第89話

文字数 2,025文字

 光が消え去り、闘技場内は元の状態へ戻る。



「魔王の影を打ち倒した……やったぞ……」


 じじいはそのまま前のめりに倒れた。


「はあ、はあ……」



「……! 今なら捉えられる。皆さん、行きましょう。力を貸して下さい」
「よし、行こう」




「それまで。ケーオ選手の勝利です。今大会の優勝は……」




 じじいはケーオの背後に居た魔王の影を、奥義で倒した。その為、じじいの攻撃はケーオには当たらなかった。ケーオは目の前を光の一撃が通り過ぎる形になる。

 そして、ケーオの攻撃はじじいを完全に斬っていたのだ。





「ケーオ!」
「えっ!?」


 疲れと恐怖に硬直していたケーオは、なす術も無く組み伏せられる。


「私は王国兵士副隊長のポーンです。ケーオは麻薬を使用しました。よって身柄を拘束します」


「ポ、ポーン副隊長……!」


「ケーオ。麻薬使用の現行犯で逮捕する!」
「おっと、逃げようなんて思うなよ」



「じじい!」


 ニャン太はじじいに向かって来た。もちろん、じじいは不死なのだから死んではいない。それでもケーオの剣が直撃したじじいは、すぐには動けない程にダメージを負っていた。



「さあ、来い!」
「くそっ……せっかく、これでのんびり暮らせると思ったのに……」



「おい、レイスのじいさん。大丈夫か?」


 賢者がすぐに来て回復魔法をじじいに掛ける。暫くしてじじいは立ち上がった。



「……ふう。ケーオを捕まえる事は出来たが、どうやら試合は負けちまったみたいだな」
「じいさん! 心配掛けさせやがって!」
「普通にやってたら、あれはじじいが勝ったと思うぜ。じじいは勇者として、やるべき事をやっただけだ」


 仲間の優しさに涙が出る。思えば、魔法剣士として独り立ちして200年以上。初めての敗北だったのだ。もちろん、自分ひとりでは勝てなかった場面もあった。それでも最終的には勝っていたのだから。


「いやぁ……初めての負けの相手が薬中だとは……」



「レイスさん、やりましたね。魔王の影が消え去る場面は、私達も確認しています」
「ドーン、ケーオは?」
「ポーンさんがちゃんと連行していきました」
「そうか」



 肩の力が抜ける。なんだかんだで、終わったんだな。



「何だか大変な事になりましたね。レイス選手、一応準優勝……ですが」
「ああ、そうだな。相手がどうであれ。敗れたのは事実だ」
「これが準優勝のトロフィーと記念メダル。そして副賞の賞金です」
「ありがとう」


 流石は世界大会。準優勝のトロフィーでも今までの優勝トロフィーより大きく豪華だった。


「優勝者は……今回は欠番になりそうですね」
「まあ、仕方ないわな」





「ポーン副隊長からの伝言です。明日、国王様がお会いになりたいとの事です。時間を取れるのであれば、是非と」
「この国の国王が? 分かった、光栄な事だ」





 じじい・ニャン太・ドーン・ヘンリーは会場の外へ出た。


「じいさん、今回は勉強になった。来年はもっともっと強くなって、じいさんに勝って見せるよ」
「いやいや、まだ若いモンには負けないぞ」

「ニャン太、お前も出場したらどうだ?」
「俺が出た時点で、お前の優勝が無くなっちまうからな。俺はのんびり見てるだけで良い」
「ニャン太が優勝しちゃう可能性が普通にあるからな」
「そうだろそうだろ」

「ドーン、お前はどうなんだ?」
「私はケーオの調査で出場しただけです。今後、出る事は無いでしょう」
「マジか、残念だな」



「レイスさん、今回は本当に有難うございました。ケーオを捕らえられたのはレイスさんのお陰です」
「いや、皆で捕えた様なモンだ。実際に逮捕の瞬間、俺は倒れてたし」
「今回の件に関しては一件落着だな。」
「そうですね。ケーオは最終的には我が王国へ輸送し、捌きを受けさせます」
「そうだな」






 宿屋の前でドーン・ヘンリーと別れる。



「2人とも元気でな。来年、また会おう!」
「またいつでも王国へ遊びに来て下さい。私も時間がある時に遊びに行きます」
「また皆で修行しような」


「2人とも気を付けて帰れ。またな」
「あばよっ!」



 じじいとニャン太だけになった。



「今回も疲れた。本当に大変だったな」
「これ飲むか?」
「ん? ああ、大会で支給されたHP回復薬とMP回復薬か。確か残りは持って帰って良かったんだっけか」
「おう、アイテム代が浮いたぜ」

「いや、それより今は寝たいかな」
「頑張ったしな」
「今後はまた、魔王を探さなきゃいけないし」
「ああ、そうだな」




 大会は全て終了し、残すは魔王との決戦だけとなった。今日の感じだと、魔王はまだ完全に回復はしきっていないだろう。早く見つけ出して倒しておかないと。


「それまではまた修行だな」
「割と力も戻ってる気がするんだよな」
「元々の能力で考えれば、8割は戻ってるだろうな。でも今回の修行を繰り返す事で、基本的な能力も上がっている」
「総合的に見ると、まだ掛かる……か」




 とにかく、今は今日の快挙を祝おう。大会は準優勝だったが、ケーオも捕まえたし魔王の影も倒した。



 宿に戻り、とても豪華なお祝いをして眠りについた。




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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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