第105話 Out-of-Place (場違い)
文字数 2,201文字
「な……」
銀次郎は痛みよりも先に、自分の体が血を失ったことを感じた。
ーーこの技はたくさんのピッピとオーラを消費する。ジョットと戦う前に本当はやりたくなかったが、やらなければ負ける可能性もあった。仕方がなかった。ここはオーラを整える時間を稼ぐために、余裕な表情を見せておこう。
ヘンリーは、舌なめずりをしてニタリと笑った。
銀次郎は立っていられない。意識が遠のく。
倒れる寸前。ジョットが銀次郎の脇から手を差し込み、ヘンリーの手が届く範囲から素早く体を引き離した。ヘンリーを見ながら、銀次郎を寝転がせる。
「不可視のオーラソードを仕掛けておいたか。そんなことができるんだな。なるほど。こんな技まで出させるとは、よくやったな。KOKの」
銀次郎は、もう動けないほど血を失っている。だが、『負けることは死ぬことだ』と思っているので、再び動き出そうとした。ジョットは、微笑ましいとでもいうように、二本の指で優しく、銀次郎の頸動脈を絞め落とした。
「まったく。DランクがSランクに闇雲に攻めたって、勝てる訳ねーだろう」
ジョットは、動かなくなった銀次郎を抱え、沙織のところまで連れていった。ネーフェの隣に銀次郎も横たえられる。沙織が止血する。
「見とけよ、沙織。こいつも大した奴だが、沙織を守るには少し頼りねー。お前にふさわしい本当の騎士というのは俺のことだ」
「ジョット! ランクは?」
「俺か? 俺は」
ジョットは光るや否や、一瞬でヘンリーの前に出現した。
「AFS。キング・オブ・サンダー&ワンダー(稲妻とワクワクの王) !」
呼吸を整え終わったヘンリーは、オーラソードに力を込めて一度振り、ジョットを達観した目つきで睨んだ。
「ジョット。あの時の小僧が、まさか本当に、今回も私の前に立ちはだかるとはな。結局、お前とは決着をつけねばならないようだ」
「そういう運命みたいだな。ブジャニー(焦がせ)!」
ジョットが左手に持っていた独鈷『雷霆ケラウノス』を振ると、左拳から雷の剣が前後に伸びる。
「それがお前のソードか。ボウユアヘーッズ(頭(ず)が高い)!」
ヘンリーが腕を振ると、黒いオーラソードがさらに長く太くなる。両手で持つ長い剣のようだ。
「不死身蛇(インモータル・スネークス)か。APS。イギリスの騎士、キング・オブ・モート・アンド・モルト(死と再生(脱皮)の王)。リッチー・ホワイトモア!」
「ふふふ。ご名答」
ジョットは、相方にして情報屋のマヨネスから聞いていた。ヘンリー・ムーアは偽名で、整形もしていると。
本性はリッチー・ホワイトモア。元々はMI6(英国秘密情報部)からイギリス王室に引き抜かれ、その後KOKに入団。カトゥーンポテト事件当時は現場にいたが、その後、行方知れずとなっていた。現在では世界を裏で操る十三血流の一つ、ロスチャイルド家に属している。イギリス王室を中心とした世界に統合するために、闇を暗躍してアルカディアンやファンタジーを手にし、その力を使用して真の大英帝国を築こうと暗躍している凄腕のアルケミスト(錬金術師)だ。
ジョットはまだ九歳だった時にその事件の中心にいて、沙織を助けようとしてヘンリーと対峙したことがある。
ヘンリーの長く美しい銀髪は、自動的に動いて後ろで束ねられた。
ジョットの緩く癖のある黒髪は、ピリピリと放電して金色に逆立っている。
どんな速いものでも斬るという噂のヘンリー・ホワイトモア。
稲妻となり、光の速さで切り裂くジョット。
二人の間に距離など関係ない。
本気で動いた時が終わりの時。
魔人との戦いと違った完全なる静止。
前屈み気味のジョットの額から、汗がこぼれ落ちる。
汗は、ジョットから離れた瞬間に蒸発した。
ジュッ。
同時に二人は動き出していた。
ジョットは一瞬ブレると、何人にも分裂してヘンリーを囲む。
「ふん!」
ヘンリーは息を発し、不死身蛇を振るって一回転した。
土煙が上がる。
全てのジョットが半分に切り裂かれるが、分身は不死身蛇が当たっても消えず、元の形に戻る。
イカズチが鳴り響き、たくさんのオーラがビームのように飛び交う。
ーーこれがSランク同士の本気の戦い……。アタピ、全く見えない。勝算の欠片、それどころか、逃げる方法も見えない……。ふとした気紛れに巻き込まれたら、一瞬でこの世から消滅してしまう。それくらい今、ここにいるアタピの命は軽い。
小さな場所で抗いようのない巨大な自然災害が巻き起こっているこの状況は、まるで神話に見た英雄の戦争だ。
ーーヘンリーはギンさん相手に、オーラの消費を抑えるために手加減していたんだ……。
敵か味方かに関わらず、圧倒的な強さに沙織は感動を覚えた。
少し離れたところでは、神々の戦争のように、巨大な魔人と、愛染、山中、リルキドベイベーが戦っている。
そしてこの戦い次第で、世界の運命がガラリと変わってしまう。
沙織はなぜか、ピーチーズや学校での平和な日々を思い出した。
ーーみんなが知らないところで世界が変わっちゃう。一週間前に見せてくれた、修正で目がやたら大っきなプリクラの写真も色褪せちゃう。「今度一緒に行こ」って約束してるUSJにも行けなくなっちゃう。それなのにアタピ、こんなにただ守られるばっかで何もできない。巨大な力の前に、アタピ、何にもできないよ……。
