第62話

文字数 1,389文字

 森にある洞窟。その奥にある封印。あからさまに禍々しく光るそれは、溢れんばかりに魔力が膨張していた。


 封印されている者の意識が戻る。



“…ここは?”


 見覚えの無い景色。最後に覚えているのは勇者の顔。


“そうか、私は勇者に敗れたのか”


 指1本動かせない状態で魔王は勇者への憎悪を募らせる。魔王の意識が戻った事で、封印されている魔力が増大する。


“なんだ、この封印は。今にも消え去りそうではないか”



 どれほどの時が流れたのだろう。勇者の奥義を受け、勇者の顔を見た辺りで意識は途切れていた。恨み辛みを感じる間もなく、今まで眠っていたのだろう。

 何故消滅しなかったのかは分からない。しかし、そんな事は今はどうでも良かった。


“今なら…いける!”


 魔王は一気に魔力を爆発させる。封印がミリ単位で綻びる。



“力が戻っていない。少し時間が掛かるかもしれない”


 そう思いながら魔王は順次魔力を出して封印を破ろうとする。






~数日後~





「ふにゃー」


 昼寝中だ。天気も良く、絶好のお昼寝日和。じじいも今日はまだ休養中。


「ん? なんだ?」


 どこかで邪悪な魔力の流れを感じた。いや、正確には最近少しずつ増えて来ていた魔王の魔力だ。昼寝前とは比べ物にならない位に増幅している。



「ま、まさか、魔王が復活する予兆なのか!?」


 調べる必要がある。ニャン太は森へ向かって走り出した。



 森にはスライムの姿は見当たらない。たまたまだろうか?

 洞窟にはゴブリンの姿も見当たらない。たまたま…だろうか?




 そして奥の部屋で、発見してしまった。


「ま、魔王……」
「……ん、猫だと?」


 実際に会うのは初めてだが、精霊の勉強中に光の精霊に教えて貰った事があった。魔王の姿や魔力の種類を。目の前に居るそれは、間違いなく魔王だった。


「ついに復活しやがったのか。じじいを呼びに行かなければ」
「ほう、喋る猫が居たのか。いや、その魔力は猫では無いな」
「どうする? 上手く隙を作って逃げないと」


 そう思っていた矢先、魔王はニャン太へ向かって闇属性の魔法を撃ち出した。


「!?」


 ドガァン!


 避ける。しかし飛び退いたせいで退路から外れてしまった。


「その魔力、精霊の類か。」
「く、やばい。上手く巻けるか?」






~天界~




「精霊王様、魔王ポコポコビッツが復活しました」

「そのようだな」

「今はニャン太と交戦中です」

「ニャン太……ああ、お前の育てていた精霊か」


 上位の精霊である光の精霊や精霊王という精霊の長は、下界の出来事を意のままに見る事が出来る。今日もこうして2人で下界を見ていた。


「勇者は何をしている?」

「今、不穏な魔力を感じて現場へ向かい始めました」

「そうか。ではこれより人間と魔王の戦いが始まるのだな」

「そうですね」

「もちろん私達は手出し無用。下界の事は下界に任せるのだ」

「分かっております」



 光の精霊はその場を離れる。建物の窓から天界の景色を眺めた。


「このままではニャン太の身が危ない。何とか勇者が到着するまで、持ちこたえるのですよ」


 天界の掟に人間に肩入れする事に関して、特に存在しない。そこに罪も罰も存在していない。

 光の精霊は念じると、光の気を下界へ向けて発射した。掟としては存在しないが、モラルとしてはあり得ない行為であった。



「勇者レイスよ。頑張るのですよ。貴方は私が加護を授けた唯一の人間なのです」






 それより少しだけ前の時間。じじいはふと、目が覚めた。




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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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