第63話

文字数 1,242文字

「ん……今何時だ?」


 じじいは周りを見渡す。誰も居ない。時間は分からないが外は明るい。


「おーい、ニャン太」


 返事はない。1人で何処かへ行くなんて珍しいな。



 ベッドより降りた瞬間に違和感に気付く。


「何だ、この不穏な魔力は? 恐いくらいの大きさじゃないか」


 聖剣を持って家を出ようとする。何故かタンスの上に置いてある宝石が気になった。塔の地下で発見した赤い宝石だ。魔王直属軍のデスが守っていた宝石だ。それに微かな違和感。それは既視感にも似ている。考えは纏まらなかったが、じじいはその宝石をポケットに入れて家を出た。



 微かな予感はあった。もしかしたら魔王の封印が弱まってきているのかもしれない。


「森に行ってみるか」


 じじいは森へ向かう。何故かは分からないが、行かなければならない気がした。


 森には普段なら野生のスライムが居る。ちょこちょこと遭遇するはずだった。


「何で姿が見えないんだ。たまたまなのか?」


 そのまま洞窟へ入る。野生のゴブリンも全く姿を現さない。


「まさか……魔王の魔力のせいで、勘の良い野生の魔物は逃げてしまっているとか?」


 洞窟の奥には封印がなされている。誰かが間違って入ってしまわない様になっているのだが……


「入口の封印が空いている」


 若干の岩崩の跡はあるが、初めから何も無かったかの様に封印は消えていた。


「まさか……本当に魔王が復活しそうなのか? 下手すれば復活しているのか?」


 予想外の決戦の予感に震える。




 奥へ進む。細い通路を少し進むと岩で囲まれた部屋に到着する。奥からは戦う音のようなものが聞こえてくる。


「誰かいるのか?」



 視界が広がる。遥か昔に見た魔王が居た。魔王と戦うニャン太が居た。魔王の爪とニャン太の爪が激しくぶつかり合う。



「ニャ……」


 ニャン太を呼ぼうとして口を止める。下手に声を掛けない方が良い様な気がしたのだ。ここにきてまた既視感。じじいは静かに聖剣を構えた。





「ぐっ、このままじゃラチが空かねえ」


 ニャン太の爪はヒビが入り、これ以上は打ち合えそうになかった。勇者の使い魔として、使命を果たせずに死んでしまう訳にはいかない。しかしこの魔王から逃げられる気は、しなかった。


「じじい……俺はここまでかもしれない」


 ニャン太は覚悟を決める。同時に魔王の爪がニャン太に襲い掛かる。



 ギイィン!


「えっ!?」


 魔王が後ろへ吹っ飛び、ニャン太の目の前にじじいが降り立った。



「じじい! 間に合ったのか!」
「ニャン太、無事か?」


 じじいは視線を魔王に向けたまま尋ねた。


「お、おう。何とか生きてるぜ」
「それはなにより」


「何だこのじじいは」
「本気のライト斬りが直撃したのに、この程度のダメージか」
「人間のじじいというのは思っていたより元気なんだな」
「黙れ、レイ!」


 光の柱が次々と魔王を襲うが、魔王は怯まずにその場に立っている。


「……この魔力、まさか勇者の血を継ぐ者か?」
「俺だよ、200年前にお前を倒した勇者レイスだ」
「勇者……だと?お前が?」




 魔王は大きな声で笑い出した。




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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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