「ャ」のお話

文字数 2,958文字

 一瞬の閃光の後、コズキのバリアが切り裂かれた。


 バチバチバチッ!


 バリアは散り散りになり消えて行った。その奥には1匹の鶏が居た。


「こいつは……?」
「なんということでしょう。主竜様に授かったバリアが」



「コケー! 案外脆い物だったな。このバリアは」
「何か分からないけど、これで勝負あったんじゃないか? お守りを返せ」
「あわわわ……」
「いい加減にしろ!」



 ニャン太は身体に魔力を宿し、そのままコズキに体当たりした。ニャン太のタックル、ニャンタックルだった。


 ドゴッ!


 コズキは反応すら出来ずに正面から攻撃を食らい、吹っ飛んだ。


「さあ、お守りを返せ」
「うぐぐ……あれはもう主竜様へ送ってしまったわ。どうしても取り返したいのなら主竜の塔へ行くのね」
「にゃんだって? お前も勝手に献上しやがったのか」

「主竜が絡んでいる様だな。どうやら面倒な事になっていそうだ。まあ私には関係ないがな」
「アンタは何者なんだ?」
「私はただの鶏。皆は私をフーテンの鶏さんと呼ぶ」


 そう言いながら鶏はカツカツと足音を鳴らし去っていった。よく分からないやつだった。



「……お守りに思い入れは正直ないんだけどな。たまたま助けた猫にお礼に貰っただけだし。まあ、しょうがない、どうせ主竜の塔も行く予定だったんだ」



 ニャン太は洞窟を後にした。



 また橋の所へ戻って来る。先に進むにはどうしてもこの橋を超えないといけない。


「よし……全力ジャンプで飛び越えてみるか」


 ニャン太は自走を付けて全力で走り出した。崖のギリギリでジャンプ。



「うわあ、最高のジャンプをしてしまったぜ!」


 良い場所で踏切を行い、ジャンプ加減も最高だった。しかし距離は足りなかった。




「やべえ!」


 何とか爪が橋の端に引っ掛かる。片手だけでギリギリぶら下がっている状態。



「これは落ちるしかないな……死にはしないが、痛いのは嫌だな」


 なるべく痛くなさそうな落ちルートを探していると、急に身体がフワッと浮いた。


「えっ!?」


 見ると大きな虎がニャン太を橋の上に引っ張っていた。




「ありがとう、助かった」
「大丈夫か? それともああいうのが流行っているのか?」
「そんな訳あるか。飛び越え損じて落ちる所だったんだ」

「ワシは虎だ。この先の虎の楽園で暮らしている」
「虎の楽園……こんなに近いのか」
「来てみるか? 大したものは無いけどな」






 虎の楽園は……ただの村だった。


「楽園感なんてねえし!」
「小さい村だが食べ物は沢山あるし、寝床もある。ワシたち虎には楽園だ」
「なるほどな……」

「んで、お前はどこに向かってたんだ?」
「ああ、主竜の塔って所に行くんだ」
「お前、主竜の手先か!」
「え、違……」



 虎はいきなり襲い掛かってきた。巨大な肉球を飛び退いてかわす。


「でかい肉球……かっけえ!」
「ガルルルル!」


 虎の再攻撃をかわして肉球裏拳を叩き込む。しかし流石に虎にはダメージが通らない。


「落ち着け。俺は奪われたお守りを取り返しに行くんだよ」
「……お守りとな?」
「うわあ、めっちゃ話の分かるヤツだな」



 ニャン太は事の経緯を説明した。



「がははは、すまんすまん。早とちりってやつだな」
「いや、話が出来るヤツで良かったぜ。」
「最近、主竜の手下動物が楽園の食べ物を盗みに来るのでな」

「アンタは主竜とは関係ないんだな」
「おうよ。よく分からいヤツは嫌いだな。虎は見たものしか信じないのだ」
「分かりやすいな。それで、主竜の塔はこの先を行けばあるんだよな?」

