「ニ」のお話

文字数 2,979文字

 じじいが死んで、3年が経った。光の精霊様に休みを貰った俺は、暫くゆっくり猫生活を満喫していた。


「俺の名前はニャン太、精霊さっ! ……ってか、猫じゃねえから!」



 何か特別な事をしていた訳じゃない。寝て起きて、猫缶食ってまた寝る。散歩して、猫缶食ってまた寝る。のんひりダラダラな、自堕落生活だな。



 今日は暇潰しに動物の国、っていう場所に向かってるんだ。こっちの方は来た事が無かったな。段々と自然が増えてきた。余計な音も声も無い。聞こえるのは自然の声だけだぜ……



 バサバサバサッ

「助けてー!」
「余計な音も声も聞こえてるじゃねえか」



 仕方がないので声のする方に向かって行った。



 原っぱの奥で1匹の猫が2匹の犬に絡まれていた。


「ううう……助けて」
「へっへっへ、諦めるんだな」
「泣いても叫んでも、助けは来ねえぜ」

「うわぁ……典型的な悪者の台詞じゃねえか、それ」
「誰だっ!?」
「あ、気付かれた」


 犬Aはニャン太の方へ近付いてきた。中型犬クラスの大きさだな。


「猫のくせに俺達に歯向かおうってのか?」
「やっちまえ!」

「はあ……仕方ないな」



 犬Aは、いきり立って襲ってきた。ニャン太はそれを軽くかわして肉球パンチを食らわせる。

 犬Aはふらついた後、倒れる。


「こ、この野郎」


 犬Bも襲ってきたが、同じようにかわして肉球アッパーを直撃させた。


「う~」
「お、覚えてやがれ」


 2匹はフラフラとしながら逃げていった。



「おい、大丈夫か?」
「有難うございます」


 幸い、襲われていた猫は無傷のようだ。


「私は空(そら)って言います」
「良い名前じゃないか。俺はニャン太ってんだ」
「ニャン太さん、私の住んでいる村が近くにあるんです。お礼もしたいので来て下さい」

「猫の村があるのか?」
「はい。のら猫が集まって出来た村なんです」
「へぇ、面白そうだな。ちょっと行ってみようかな」



 どうやら村は奥の草むらの方にあるらしい。ニャン太はそらに連れられて、村の方へ向かった。




「これが猫の村?」
「はい。猫っぽくなくて驚いたでしょう?」
「確かに……まるで人間の村みたいだな」


 家の感じも大きさも、明らかに猫用では無かった。ドアノブまで付いてるし。


「ここが私の家よ。お父さんも居るから紹介しますね」
「そうか」


 案内された家も、普通に人間みたいな家だった。そらは器用にドアを開けて、ニャン太を迎え入れる。


「おお、おかえり。」
「ただいま。」
「おや? その猫さんは?」


 ニャン太からしたら、猫の年齢なんてまるで分からない。ニャン太は猫の格好をしていても、猫では無いからだ。


「なるほど、娘を危ない犬から助けてくれたんですね。何とお礼を言って良いのか」
「いやいや、別に大した事はしてないよ」
「いえいえ。私にとっては大切な1人娘なのですから」




 そこから美味しい猫料理をご馳走になった。

 あ、猫料理っても猫を食材にした料理じゃ、無いからな。猫の食べる料理だからな。



「え、ホビットの村?」
「ええ、ここは元々ホビット族の住む村だったのです。彼らが移住の為にここを離れる際に、我々が譲り受けたのですよ」


 だからこんな人間の家みたいな感じなのか。ある意味、不便そうなんだけど。


「村の反対側にも道があったけど、あれは何処に繋がってるんだ?」
「あっちは虎の楽園に繋がっています。更に奥に行く主竜の塔がありますよ」
「主竜の塔?」

「主竜様が住んでいる塔なんです」
「その主竜って何だ?」
「主竜様は、動物の神様みたいなお方です。いつも動物界を見守って下さっています」


 そんなん聞いた事もないけどな。暇だし会いに行ってみるか? 虎の楽園も気になるし。




「ご飯、ごちそうさま。面白そうだから、あっちに行ってみるよ」
「ええ!? 流石に危ないですよ。虎は狂暴らしいですから」
「大丈夫だよ。ただの動物に負けないって。俺は強いんだ」


