという話だが」
「はい。明日、日本を出立する手筈になっております」
 リルキドは手を組んで返答した。
「モリナリは来ないのか ?」
「はい。彼は戦闘が不得意ですし、ガブリエル様にこちらの情報が届かないようにするため、バチカンにいるそうです」
ーーなるほど。それはそうだな。
 ホワイトモアは顎に手を当て、すぐに納得した。
「よし。では作戦を指示する。相手の戦力は、調査隊15名、オーストラリア軍10名、それと、20名前後の現地部族だ。彼らは現代的な武器を持っていない。軍がハンドガンを持っているが、近代的な装備を持つお前たちには効かない。カラヴァッジオたちだけで十分制圧できるだろう」
「はっ !」
 カラヴァッジオはかしこまった。
「問題はアルキメストだ。1人は考古学者のジョージ。ADDだ。老人なので戦闘は出来ないだろう。こいつはアルキメストが対峙する必要もない。聖槍は持ってきているのか ?」
 聖槍とは、自分のオーラを注入することにより、錬金術師やアルカディアンに対しても攻撃できる槍である。訓練が必要だが、錬金術師でなくても扱える。
「はい。あります」
 カラヴァッジオは、部屋の隅に立てかけてある大きな袋を指さした。
「うむ。おそらく戦いに来ることはないだろうが、もし立ち向かってきたらお前たちで対応しろ」
「はっ !」
「次に、ベイビーとシュドー。お前たちは、KOKのイノギンを相手してくれ。APDだが、こいつは厄介な相手だ」
「私たちは2人ともBランクです。さすがに負けないでしょう」
 一番小柄な体格のいい男が、リラックスした表情で笑う。よほど自分の強さに自信があるのだろう。マグナ・ヴェリタスのアルカンジェロ、リルキド・ベイベーだ。ホーリータートルという異名を持つ。
「ええ。戦いには自信があります。ですがKOKを相手にして、教皇様のご迷惑になることはございませんでしょうか?」
 細身のボクサー体型をした男が、心配そうな声を出す。同じくマグナ・ヴェリタスのアルカンジェロ、シュドー・リキハトスだ。ファティーグという異名を持つ。
 ホワイトモアはうなづいた。
「うむ。肝はそこだ。だが心配ない。実は今回、イノギンとエスゼロという2人のアルキメストがKOKから来ているが、そのことをKOKは把握していない」
「どういうことですか?」
「彼らは単独行動をとっている。KOKには伝えていない。我々が、そうなるように仕掛けておいた、ということだ」
「ということは?」
「イノギンとエスゼロ。この2人を闇に葬れば、KOKが真実を知ることはない」
「彼らだけは確実に捕まえろ。そうすれば秘密は守られる。そういうことですね」
「そうだ。もちろん、我々の正体はなるべくだけにもバレないに越したことはない。私の着ているような黒装束を用意した」
 シュドーは、安心した顔をした。
「ならば、心置きなく戦地に赴くことができます」
「ああ。全てはカトリックの未来のために」
 リルキドもうなづいた。
「今話に出てきたもう1人のKOK。エスゼロはどうするおつもりですか?」
 ホワイトモアは、もちろん考えているという顔で、カラヴァッジオと目を合わせた。
「エスゼロはKOKの見習いだ。AFFなので、聖槍を持つお前でも倒せるかもしれない。だが、絶対に手を出すな。戦うことは構わないが、絶対に殺してはならない。彼女は私の獲物だ」
「王が自らお相手なさるのですか ?」
「ああ。彼女を捕らえなければ、13聖人の髑髏も、愚者の冠も、我々の手には入らない。この作戦の肝だ。私が自ら、確実に捕まえる」
ーーあの、美しく成長した娘。散々凌辱してやるんだ。しかもカトゥーの娘。久々の楽しい獲物。何人たりとも触らせない。
 ホワイトモアは、心の中の舌舐めずりを表面に出さず、冷静な顔で話を続けた。
「わかりました。それなら安心ですね」
 カラヴァッジオはうなづいた。
「あと、もう1点」
 カラヴァッジオが指を立てる。
「なんだ?」
「王は、調査隊たちがどこに泊まっているのか、部屋までわかるんですよね」
「調べればな」
 ホワイトモアの答えを聞いた途端、カラヴァッジオの顔は明るくなった。
「ならば聖地に行かずとも、このホテルでピンポイントに相手を攻撃した方が早く決着するのではないでしょうか?」
 我ながらいいことを言ったという顔だ。
「なるほど」
ーー浅はかな質問だ。だが、浅はかだからこそ教皇の言葉も聞かず、キリスト教のためだというモリナリの言葉に殉じられるのだろう。馬鹿とハサミは使いよう、だな。
 ホワイトモアは、ため息をつくように答えた。
「いいか。私たちは、オーストラリア政府と密約を結んでいる。誰にも見られない聖地でだけは、何をしてもいい。そういう密約だ。そこ以外の場所で事件を起こせば、今回の調査に携わっている400人のオーストラリア軍は動かざるを得ない。マスコミにも発表せざるを得ない。そうなったら、困るのはお前たちの組織だろう ?」
 カラヴァッジオは自分が浅はかだったと気づき、慌てて頭を下げた。
「どうもすいませんでした」
「よい」
 ホワイトモアは、細長い指をバレリーナのように優雅に前に出して許しを与えた。
「他に ? 何か質問はあるか ?」
 3人は納得したことを、ノンバーバルコミュニケーションで示した。
「うむ。では、作戦中は、常にこのイヤホンを耳につけておけ。私からの指示ですぐに動けるようにな」
「わかりましてございます」
ーーあとは切り札として、もう1人のアルカンジェロが来れば、全ての準備が整うな。
 ホワイトモアは、3つの超小型イヤホンを机の上に置き、振り返ることもせずにベランダから、まるで家に帰るかのように自然な足取りで飛び降りて消えた。
 残された3人はイヤホンを手にとり、互いに目を合わせ、力強くうなづいた。
ーーいよいよ聖戦が始まる。この戦力差なら、万が一にも失敗することはあるまい。それに、初めて見たホワイトモアという王の威圧感。何という、安らぎと、そして敵への絶望を与えてくれる男なのだろう。
 3人は、自信に満ちた顔つきで解散した。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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