第24話 Heroes Always Show Up Late
文字数 1,503文字
ガチャーーーーーン!
ネーフェが今まさにその手を振り落とさんとした瞬間、アイゼンの後ろから大きな音が鳴った。音楽室のガラス窓が割れた音だ。
空間をぶち破るような派手な音。どうせ割るなら大きくぶち破ってやろうとでもいうような意志を持った塊が、冬の寒気とともにアイゼンの頭上を横切る。塊は、アイゼンとネーフェの間に落ちた。隕石と見まごうばかりの熱量。立ち上がる。人間だ。ろうか。
アイゼンと同じくらいの身長。全身が銀色で、西洋の騎士のようなボディスーツを着ている。テレビの特撮ヒーローのようだ。手足が長い。翻るマントには複雑な模様と共に六芒星が描かれている。騎士は音楽室を見回して戦況を確認する。先ほど来た黒猫が騎士に近寄る。
「どうやら間に合ったようだな。信長。ありがとう」
身長に似合わず声が幼い。アイゼンと同じくらいの年齢の男のようだ。
「KOKか! そうや! KOKに頼めばよかったんや! それにしても遅いやないか!」
「悪かったね。外にも別の組織がいてさ。手間取ってしまった。チャタローがこの場所を教えてくれなければ、すぐには辿り着けなかったよ」
「そちらの招かれざるお客様はどなたでしうか?」
ネーフェは騎士を睨みつける。騎士はゆっくりと答えた。
「イノギン。KOKだ」
「KOK…。本物か?」
「本当はイノギンという名前でビビって欲しかったけどね。ま、それはこれからの課題かな?」
イノギンは、先ほどネーフェがしたように腕を一度振った。
ビシュッ。
空気を引き裂くような音がする。
「やはり…。アルキメストですか」
ネーフェの顔が恐怖に染まる。
「ああ。APDだけど俺は強いよ」
ネーフェは狼狽えた後、突然廊下に向かって走りだした。逃げるつもりのようだ。転がっているユキチを跳び越える。
バギョン。
音楽室の扉は開いている。だがネーフェは、空気の壁にぶつかったかのように跳ね返り、ユキチの隣に尻餅をついた。床で転がるネーフェをイノギンが見下ろす。
「残念。すでに結界は張られてるよ」
ネーフェは立ち上がりざま錯乱したように震え、大きく腕を振ってイノギンに向かっていった。イノギンは最小限の動きでかわしながら、手刀でネーフェを叩く。
手首。
パシ。
「一本」
首筋。
ピシ。
「二本」
まるでミハエルとサオリの修行のようにレベルが違う。対局指導とでもいうのだろうか。ネーフェの顔と違い、イノギンは余裕綽綽で分析をする。
「なるほど。結構お強い。このレベルだと、本気を出せば女子高生なんて簡単に殺せそうだな」
お尻。
ポス。
「でも誰も殺してない。ってことは悪い人じゃないってことなのかな?」
サオリもアイゼンも、さっき初めてネーフェに会ったクマオまでもが同時にうなづく。イノギンから殺気が消えた。
「そんじゃ」
イノギンの動く速度が一瞬上がる。あっという間にネーフェの後ろに回り込む。イノギンの腕はネーフェの首に巻きついた。
ネーフェは呼吸ができない。少し暴れたがすぐに動きが止まり、トマトのように顔を紅潮させ、ゾンビのように両手をぶら下げ、マグロのようにゆっくりと倒れた。
ドウン。
体重が重いからであろう。無残な音を立てて、ネーフェの太めの肉体は音楽室の硬い床に叩きつけられた。
「しぇんしぇー?」
今戦ったばかりだというのに、サオリは不安な気持ちでネーフェを呼んだ。いくら襲ってきたからといってネーフェに死んで欲しくはない。サオリはネーフェのことが好きなのだから。
「心配するな。峰打ちだ」
イノギンはそんな気持ちも知らずに得意そうだ。
「信長。結界を解いてくれ」