沙織は、自分が情けなくて泣きそうな気分になった。
銀次郎は痛みよりも先に、自分の体が血を失ったことを感じた。
ーーこの技はたくさんのピッピとオーラを消費する。ジョットと戦う前に本当はやりたくなかったが、やらなければ負ける可能性もあった。仕方がなかった。ここはオーラを整える時間を稼ぐために、余裕な表情を見せておこう。
ヘンリーは、舌なめずりをしてニタリと笑った。
銀次郎は立っていられない。意識が遠のく。
倒れる寸前。ジョットが銀次郎の脇から手を差し込み、ヘンリーの手が届く範囲から素早く体を引き離した。ヘンリーを見ながら、銀次郎を寝転がせる。
「不可視のオーラソードを仕掛けておいたか。そんなことができるんだな。なるほど。こんな技まで出させるとは、よくやったな。KOKの」
銀次郎は、もう動けないほど血を失っている。だが、『負けることは死ぬことだ』と思っているので、再び動き出そうとした。ジョットは、微笑ましいとでもいうように、二本の指で優しく、銀次郎の頸動脈を絞め落とした。
「まったく。DランクがSランクに闇雲に攻めたって、勝てる訳ねーだろう」
ジョットは、動かなくなった銀次郎を抱え、沙織のところまで連れていった。ネーフェの隣に銀次郎も横たえられる。沙織が止血する。
「見とけよ、沙織。こいつも大した奴だが、沙織を守るには少し頼りねー。お前にふさわしい本当の騎士というのは俺のことだ」
「ジョット! ランクは?」
「俺か? 俺は」
ジョットは光るや否や、一瞬でヘンリーの前に出現した。
「AFS。キング・オブ・サンダー&ワンダー(稲妻とワクワクの王) !」
呼吸を整え終わったヘンリーは、オーラソードに力を込めて一度振り、ジョットを達観した目つきで睨んだ。
「ジョット。あの時の小僧が、まさか本当に、今回も私の前に立ちはだかるとはな。結局、お前とは決着をつけねばならないようだ」
「そういう運命みたいだな。ブジャニー(焦がせ)!」
ジョットが左手に持っていた独鈷『雷霆ケラウノス』を振ると、左拳から雷の剣が前後に伸びる。
「それがお前のソードか。ボウユアヘーッズ(頭(ず)が高い)!」
ヘンリーが腕を振ると、黒いオーラソードがさらに長く太くなる。両手で持つ長い剣のようだ。
「不死身蛇(インモータル・スネークス)か。APS。イギリスの騎士、キング・オブ・モート・アンド・モルト(死と再生(脱皮)の王)。リッチー・ホワイトモア!」
「ふふふ。ご名答」
ジョットは、相方にして情報屋のマヨネスから聞いていた。ヘンリー・ムーアは偽名で、整形もしていると。
本性はリッチー・ホワイトモア。元々はMI6(英国秘密情報部)からイギリス王室に引き抜かれ、その後KOKに入団。カトゥーンポテト事件当時は現場にいたが、その後、行方知れずとなっていた。現在では世界を裏で操る十三血流の一つ、ロスチャイルド家に属している。イギリス王室を中心とした世界に統合するために、闇を暗躍してアルカディアンやファンタジーを手にし、その力を使用して真の大英帝国を築こうと暗躍している凄腕のアルケミスト(錬金術師)だ。
ジョットはまだ九歳だった時にその事件の中心にいて、沙織を助けようとしてヘンリーと対峙したことがある。
ヘンリーの長く美しい銀髪は、自動的に動いて後ろで束ねられた。
ジョットの緩く癖のある黒髪は、ピリピリと放電して金色に逆立っている。
どんな速いものでも斬るという噂のヘンリー・ホワイトモア。
稲妻となり、光の速さで切り裂くジョット。
二人の間に距離など関係ない。
本気で動いた時が終わりの時。
魔人との戦いと違った完全なる静止。
前屈み気味のジョットの額から、汗がこぼれ落ちる。
汗は、ジョットから離れた瞬間に蒸発した。
ジュッ。
同時に二人は動き出していた。
ジョットは一瞬ブレると、何人にも分裂してヘンリーを囲む。
「ふん!」
ヘンリーは息を発し、不死身蛇を振るって一回転した。
土煙が上がる。
全てのジョットが半分に切り裂かれるが、分身は不死身蛇が当たっても消えず、元の形に戻る。
イカズチが鳴り響き、たくさんのオーラがビームのように飛び交う。
ーーこれがSランク同士の本気の戦い……。アタピ、全く見えない。勝算の欠片、それどころか、逃げる方法も見えない……。ふとした気紛れに巻き込まれたら、一瞬でこの世から消滅してしまう。それくらい今、ここにいるアタピの命は軽い。
小さな場所で抗いようのない巨大な自然災害が巻き起こっているこの状況は、まるで神話に見た英雄の戦争だ。
ーーヘンリーはギンさん相手に、オーラの消費を抑えるために手加減していたんだ……。
敵か味方かに関わらず、圧倒的な強さに沙織は感動を覚えた。
少し離れたところでは、神々の戦争のように、巨大な魔人と、愛染、山中、リルキドベイベーが戦っている。
そしてこの戦い次第で、世界の運命がガラリと変わってしまう。
沙織はなぜか、ピーチーズや学校での平和な日々を思い出した。
ーーみんなが知らないところで世界が変わっちゃう。一週間前に見せてくれた、修正で目がやたら大っきなプリクラの写真も色褪せちゃう。「今度一緒に行こ」って約束してるUSJにも行けなくなっちゃう。それなのにアタピ、こんなにただ守られるばっかで何もできない。巨大な力の前に、アタピ、何にもできないよ……。
沙織は、自分が情けなくて泣きそうな気分になった。