第52話<Same World> Austrarian Embassy

文字数 2,153文字

「ジョージさん !」
 考古学者にして発掘屋という裏の顔を持つアメリカ人、アーサー・マックスは、大きなお腹を震わせながら勢いよくオーストラリア大使の部屋から戻ってきた。
「どうだった? 何か進展があったか ?」
 研究者の老アルキメスト、ジョージ・テイラーは、しょぼくれた目を大きく見開いてたずねた。
 アーサーとテイラー。二人は『カトゥーン・ポテト事件』を調査していた。カトゥーン・ポテト事件。サオリの父であるカトゥーが、ファンタジーの実験中に大爆発を起こしたとされる謎の事件である。
 元々、アーサーは金の匂いがすると睨んでいたため、テイラーは学術的な研究のために調べていた。けれども、調べれば調べるほど謎が深まり、カトゥーという男の魅力とともに、この事件の虜になっていったのだ。二人は、この事件が起きた聖地の現地調査をオーストラリア政府に打診している時に知り合い、お互い意気投合し、こうして十年間も一緒に研究を重ねている。
 そして今日、何度依頼書を提出しても梨の礫だったオーストラリア政府から、ワシントンD.C.にあるオーストラリア大使館へと呼ばれ、アーサーが大使と話している間、ジョージは一人で待合室のソファーに座り、その結果を待っていたのだ。
「はい。ついに、ついに政府から、聖地の調査に対する許可がおりました !」
 アーサーの声は涙ぐんでいる。目からだけではない。全身びちょびちょになるくらい、嬉しさを体で表現している。当たり前だ。アーサーは十年間、ずっとこの日を待ち焦がれていたのだから。
 ジョージはアーサーと抱き合って喜んだ後に、震える手でタバコをくわえた。一息吐いて落ち着いてから、アーサーに聞く。
「いったい何故、十年も経ったこの時期に許可が降りたのだ? 今までと変わらず、ただずっと嘆願書を送り続けていただけだったのに。一体何が決め手となったのだ ?」
「どうやら、イギリス王家からの依頼があったそうです」
「イギリス王家からの依頼? なぜ ?」
 二人には純粋なアメリカ人だ。イギリス王家に知り合いは一人もいない。
「それが、私にも詳細はわからないのですが、なんでもヘンリー王子という方が、若い頃にカトゥーに助けられそうです。その彼がようやく資産と地位を手に入れて、カトゥーの死の謎についての調査をするなら、ぜひ援助をしたいとの申し出があったそうです」
「なるほど。オーストラリアとイギリスは蜜月の仲だからなぁ」
 オーストラリアは、元々イギリスの植民地だったことがある。ジョージは感心した後で、枯れ枝のような拳を握りしめ、独り言のような声の小ささでつぶやいた。
「待っていた。待ちわびたぞ。もはやワシが生きているうちには叶えられんと思っていたが。だが、ワシはまだ生きておる。この機会。ありがとうな、マックス」
 小太りのアーサーは頭をかいた。
「いやー。私も今回の調査が成功したら、一気に名前が知れ渡って仕事が増えますから。今までずっとFの鑑定などもヘンリーさんにお願いしてましたし。Win-Winというやつですよ」
「そう言ってくれるとありがたいな」
「ただ、ヘンリー王子が資金も含めて全ての援助をしてくださる代わりに、条件もあるそうです」
「なんだ ?」
 ジョージは不吉な予感を感じた。
「まず、ヘンリー王子が同伴されるということです」
ーー資金提供までしてくれるのならば仕方がない。なんせ、彼がいないと許可は下りなかったのだから。
「当然だな」
 ジョージは油断をしていない。うなづかずに返事をした。
「次に、調査隊は十五人以内。他に警護として、アボリジナル十人とオーストラリア軍十人がつくそうです。さらに、重火器の持ち込みは禁じられるそうです」
「それでは、世界を揺るがすような大発見をした時には殺されるかもしれないということか ?」
 アーサーはそう言われることがわかっていた。
「ええ。ですから、私はマルドラ様にもこの話をしようと思います。彼に伝えておきさえすれば、私たちがむざむざと行方不明になることはありません」
ーーマルドラ。ドーラ会のボス、マルネラ・ドラコフスキーか。
 ジョージは腕組みをした。
「ふむう。そうか。お前はドーラ会の一員だもんな。そのマルドラは、信頼できるのか ?」
 アーサーは自慢の口髭をひっ張り、堂々と言った。
「ええ。ジョージさんのことも信頼しておりますが、マルドラ様は私の父のようなものです。ドーラ会を作ったのマルドラ様ですし、私のような半端者をここまで育ててくださったのもマルドラ様です。そしてマルドラ様は、カトゥーさんの義兄弟でもいらっしゃいます」
ーードーラ会は世界最大の泥棒組織として有名だが、世界最大になるにはなっただけの理由がある。その信頼度は抜群じゃ。そして、このアーサーのように立派な人間もたくさんいるんだよな。まぁ良い。ワシは死ぬ前にカトゥーの謎さえ解ければそれで十分じゃわい。あの地では、必ずや、何か世界にとって大変な出来事が起こったに違いないのだ。その謎だけでも見届けられれば、ワシの一生は満たされる。この男に全てを任せよう。
「うん。ワシはお前を信用している。ならばもう、これ以上何も言うまい。マックス。お前に全てを任せる」
 ジョージの顔は、我が子を見る老人のように優しかった。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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