イノギンの言葉で緊張していた音楽室の空気は時間を取り戻した。
ネーフェが今まさにその手を振り落とさんとした瞬間、アイゼンの後ろから大きな音が鳴った。音楽室のガラス窓が割れた音だ。
空間をぶち破るような派手な音。どうせ割るなら大きくぶち破ってやろうとでもいうような意志を持った塊が、冬の寒気とともにアイゼンの頭上を横切る。塊は、アイゼンとネーフェの間に落ちた。隕石と見まごうばかりの熱量。立ち上がる。人間だ。ろうか。
アイゼンと同じくらいの身長。全身が銀色で、西洋の騎士のようなボディスーツを着ている。テレビの特撮ヒーローのようだ。手足が長い。翻るマントには複雑な模様と共に六芒星が描かれている。騎士は音楽室を見回して戦況を確認する。先ほど来た黒猫が騎士に近寄る。
「どうやら間に合ったようだな。信長。ありがとう」
身長に似合わず声が幼い。アイゼンと同じくらいの年齢の男のようだ。
「KOKか! そうや! KOKに頼めばよかったんや! それにしても遅いやないか!」
「悪かったね。外にも別の組織がいてさ。手間取ってしまった。チャタローがこの場所を教えてくれなければ、すぐには辿り着けなかったよ」
「そちらの招かれざるお客様はどなたでしうか?」
ネーフェは騎士を睨みつける。騎士はゆっくりと答えた。
「イノギン。KOKだ」
「KOK…。本物か?」
「本当はイノギンという名前でビビって欲しかったけどね。ま、それはこれからの課題かな?」
イノギンは、先ほどネーフェがしたように腕を一度振った。
ビシュッ。
空気を引き裂くような音がする。
「やはり…。アルキメストですか」
ネーフェの顔が恐怖に染まる。
「ああ。APDだけど俺は強いよ」
ネーフェは狼狽えた後、突然廊下に向かって走りだした。逃げるつもりのようだ。転がっているユキチを跳び越える。
バギョン。
音楽室の扉は開いている。だがネーフェは、空気の壁にぶつかったかのように跳ね返り、ユキチの隣に尻餅をついた。床で転がるネーフェをイノギンが見下ろす。
「残念。すでに結界は張られてるよ」
ネーフェは立ち上がりざま錯乱したように震え、大きく腕を振ってイノギンに向かっていった。イノギンは最小限の動きでかわしながら、手刀でネーフェを叩く。
手首。
パシ。
「一本」
首筋。
ピシ。
「二本」
まるでミハエルとサオリの修行のようにレベルが違う。対局指導とでもいうのだろうか。ネーフェの顔と違い、イノギンは余裕綽綽で分析をする。
「なるほど。結構お強い。このレベルだと、本気を出せば女子高生なんて簡単に殺せそうだな」
お尻。
ポス。
「でも誰も殺してない。ってことは悪い人じゃないってことなのかな?」
サオリもアイゼンも、さっき初めてネーフェに会ったクマオまでもが同時にうなづく。イノギンから殺気が消えた。
「そんじゃ」
イノギンの動く速度が一瞬上がる。あっという間にネーフェの後ろに回り込む。イノギンの腕はネーフェの首に巻きついた。
ネーフェは呼吸ができない。少し暴れたがすぐに動きが止まり、トマトのように顔を紅潮させ、ゾンビのように両手をぶら下げ、マグロのようにゆっくりと倒れた。
ドウン。
体重が重いからであろう。無残な音を立てて、ネーフェの太めの肉体は音楽室の硬い床に叩きつけられた。
「しぇんしぇー?」
今戦ったばかりだというのに、サオリは不安な気持ちでネーフェを呼んだ。いくら襲ってきたからといってネーフェに死んで欲しくはない。サオリはネーフェのことが好きなのだから。
「心配するな。峰打ちだ」
イノギンはそんな気持ちも知らずに得意そうだ。
「信長。結界を解いてくれ」
イノギンの言葉で緊張していた音楽室の空気は時間を取り戻した。