 そう言うとニャン太は立ち上がる。


「これ、お守りです。良かったらどうぞ」
「ん? 有難う。貰っとくぜ」
「気を付けて下さいね」
「心配ですから、戻った時には1回顔を出して下さい」
「分かったよ。世話になった」



 ニャン太は、ドアノブに苦戦しながらも何とか家を出た。





 相変わらずの上天気。散歩の再開だった。




 暫く進んだ所で、崖に差し掛かった。橋が壊れている。散歩終了の危機だった。


「何とも微妙な距離だな。飛べるだろうか?」


 そう考えていると、後に気配を感じた。怪しい気配だ。


「何だ?」


 ニャン太が振り返ると、そこには大きい羊が居た。普通の羊の倍くらいありそうだ。


「めぇ~」
「羊だな。こんな所に生息しているのか」


 羊はゆっくりと近付いて、いきなりお守りを奪った。さっき貰ったばかりのお守りだ。


「ちょっ、何するんだ」
「めぇ~」


 羊は勢いよく走り出す。


「羊って、あんなに速いんだな。待て!」


 羊は途中で横道に入っていく。ニャン太もそこに入っていくと、小さな洞窟があった。


「あ、洞窟に入って行きやがった。もしかして羊の住み処か?」


 仕方なく洞窟に入る。中は明かりが付いていた。明らかに動物だけの洞窟では無い。


「この炎……魔力による物だぞ。なんでこんなんがあるんだ?」




 暫く先に進むと、さっきの羊が居た。両脇には何故か犬も居る。こいつ等は先ほど、そらを襲っていた2匹の様だ。


「この猫野郎、さっきはよくもやりやがったな」
「羊様が居れば怖いものなしだ。」
「何なんだこいつ等は。それよりお守りを返しやがれ!」

「めぇ~。それは出来ないよ。どうしてもって言うんなら、僕たちを倒してみるんだな」
「てめえ、良い度胸じゃんか」




 犬Aと犬Bが同時に襲って来た。ニャン太はそれをかわして、2匹同時に蹴りつけた。肉球キックだ。


「ばたん」
「きゅぅ」


 2匹はぶっ飛んで行った。



「まあ、あいつ等はこんなもんだろうね」
「次はお前だ。お守りを返せ」
「それは出来ないって。あれはもうコズキ様に献上しちゃったもんね」
「コズキ? 誰だよ、ってか人の物を盗んで献上するな」


 羊は突進してきた。ニャン太はかわして肉球チョップを放った。羊はその1撃で倒れた。



「おい、起きろ。そのコズキってヤツの居場所を教えるんだ」
「ううう……コズキ様ならそこに……」
「そこ……?」


 後ろを振り返ると、1匹の牛が立っていた。牛乳でおなじみの牛だ。


「猫。なかなかやるじゃないの。でも私には通用しないわよ」
「何だ? メス牛?」
「失礼ね。私はれっきとしたお・か・ま(は~と)」
「おえ~」


 コズキって闘牛の姿をした闘鬼じゃなかったのか?


「失礼な子猫ちゃんにはお仕置きね」
「良く分からないけど、取り敢えずお守りを返しやがれ」
「それは私を倒してからね」



 コズキはそう言うと突撃してきた。さっきの羊と比べ様にならない程の速さ。ニャン太は何とかかわす。


「牛ってこんなに速いのか!? でも!」


 ニャン太はコズキに肉球回し蹴りを放つ。しかし、コズキの周りにはバリアが貼られておりそれに阻まれる。


「バリア……だと?」
「このバリアがある限り、子猫ちゃんは勝てないのよ」


 ニャン太は素早く動いてコズキの後ろへ回り込んだ。そして爪で攻撃する。それすらもバリアで阻まれる。



「こいつ、全身にバリアがある感じなのか。バリアって事は魔力がある程度ないといけないハズなのに」
「うふふ。主竜様に貰ったバリアは、簡単には壊せないわ」




 コズキは再び突進してきた。





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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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