第64話 Lectures on Making Dream by Mof
文字数 2,854文字
次に向かうのはモフフローゼンの元だ。ワンワン工房に着くと、ミドリがハンモックに揺られている。
ーーまた修行してない。いつしてんだろ。まぁどうでもいいけど。
無視をするのも悪いので、サオリは一応挨拶をすることにした。
「みどりん。おはよ」
「サオリ! 今日は修行に来ないなって思ったら。こんな遅くにどうしたんだもん」
「モフモフさんに用事があって」
「どんな用事? 一番弟子のあたいからモフフローゼンさんに聞いてきてあげようか?」
「みどりはドリームメーカー?」
「まだ違うけど」
「じゃあ平気」
「なんで」
「だってわかんないでしょ?」
「わかるかもよ」
サオリは問答が面倒臭くなった。時間に対する価値観がまるで違う。時間がもったいない。知らないことは第一次情報である本人に話を聞くのが一番良い。サオリは近くにいる獄卒鬼を見つけてモフフローゼンの場所を聞いた。
「あちらです」
以前に聞かれた時は歯切れが悪かったが、もうサオリがモフフローゼンに会いにいっても大丈夫な人だとわかっているので、すぐに案内をしてくれる。ミドリはハンモックから立ち上がり、歯ぎしりをして悔しがった。
モフフローゼンは奥の部屋にいた。扉をノックして入る。
「モフモフさん」
モフフローゼンは瞑想をしていたようだ。あぐらをかいたまま、ゆっくりとこちらを向く。
「ん? どうしたんだ?」
「あ、瞑想してたの?」
「ああ」
「邪魔しちゃった。ごめんなさい」
「いや。沙織が会いにきてくれた方が嬉しいぞ。なんせ、瞑想は一人でできるが、沙織と話すのは一人ではできないからな。まるで綱引きのように」
「ありがと」
モフフローゼンは優しい笑みで答えた。
「で、どうした?」
「ドリームメーカーについて聞きたいの」
「ああ」
モフフローゼンはのっそりと、体ごとサオリの方を向いた。
「モフモフさんは、ハトの羽でFって作れる?」
「平和ハトか? 沙織も使ってるFだな」
ーーアタピも?
サオリは自分を指差した。
「イコンだ。クリスタルでダイバーダウンする時に使う」
「ハトの羽でイコンが作れるの?」
「いや。羽でイコンが作れるわけではない。平和ハトの羽をエネルギーとして起動する。イコンはエネルギー供給型のFなんだ。車でいうなら羽はガソリンみたいなものだ。ダイバーダウンをするたびに一枚使用される」
サオリは考えた。
ーー本来はダイバーダウン一回につき千ピッピかかる。千枚五十万ピッピで仕入れるということは一枚五百ピッピ。自分でイコンのエネルギーを作れるなら、ハトの羽千枚で百万ピッピ手に入る…。簡単に作れるなら儲けは倍だ。
「アタピも作れるようになりますか?」
「沙織はドリームメーカーを目指すのかい?」
モフフローゼンは驚いた顔をした。サオリは首を振った。
「ただ、作ってみたいだけです」
モフフローゼンは鼻の上にしわを寄せた。
「ドリームメーカーになるのは難しいぞ。例えば、今沙織よりアルキメストとして上位にいるみどりは、三年間私についているがまだドリームメーカーにはなれない。沙織はフィロソフィアのGランクだから、下手したら十年はかかるんじゃないか? しかも、もしイコンを作りたいなら、あれはホープファンタジーの割にはかなり難しいFだから、さらに十年はかかるかもしれないな」
「そかー」
サオリは、外見上は茫然自失に見える思考モードに入った。
「なんで沙織はイコンを作りたいんだ?」
質問は、聞くにも答えるにも技術がいる。一番自分が知りたい情報を知るにはどうしたらいいのか。サオリは少し考えてから話し始めた。
「えっと、ピッピが欲しいんです」
「ピッピ? それとイコンがどういうつながりを?」
サオリはモフフローゼンに今までの経緯を話した。
「なるほど。ピッピを稼ぐためにクエスト屋にいったら、平和ハトの羽を手に入れるクエストで、平和ハトの羽を手に入れられ続けることができるのなら安定的な稼ぎが得られる、という訳か」
サオリはうなづいた。
「では沙織に、平和ハトの羽について色々と教えよう。平和ハトの羽は、我々ドリームメーカーが材料屋で買うと、一枚だいたい七百ピッピで買うことができる。それをエネルギーに加工してジョセフ・シュガーマンに売るのがだいたい九百ピッピ。だからシュガーマンの儲けは、ダイバーダウン一回で百ピッピだ」
ーーいろんな人が関わってる…。
