第42話<Same World> One Office (ある事務所)
文字数 1,119文字
今日も一日無事に仕事が終わった。家のジムで体を鍛えた後でシャワーを浴び、一日の締め括りに赤ワインを開ける。
ーー今日のワインはどんな味だろう。同じ銘柄でもワインは毎日味が違う。
グラスにワインを注いだところで電話が鳴る。
ーーこんな時間に誰だろう。
ワインにグラスを回しながら通知画面を見る。男は、この番号に見覚えがあった。
ーーこの番号! あの人か!! 十年ぶりとは相変わらず気まぐれなお方だ。
男は震えながら通話ボタンに指をかけた。
「いよーっ!」
いつも冷静だったと記憶していたはずの通話相手が今日は珍しく興奮している。彼には十年ぶりという時間は特に重要ではないようだ。挨拶も無しに最初から本題に入る。
「驚け! クルクルクラウンが見つかったぞ!」
「えっ!」
それが本当ならば驚く話だ。
「一体どこで?」
「東京だ。しかも沙織もいた」
「東京? 沙織?」
「カトゥーの娘だ」
ーーカトゥーの娘? しかし…、それはありえない。
「彼女は確かに死んだはずです」
「お前はちゃんとそれを見ていたんだよな?」
「はい。なんせ、私が殺したのですから」
男は言った後で、すぐそのことの重要性に気がついた。
「ということは。もしかしてカトゥーが生きているかもしれないということですか?」
「そういうことになる」
男は自分の顔が真っ青になる様が自分でわかった。今の生活が不安になる。いつカトゥーが復讐してくるかもしれない。電話の相手は既に落ち着き、普通のトーンで話を続ける。
「だがまあ、なぜ生きていたのかはどうでもいい。大事なことは、沙織が生きていたおかげで再びあの計画が始められるということだ」
男はハッとした。
ーーそういうことか! なんという壮大なことを考えていたんだ。私が保身を考えている時に。恥ずかしい。
「なるほど。再びあの計画を」
冷静に話しながらも声が震える。この男のスケールの大きさには改めて尊敬の念を抱いてしまう。
「だが、俺では近すぎて勘ずかれてしまう可能性もある。そこで、この件に全く関係ないお前が、裏で全てを操って欲しいのだ」
ーー保身を考えている場合ではない。世界のことを考えるのだ。我々『シンセシス』が世界のバランスを取らなければ世界は滅びる。
男は従順になった。
「わかりました。して、どのようにいたしますか?」
「沙織はまだアルキメストでもないので、昨日から沙織に修行を施している。まずは卵を孵化させねばな。お前にはこの後、伝達飴を送る。これは極秘任務だ。よろしく頼んだぞ」
「はい。わかりました」
電話を切った後で、男は顔を緩めた。
ーー明日からは、楽しくも忙しい日々が始まるな。
今日のワインはいつもよりも渋みが強いが、十年ぶりに格別美味しい味がした。
ーー今日のワインはどんな味だろう。同じ銘柄でもワインは毎日味が違う。
グラスにワインを注いだところで電話が鳴る。
ーーこんな時間に誰だろう。
ワインにグラスを回しながら通知画面を見る。男は、この番号に見覚えがあった。
ーーこの番号! あの人か!! 十年ぶりとは相変わらず気まぐれなお方だ。
男は震えながら通話ボタンに指をかけた。
「いよーっ!」
いつも冷静だったと記憶していたはずの通話相手が今日は珍しく興奮している。彼には十年ぶりという時間は特に重要ではないようだ。挨拶も無しに最初から本題に入る。
「驚け! クルクルクラウンが見つかったぞ!」
「えっ!」
それが本当ならば驚く話だ。
「一体どこで?」
「東京だ。しかも沙織もいた」
「東京? 沙織?」
「カトゥーの娘だ」
ーーカトゥーの娘? しかし…、それはありえない。
「彼女は確かに死んだはずです」
「お前はちゃんとそれを見ていたんだよな?」
「はい。なんせ、私が殺したのですから」
男は言った後で、すぐそのことの重要性に気がついた。
「ということは。もしかしてカトゥーが生きているかもしれないということですか?」
「そういうことになる」
男は自分の顔が真っ青になる様が自分でわかった。今の生活が不安になる。いつカトゥーが復讐してくるかもしれない。電話の相手は既に落ち着き、普通のトーンで話を続ける。
「だがまあ、なぜ生きていたのかはどうでもいい。大事なことは、沙織が生きていたおかげで再びあの計画が始められるということだ」
男はハッとした。
ーーそういうことか! なんという壮大なことを考えていたんだ。私が保身を考えている時に。恥ずかしい。
「なるほど。再びあの計画を」
冷静に話しながらも声が震える。この男のスケールの大きさには改めて尊敬の念を抱いてしまう。
「だが、俺では近すぎて勘ずかれてしまう可能性もある。そこで、この件に全く関係ないお前が、裏で全てを操って欲しいのだ」
ーー保身を考えている場合ではない。世界のことを考えるのだ。我々『シンセシス』が世界のバランスを取らなければ世界は滅びる。
男は従順になった。
「わかりました。して、どのようにいたしますか?」
「沙織はまだアルキメストでもないので、昨日から沙織に修行を施している。まずは卵を孵化させねばな。お前にはこの後、伝達飴を送る。これは極秘任務だ。よろしく頼んだぞ」
「はい。わかりました」
電話を切った後で、男は顔を緩めた。
ーー明日からは、楽しくも忙しい日々が始まるな。
今日のワインはいつもよりも渋みが強いが、十年ぶりに格別美味しい味がした。