「おうよ。ほれ、遠くに塔が見えるだろ?」
「言われてみれば、あるな。あれがそうか」
「よし、早とちりしたお詫びにこれをやろう」


 虎は寝床から爪を持ってきた。


「爪がはがれたのか?」
「これは付け爪だ。虎用の爪だから強力だぞ」
「マジか、これで俺も虎だな!」
「うむ、がははは!」



 ニャン太は目をキラキラさせながら、虎の付け爪を装備した。


「かっけえ!」
「これで主竜をぶっ飛ばしてこいや」
「任せろ!」




 テンションの上がったニャン太は颯爽と走り出した。


「塔までは……走って10分程度ってとこか」



 道は段々と細くなっていく。道の幅が5メートル程まで狭まった辺りで塔がはっきりと見えた。


「あれが主竜の塔の入り口だな」


 特に何者かの妨害も無く、ニャン太は塔までたどり着けた。



「さて、行くか」


 扉は鍵が掛かっておらず、ゆっくりと開いていく。中には階段があり、その前に馬が立っていた。



「何だお前は、不法侵入だぞ」
「動物に適応されるんかよ、それって?」
「確かに……」


 馬は暫く考えこむ。基本的に動物たちは単純なのかもしれない。


「まあいい。私は主竜の塔の門番、メズキだ」
「え、門番だったらここじゃなくて門の前に居ろよ」
「確かに……」


 メズキは暫く考えこむ。ここまで来ると単純では無く、バカなのかもしれない。


「まあいい。とにかくここを通す訳にはいかない」
「全く、どっちにしてもバトルなんだろ? さっさとやるぜ」


 ニャン太も単純だった。




 メズキは体当たりをしてきた。基本的に動物の攻撃は種類が限られている。ニャン太は体当たりをかわし、後ろから蹴り込んだ。


「うぎゃあ!」


 メズキはそのまま塔の外へ飛んで行った……ほとんどは自分の体当たりの勢いでだが。ニャン太は扉を閉めた。前足を手として使えないあいつは、扉を開けられないだろう。



 塔の中は迷路ほどではないが、凝った造りになっている。何故か途中で外に出て、非常階段みたいな場所を通らないと上に行けなかったり……


「これ不便じゃないか? 住んで居る主竜って奴も」




 そしてやっと、最上階らしき場所へ辿り着いた。ここだけ他の階とは感じが違う。生活感があると言うか何と言うか……取り敢えず、ここに主竜が居るのだろう。

 扉の先には、王の間みたいな場所が待っていた。広めの場所に赤い絨毯。奥には玉座もあり、そこに1匹の竜が鎮座していた。


「お前が主竜か?」
「そうだ。お前が報告にあった猫か。コズキやメズキも倒した様だし、だいぶ出来ると見た」
「あのさ、そんな事はどうでも良いの。取り敢えずお守りを返せよ」
「良いだろう。そこの机に置いてある」


 確かに机の上には盗られたお守りがあった。ニャン太はそれを回収する。他にも机には色々な物が置いてあった。思ったよりも乱雑だ。


「お前の力を見込んで頼みがある」
「頼みだって?」
「私はこの動物が蔓延る国を破壊する。その手伝いをして欲しいのだ」
「何だって!? 動物の国を破壊?」

「そうだ。何の役にも立たない無能な動物が多すぎる。動物は私の統治の元、有能な者だけが残れば良い」
「いやいや、意味が分からない。何を言ってるんだ、お前は」
「協力するのなら、お前だけは助けてやっても良いぞ」
「舐めんじゃねえよ」

「ふん。今猫の村にライオンを向かわせている。このままだと猫は全滅だ。お前が協力すれば猫の村だけでも助けるぞ?」
「言ってる事がお願いから脅迫に変わってきてるぜ。お前の言う事なんて信用出来ないし、そもそもお前に協力する気はない」

「ならば仕方がないな。この話を聞いてしまった以上は、生きては返せない。死んで貰うとしようか」
「はん。その方が話は早そうだな」



 相手はドラゴンタイプか。じじいと魔王の決戦直前に戦ったドラゴンよりかは小さいが。


「お前を倒して、猫の村も救ってやるよ」





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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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