「沙織はそれを全部やって、誰かが一回ダイバーダウンをする毎に千ピッピ入るようにしたい、ということかね?」
サオリはそう思っていたので、本当は雰囲気的に首を縦に振りたくはなかったが不承不承うなづいた。
「なるほど。たくさんのクリーチャーの稼ぎを奪って、自分一人で独占しようというわけか」
もうサオリはうなづかなかった。
「沙織がこれからそうなるまでにはどのくらいの時間がかかるのだろうか? そしてそうなった時に他のクリーチャーはかわいそうだなあ。クリーチャーによっては沙織より安く羽を売るようになって、価格競争が起きるかもしれないなあ」
サオリは黙って聞いている。
「実はワシには、今の時点でそれが出来る力があるんだ。だが、力には責任が伴う。もし今、ワシがそれをしてしまったら、沙織はどうだろう?」
ーー困る…。
「下のアルケミストは育たないし、他のクリーチャーとは争いが起こるだろう」
ーー確かに…。
そこまで話して、急にモフフローゼンは優しい顔つきになった。
「沙織。目先の自分のピッピのことだけ考えるならばそうするといい。嘘の商材を売ったりマルチ商法をする人間のようにな。だが、ワシは自分の研究をしたいし、沙織たちがたくさんクエストをこなしてもっと成長できると良いと思っている。とすると、今の沙織のような者たちが平和ハトの羽を持ってきてくれるということは、お互いにとってとてもありがたい。みんながお互いをありがたがって生きている。これが良い世界のサークルだと思わないか?」
サオリはうなづいた。
「だから、今ピッピが少なくて実力もない沙織は、がんばって平和ハトの羽を見つけてくるといい。そのうちもっと大きなことができるようになったら、それは自分の後に出てくる新しいアルキメストに譲って、自分は新たなことに挑戦するんだ。今の自分には今の自分のやるべきことがある。小さな世界しか見られずに一人で全部をこなそうとする必要はない。世界は広いし、沙織は成長し続ける」
「わかった」
サオリは頭の中で考え直した。
ーーつまり、今アタピがやるべきことは、ハトの羽をたくさん集められるようになって自分の錬金術の力を上げることてわけね。
考えながら部屋を出て行こうとしたサオリは、ふと気付いて立ち止まり、モフフローゼンの方を向いた。
「モフモフさん。色々教えてくれて、どうもありがとうございました」
深くお辞儀をするサオリに、モフフローゼンは早口になる。
「よ、よしなさい。ワシらは親友じゃないか」
ーー親しき仲にも礼儀あり。心からそう思うよ。尊敬する。
サオリはもう一度お礼を言って、部屋を出て行った。
ーーまた修行してない。いつしてんだろ。まぁどうでもいいけど。
無視をするのも悪いので、サオリは一応挨拶をすることにした。
「みどりん。おはよ」
「サオリ! 今日は修行に来ないなって思ったら。こんな遅くにどうしたんだもん」
「モフモフさんに用事があって」
「どんな用事? 一番弟子のあたいからモフフローゼンさんに聞いてきてあげようか?」
「みどりはドリームメーカー?」
「まだ違うけど」
「じゃあ平気」
「なんで」
「だってわかんないでしょ?」
「わかるかもよ」
サオリは問答が面倒臭くなった。時間に対する価値観がまるで違う。時間がもったいない。知らないことは第一次情報である本人に話を聞くのが一番良い。サオリは近くにいる獄卒鬼を見つけてモフフローゼンの場所を聞いた。
「あちらです」
以前に聞かれた時は歯切れが悪かったが、もうサオリがモフフローゼンに会いにいっても大丈夫な人だとわかっているので、すぐに案内をしてくれる。ミドリはハンモックから立ち上がり、歯ぎしりをして悔しがった。
モフフローゼンは奥の部屋にいた。扉をノックして入る。
「モフモフさん」
モフフローゼンは瞑想をしていたようだ。あぐらをかいたまま、ゆっくりとこちらを向く。
「ん? どうしたんだ?」
「あ、瞑想してたの?」
「ああ」
「邪魔しちゃった。ごめんなさい」
「いや。沙織が会いにきてくれた方が嬉しいぞ。なんせ、瞑想は一人でできるが、沙織と話すのは一人ではできないからな。まるで綱引きのように」
「ありがと」
モフフローゼンは優しい笑みで答えた。
「で、どうした?」
「ドリームメーカーについて聞きたいの」
「ああ」
モフフローゼンはのっそりと、体ごとサオリの方を向いた。
「モフモフさんは、ハトの羽でFって作れる?」
「平和ハトか? 沙織も使ってるFだな」
ーーアタピも?
