第68話

文字数 1,147文字

「勇者レイスよ。よくぞあの状況で凌ぎ切りましたね」

「光の精霊、お前……手を出したな?」

「あら精霊王様、何の事でしょうか」


 光の精霊は下界の景色を眺めながら、瞳を伏せる。


「まあ良い。別に私がどうこうも言うまい」

「そうですか」

「精霊が人間に付く事は禁止されている訳でもない」


 精霊王はそう言うと、その場を後にする。



「私は人間の住むあの世界を気に入っています。直接魔王に手を下す事はしませんが」


 先ほどの勇者VS魔王を思い出す。今の勇者の力だけでは、到底魔王には敵わなかった。そして光の精霊の加護だけでも勝てなかった。たまたま勇者が持っていた魔法のアイテム。最後の魔王ビームの軌道。MPギリギリで放った光の一撃。

 全ての事象が上手く重なり合った結果、相打ちとなった。更に言えば、魔王が勇者が限界であった事を見抜けずに逃げ出した事も大きい。



「総ては神の思し召し、ですか」


 フッ、っと笑う。人間は神の存在を知っていても、神に会った事など無い。だから自分達の都合で神を作り上げ、奉っている。


「あの神が、あんな事象を作り出す訳もないですね」






 じじいとニャン太は家に戻った。


「もう優雅に休養なんて言ってられない。流石に今日は休むけど、明日から修行再会だ」
「じじい、大会はどうするよ?」
「俺は勇者だ。魔王が復活した以上、大会で遊んでいる暇は無い」
「まあ、そうだよな」


 魔法剣士として独り立ちして以降、ずっと負けなしで勝ち続けていた。デス戦は、危なかったが結果勝った。さっきの魔王戦は相打ち……しかも運が良かっただけの相打ちだ。もう1回やっても、ほぼほぼ負けてしまうだろう。

 少なくとも本来の能力までは戻さないといけない。

 魔王の影響か、森にも洞窟にも野生の魔物は居なくなってしまった。その為、翌日から塔へ行き修行を再開した。








「ぐ……思った以上にダメージを受けている。あ、あれは?」


 魔王は休める場所を探して彷徨っていた。かつての居城はもう無い。その為、人気のない場所を求めていた。その最中、1人の人間を発見した。


「人間のくせに邪悪な魔力を秘めてやがるな。あの人間に乗り移り、私の身体を休ませて貰うか」



 魔王は人間に向かい進んでいく。


「!?」


 魔力に反応した青年はいきなり背後に剣を走らせた。ブンッ! という音がして剣は空を切る。そこには何物も居なかった。

「気のせいか? ちょっと過敏になっているな」


 王国からの追っ手でも来たのかと思った。今はクスリを使用していない。何とでも出来はするが……


「まあ良い」


 青年は剣を収めて歩き出す。既に魔王はこの青年に取り付いていた。


「来月は世界大会だ。今年も勝ってやる。そうすれば一生遊べるくらいにはなるだろう」


 青年はぼそぼそと呟く。



「誰もこのケーオ・ブケー様には勝てねえよ」




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み