第16話 Spinning Crown (クルクルクラウン)

文字数 1,741文字

「貸してー」
 アイゼンは甘えた声とは裏腹に、ひったくるようにしてクマオから本を奪った。任意のページを開ける。サオリも気になったのでアイゼンの後ろから覗く。何も書いていない。ただの白紙だ。クマオが偉そうに話す。
「それは愛染には使えへん。使い方を見せたる」
 アイゼンは素直に幻脳ウィキを返した。クマオは誇らしげに本を開き、顔に押し付け表紙をサオリの腕輪に向ける。幻脳ウィキの表表紙と裏表紙に描かれている両方の目が開く。まるでクマオの目のようだ。
「これでわかるんや。クルクルクラウン。所有者は加藤沙織。ランク、いや、効能は世界を具現化するもの」
 何かを隠したような物言いにアイゼンが質問を投げかける。
「それ以外にはわからないの?」
「み、見え、いや。い、言えへんなー」
ーークマオは嘘をつくことがないように努力をしてくれてる。
 アイゼンはクマオに対してさらなる敬意を持って、言えなさそうなことは聞かないように努めた。
「その幻脳ウィキって、クルリン以外のものでも見えるの?」
「ああ。超優秀や。例えばピーチーズを見れば彼女らの名前もわかんで」
「じゃあ、カメがどの子だかわかる?」
 クマオはグッタリとしているピーチーズに幻脳ウィキを向けた。表紙に描かれた目がグリグリと動く。
「カメはあのショートカットの子やな。亀谷綾菜。なんや、笑う会会長て」
ーー『笑う会』ってアタピ達の学校にしかないサークルなのに。深まる信用。
 アイゼンは自分の質問をしたくなった。
「私の身長わかる?」
「愛染か? 181cm。体重は69kgや」
「体重はいらないよー」
「ちなみに沙織は身長149cmの39kgや」
ーー150cmあるし。
 身長を一センチ誤魔化していることがバレた。サオリが誰にも話していない情報を知っている。こうなると更に信憑性は高まった。サオリは自分でも幻脳ウィキを試してみたくなった。
「貸して」
 サオリはクマオに手を出した。
「ええけど。沙織も使えんで」
ーーなんでも自分で確かめること。仙術の教えだよ。
 サオリはクマオから幻脳ウィキを渡された。クマオがやっていたように自分の目に当ててみる。真っ暗。ただ紙の感触と匂いがするだけ。顔から本を離して表紙を見ると、幻脳ウィキはすでに目を閉じていた。
「これはクマオにしか使えないの?」
 アイゼンの問いにクマオは答えた。
「使えるヤツもいる思うで。ただ使うにはクリーチャーを選ぶし、使い方があるんや」
「どうやって使うの?」
「んー。…そこはルールに引っかかるし、引っかからないとしてもワイにはうまく説明でけへん」
「なんで説明できないの?」
「ワイは何もせんでも元々使えるからな。教え方がわからへんのや」
「そういう人もいるの?」
「そういう人は…、いるはずやが見たことはあらへんな」
「てことはクマオは天才?」
「天才ちゃう。ワイがア…、あのな」
「なに?」
「お、教えられへんし、ちょ、ちょお待て!」
 アイゼンとサオリがタッグを組むベテランプロレスラーのように交互に質問を続けるので、クマオもさすがにタップの体勢をとった。
「今の質問、全部沙織のピンチと関係あるんか?」
 聞かれてサオリは、クマオの命がかかっていることも忘れてただ興味本位で夢中だったことに気がついた。
ーーあ…。
 サオリは一度、頭の中で考えをまとめてみることにした。
ーーなんでアタピが襲われてんのか。やっぱピーチーズはアタピのクルリンを狙ってるんだ。
 とすると疑問が残る。
ーーなんでカメ達がクルリン欲しいんだろ?
 サオリの気持ちを代弁するかのようにアイゼンが質問をする。
「いろいろ教えてくれてありがとう。脱線してごめんね。沙織が襲われたのって、やっぱりクルリンが原因じゃない?」
「そうかもしれんな」
 謝られたのでクマオの機嫌はもう直っている。短く丸い尻尾が左右に揺れる。
「クルリンの価値を隠すのってどうすればいいの?」
「沙織が制御すれば元通りになんで。そもそもファ、いやこないな風に宝具が主張することなんてなかなか無いはずなんや」
「じゃあ沙織。ちょっと制御してみて」
ーーちょっとジュース買ってきてみたいに気軽に言うね。
 サオリは手首を押さえて力をこめてみた。
「どう? 出来る?」
ーー出来るはずないでしょー。
 サオリは首を振った。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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