サオリは自分を指差した。
「イコンだ。クリスタルでダイバーダウンする時に使う」
「ハトの羽でイコンが作れるの?」
「いや。羽でイコンが作れるわけではない。平和ハトの羽をエネルギーとして起動する。イコンはエネルギー供給型のFなんだ。車でいうなら羽はガソリンみたいなものだ。ダイバーダウンをするたびに一枚使用される」
サオリは考えた。
ーー本来はダイバーダウン一回につき千ピッピかかる。千枚五十万ピッピで仕入れるということは一枚五百ピッピ。自分でイコンのエネルギーを作れるなら、ハトの羽千枚で百万ピッピ手に入る…。簡単に作れるなら儲けは倍だ。
「アタピも作れるようになりますか?」
「沙織はドリームメーカーを目指すのかい?」
モフフローゼンは驚いた顔をした。サオリは首を振った。
「ただ、作ってみたいだけです」
モフフローゼンは鼻の上にしわを寄せた。
「ドリームメーカーになるのは難しいぞ。例えば、今沙織よりアルキメストとして上位にいるみどりは、三年間私についているがまだドリームメーカーにはなれない。沙織はフィロソフィアのGランクだから、下手したら十年はかかるんじゃないか? しかも、もしイコンを作りたいなら、あれはホープファンタジーの割にはかなり難しいFだから、さらに十年はかかるかもしれないな」
「そかー」
サオリは、外見上は茫然自失に見える思考モードに入った。
「なんで沙織はイコンを作りたいんだ?」
質問は、聞くにも答えるにも技術がいる。一番自分が知りたい情報を知るにはどうしたらいいのか。サオリは少し考えてから話し始めた。
「えっと、ピッピが欲しいんです」
「ピッピ? それとイコンがどういうつながりを?」
サオリはモフフローゼンに今までの経緯を話した。
「なるほど。ピッピを稼ぐためにクエスト屋にいったら、平和ハトの羽を手に入れるクエストで、平和ハトの羽を手に入れられ続けることができるのなら安定的な稼ぎが得られる、という訳か」
サオリはうなづいた。
「では沙織に、平和ハトの羽について色々と教えよう。平和ハトの羽は、我々ドリームメーカーが材料屋で買うと、一枚だいたい七百ピッピで買うことができる。それをエネルギーに加工してジョセフ・シュガーマンに売るのがだいたい九百ピッピ。だからシュガーマンの儲けは、ダイバーダウン一回で百ピッピだ」
ーーいろんな人が関わってる…。
「沙織はそれを全部やって、誰かが一回ダイバーダウンをする毎に千ピッピ入るようにしたい、ということかね?」
サオリはそう思っていたので、本当は雰囲気的に首を縦に振りたくはなかったが不承不承うなづいた。
「なるほど。たくさんのクリーチャーの稼ぎを奪って、自分一人で独占しようというわけか」
もうサオリはうなづかなかった。
「沙織がこれからそうなるまでにはどのくらいの時間がかかるのだろうか? そしてそうなった時に他のクリーチャーはかわいそうだなあ。クリーチャーによっては沙織より安く羽を売るようになって、価格競争が起きるかもしれないなあ」
サオリは黙って聞いている。
「実はワシには、今の時点でそれが出来る力があるんだ。だが、力には責任が伴う。もし今、ワシがそれをしてしまったら、沙織はどうだろう?」
ーー困る…。
「下のアルケミストは育たないし、他のクリーチャーとは争いが起こるだろう」
ーー確かに…。
そこまで話して、急にモフフローゼンは優しい顔つきになった。
「沙織。目先の自分のピッピのことだけ考えるならばそうするといい。嘘の商材を売ったりマルチ商法をする人間のようにな。だが、ワシは自分の研究をしたいし、沙織たちがたくさんクエストをこなしてもっと成長できると良いと思っている。とすると、今の沙織のような者たちが平和ハトの羽を持ってきてくれるということは、お互いにとってとてもありがたい。みんながお互いをありがたがって生きている。これが良い世界のサークルだと思わないか?」
サオリはうなづいた。
「だから、今ピッピが少なくて実力もない沙織は、がんばって平和ハトの羽を見つけてくるといい。そのうちもっと大きなことができるようになったら、それは自分の後に出てくる新しいアルキメストに譲って、自分は新たなことに挑戦するんだ。今の自分には今の自分のやるべきことがある。小さな世界しか見られずに一人で全部をこなそうとする必要はない。世界は広いし、沙織は成長し続ける」
「わかった」
サオリは頭の中で考え直した。
ーーつまり、今アタピがやるべきことは、ハトの羽をたくさん集められるようになって自分の錬金術の力を上げることてわけね。
考えながら部屋を出て行こうとしたサオリは、ふと気付いて立ち止まり、モフフローゼンの方を向いた。
「モフモフさん。色々教えてくれて、どうもありがとうございました」
深くお辞儀をするサオリに、モフフローゼンは早口になる。
「よ、よしなさい。ワシらは親友じゃないか」
ーー親しき仲にも礼儀あり。心からそう思うよ。尊敬する。
サオリはもう一度お礼を言って、部屋を出て行った。