第97話

文字数 1,118文字

「では光の力を授けましょう」


 光の精霊から一筋の光が放たれた。この前の魔王戦の時に見た光だ。それはじじいの中に入っていき、全身に力が漲る。


「……これで聖剣の呪いが効かなくなったのか」
「そのはずだな」
「勇者レイス。私が手伝えるのはここまでです。頑張って魔王を倒して下さい」
「はい、有難うございます」


 何か、初めて光の精霊に光の魔力を与えて貰った時を思い出す。あの時もこんな感じだった。勇者よ、貴方に力を貸しましょう……みたいなノリだ。



「場所はニャン太に伝えました。私は天界へ戻ります」


 そう言って光の精霊は消え去った。





「さあ、行くか」
「言っておくが、取り敢えず船だぞ」
「……マジで!?」





 この大会関連で知り合った仲間には何も言わずにいた。ドーンやヘンリーなら、一緒に行きたがる可能性があったからだ。魔王との決戦の前には、あの2人でさえも邪魔になる。2人は間違いなく強い。でも、世界大会前の時点でじじいがあしらえる程度でもある。本気の生死を掛けた戦いの前に連れて行く事は出来ない。



「まあ不死なんだけどな、俺」


 でもあの2人は不死ではない。あの2人には死んでほしくなかったのだ。





 港町から船を借りて出発する。普通の便では目的の孤島に行く便が無かった。


「うむむむ……かなりの金を使ってしまった」
「大丈夫だ。質素に暮らせば来年まではもつ。また大会に出て稼げば良いだろう」
「どんだけじじいをコキ使うんだ」


 食料も船の燃料も買い込んだ。もちろん酔い止めも。



「……これが最後の戦いか」
「最後じゃねえ。来年の大会が待ってる」
「そうだったな」


 船に乗り込みながら、嫌な予感がした。



「これは……絶対に船酔い確定だな」
「大型船じゃないからな。揺れも酷いぜ」






~天界~





「……光の精霊。お前、またやったな?」

「何の事でしょう?」

「勇者に光の力を授けたな」

「まあ……一応私の力を持つ勇者ですから」

「今回は神もちょっかいを出したようだし。少々は構わないがな」

「でも現状で、勇者が必ず勝つとは言えません。展開次第では魔王が勝つ可能性も大いにあります」

「うむ。さて、勇者の力とやら見せて貰おうか」



「二人とも、何を話しているのだ?」

「あら神様、ごきげんよう」

「貴方の贔屓にしている人間の、魔王との決戦を眺めているのですよ」

「人間は私が作り出した。我が子の肩を持つくらいは良いではないか」

「神様の行う事に文句はありません。……些か目を掛け過ぎでは、とは感じますが」

「手厳しいな。だが、これ位はしないとあの2人は釣り合わぬだろう」

「そうでしょうか? 人間も馬鹿には出来ません」

「ん? 元のままでも魔王に勝てたと?」

「戦い様によります」



「まあ良いではないか。今はこの戦いを楽しもう」





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み