第107話 Death 13 (死と13)

文字数 2,064文字

 沙織は立ち上がり、改めて現状を把握した。
 ヘンリーとジョットの闘いは、近づいただけで即死してしまうほど緊迫している。これなら竜巻に飛び込む方がまだ生還確率が高いし、沙織が近づけばジョットも集中して闘えなくなる。出る幕はないだろう。
 一方、愛染たちが闘っている魔人とワールドゲートに関しては、Death13で開いてクルクルクラウンで現実化している。両方ともこの場では沙織にしか扱えないファンタジーが発動したせいだ。出番はあるかも知れない。
 沙織は、魔人と闘っている三人の元に向かった。

 対魔人戦は、最初三人同時に闘っていたが、今は二人が闘って一人が休むという交代制をとっている。魔人は何度傷つけても時間と共に回復してしまうし、体力も無尽蔵にある。こうして長く闘いながら、相手の弱点を探ろうという作戦だ。魔人に飛び道具が無く、片足がゲートから出られない状態だからこそおこなえている。
 今休んでいるのは山中だった。

「山中さん!」

「おう。沙織か」

 山中はゴーグルをつけ、指で四角を作って魔人を見ていた。

「なにしてんですか?」

「弱点を調べている」

「弱点?」

「ああ。こいつはリアリストでは無くアルカディアンだ。人間の常識は通じねぇ。心臓を刺しても効果はねぇし、首を切り落とそうとしても、太すぎて斬りきれねぇ。だが、どうやらコアがあるようだ。そのコアを同時に叩くと、こいつは消滅する」

「同時に?」

「そう。一つ見つけた時は小躍りしたが、どうやらコアは全部で四つある」

ーーということは四人必要? 山中さん、愛ちゃん、丸ポチャ(リルキド)さん、そしてアタピが今来たことで四人……。

 沙織は、気合の入った目で山中を見た。

「と思うだろ? だが、ここでひとつ問題がある。お前の腕前に不安を抱えている訳じゃねぇぞ。コアのうちの一つが、魔人の左足の裏にあるんだ。ゲートの向こう側に俺たちは向かえねぇ。てことは、四つのコアを同時に叩くことは出来ねぇ」

ーーてことはつまり……。

 沙織は考えた。

ーー再びゲートを開けることができれば魔人をこちらにおびき出すことができる、てこと ? そしたら足裏のコアも破壊できるから倒すことが出来る。ただ、もしリアルに出したのに倒せなかったら……。

 沙織に不安がよぎった。倒せなければ世界は……。

ーーんーん。そんなことを考えちゃダメ。倒す!

 沙織は首を振った後で、山中に聞いた。

「山中さん。もし魔人をリアルに出せたら、その時は倒せますか?」

 山中は瞬時も迷わず、はっきりとした口調で答えた。

「倒せる!」

 山中の答えと同時に、沙織は叫んだ。

「クマオ! 幻脳ウィキ!」

「よしきた!」

 クマオは、表紙に目がついた辞典を取り出した。沙織が動き出すのをじっと待っていたようだ。

「あの、光るドクロのやつ見て!」

「ガッテン、承知の助太郎!」

 クマオは、妖しく光るドクロをじっとにらんだ。

「アタピにも扱える?」

「デスサーティーン。S3DF(エスキューブド・ドープ・ファンタジー)。特別な儀式により、リアルとアルカディアを繋(つな)げるワールドゲートを開くことができる。沙織に使用可能かというと……できる! というか、沙織にしか扱えんドープファンタジーや!」

「どうやって使うの?」

「それは……わからへん……」

 クマオは残念そうに、声が消え入りそうになったが、慌てて続けた。

「しかし沙織。ファンタジーは、人の思いが形になって出来上がった宝具や。使用可能なアルキメストの想いが強ければ、きっと使える思うで!」

 沙織も同じことを思っていた。というよりも、此の期に及んでは、もうやる以外に方法はない。

「うんっ!」

 沙織は走ってドクロを一つ掴むと、強く強く念じた。

ーー魔人がアルカディアに戻ってくれますように。

ーー魔人がアルカディアに戻ってくれますように。

ーー魔人がアルカディアに戻ってくれますように。

 しかし、魔人が戻る気配も、ワールドゲートが再び開く予感も全く無い。
 山中は攻撃に戻り、今はリルキドが休憩に入ったが、疲労は色濃くなっている。闘っている愛染にも疲れが見える。

ーーお願い。このままじゃ愛ちゃんが死んじゃう。世界が滅んじゃう……。

 やはり魔人は戻らない。ワールドゲートを再び開かせようとするのでは無く、魔人が戻ってくれるようにと祈っている後退した気持ちがいけないのだろうか。
 沙織は、山中のことを信頼してはいるのだが、どうしても、足が抜けた完全体の魔人に勝てる姿が思い浮かばない。それよりも、リアルとアルカディアを繋ぐこのゲートから魔人を元の世界に戻せるかを試す方が、より現実的のような気がする。 

「気張れ! 沙織!」

ーーパパ……。

 クマオの応援が、なぜか雅弘からされているような気がした。沙織は、こんな時にまでまだ父親離れしていないのか、と苦笑しそうになった。

「やっと呼んでくれたな、沙織」

ーーえっ? パパ?

 ゲートの中から、沙織の頭の中に直接声が聞こえてくる。魔神の足で中は見えないが、確かに沙織が覚えている声。沙織の父、加藤雅弘の声だ。
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登場人物紹介

サオリ・カトウ

夢見がちな錬金術師。16歳。AFF。使用ファンタジーはクルクルクラウン。

使用武器はレストーズ。

パパの面影を探しているうちに世界の運命を左右する出来事に巻き込まれていく。

カメ

「笑いの会」会長。YouTuber。韓流好き。

ニヒルなセンスで敵を斬る。ピーチーズのリーダー的存在。

映像の編集能力に長けている。

クマダクマオ

アルカディアから来たクマのぬいぐるみ。女王陛下の犬。

サオリのお友達。関西弁をしゃべる。

チャタロー

カトゥーのパートナーだった初代から数えて三代目。

『猫魂』というファンタジーを使って転生することができる。

体は1歳、中身は15歳。

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