「ン」のお話

文字数 3,043文字

 主竜は炎を吐いてきた。ニャン太はそれをかわす。


「やっぱあの時のドラゴンより強くないな。流石にこんなおまけストーリーであれ以上の強敵は出てこないか……ってメタんじゃねえって!」
「何を言ってるんだ?」
「ああ、気にしないでくれ」


 とにかく時間はあまり掛けられない。ニャン太は主竜に飛び込んでいった。


「食らえ、タイガー爪!」


 虎用の付け爪による爪攻撃だ。主竜の爪とぶつかる。


 ガキィン!


 流石にドラゴンタイプである主竜の方がパワーはある。ニャン太は主竜の爪をいなして蹴りを放った。


 ドゴッ


 これはヒットする。主竜は一瞬たじろいだがまた攻撃してくる。ニャン太はそれをかわし距離を取る。



「危ない。食らったらヤバいぜ」
「おおよそ猫とは思えない動きだな」
「ああ、知らないわなそりゃ。俺は猫じゃねえぜ」
「何だと?」



「俺は……勇者レイスの使い魔。そして光の精霊様の弟子……精霊だ!」



 何か、自分を精霊だと名乗るのは久し振りだ。でもそう言った事で踏ん切りも付いたかもしれない。



「悪いけど時間がないからな。決めさせて貰う」
「勇者の使い魔? 精霊? そんなもの信じられるか!」
「信じなくても良いぜ。身体には刻ませて貰うけどな」


 ニャン太は魔力を溜める。この技も久し振りだな。




 主竜は炎を吐いてきたが、ニャン太はそれを物ともせずに突っ込んでいく。


「行くぜ、必殺・オーラ爪!」



 ズシャッ!



 ニャン太のオーラ爪は主竜を切り裂いた。致命傷ではないが、すぐには動けないだろう。


「ぐあああ……まさか」
「お前の計画も終わりだな」

「くくく……馬鹿め。もう遅いのだ」
「どういう事だ?」
「この塔の先にある工場には人間が兵器を持って集まってきている。その兵器で動物の村を順番に滅ぼしていくのだ」

「人間だって?」
「もう手続きも済んでいる。止める事は出来ない」
「この馬鹿野郎!」



 ニャン太は主竜を思いっきり張り倒した。そして何も言わずに走り出した。




 塔の外についている非常階段から飛び降りる。3階程度の高さだが、ニャン太にとっては降りれる距離だ。



「クソ、どうすれば!」


 先に進んで人間による動物の村殲滅を防ぐのが先か? それとも猫の村に戻ってライオンから猫を守るのが先か?



「……考えてる時間が1番勿体ねえ!」


 踵を返し、来た道をダッシュで戻った。


「全力で走れば猫の村まで10分も掛からねえ!」




 ニャン太が走り去っていく様子を、1羽の鶏が眺めていた。


「そっちを選んだか。思った通りだな。……仕方あるまい、人間は私が引き付けて、時間を稼いでやろう」






「……ん? 遠くから来るのは、さっきの猫?」


 向こうからニャン太がダッシュして来ている。虎は不思議そうにしていた。


「どうした? 帰るのか?」
「急いでるんだ! 急いで猫の村に戻らないとライオンが!」
「はあ、ライオンの野郎がまた悪さでもしてるのか。これでも食ってけ!」


 虎は何かを放り投げた。ニャン太はそれを口に入れる。


「何の果実だこれ、美味いじゃん! う~ん、水分補給!」
「虎の楽園名産の木苺……って、もう行ってしまったぞ」





 途切れた橋も一気に飛び越える。


「何か勢いで飛んだら行けた!」


 そのまま猫の村へ入った。





「ライオンめ、何処だ!」


 奥の方で悲鳴が聞こえた。そらの家の方だ。ニャン太は走って向かう。家の前で猫たちがライオンに詰められていた。大丈夫、まだ被害は出ていない。



「待てライオン!」
「ん? 何だ他にも猫が居たのか」
「しゃらくせえ!」


 ニャン太はライオンに爪で斬り掛かるが、ライオンにはバリアが張られていた。コズキの時と同じ感じのバリアだ。


「くっ、今思えば、あのバリアは主竜の魔力で作られた物だったんだよな。あいつが魔力高いヤツじゃなくて良かったぜ」
「何を言ってるんだ。念仏でも唱えたのか?」


 ライオンは爪で攻撃してきた。思ったより速いが、ニャン太は何とかかわす。


「流石は百獣の王だ、凄い攻撃力だぜ」
「ただの猫に俺は倒せんぞ」
「俺はただの猫じゃねえ」


 ニャン太は爪で攻撃。しかしまたバリアに阻まれる。


「ちっ、あの厄介なバリアを何とかしないと」


 ライオンは再び爪で攻撃してきた。ニャン太はまたギリギリかわす。


「すばしっこいヤツだ」
「……あれ? 何で攻撃をかわしている時はバリアが発動しないんだ? 発動する時は本体から10センチは離れた場所に展開されるのに」
「これでどうだ」


 ライオンはまた攻撃してくる。ニャン太は被弾覚悟でクロスカウンターを放った。


 バチバチバチッ!


 ライオンの爪とニャン太の爪の間でバリアが展開され、2人は互いに後ろへ弾かれる。



「なるほど。そういう事か」
「ええい、この猫!」


 ライオンは噛みつこうとしてきた。


「ライオンとは言っても所詮はただの動物だ。オツムの程度が知れてるぜ」


 ニャン太は顎をかわしてライオンに密着した。


「ぐっ、この!」


 ニャン太は拳をライオンにそっと宛がった。やっぱり攻撃で無ければバリアは出ない。拳を密着させた状態で爪を出して一気に横に薙ぎ払った。


 ズシャ


「ぐあああ!」
「バリアの展開される範囲より内側ならバリアは出ないみたいだな」


 ライオンに傷を負わせるも、流石に倒せてはいない。


「それに、魔力で形成されているバリアなら!」



 ニャン太は魔力を込めて必殺技を放った。


「な、何を!?」
「食らえ! オーラ爪!」


 バチバチ!


 バリアが展開されるが、今度はニャン太も引かない。


「魔力なら主竜のヤツより、精霊である俺の方が上だ!」


 バチィン!



 バリアを切り裂いてライオンを村の外まで吹っ飛ばした。


「こりゃだめだ、逃げるぞ。キャンキャン!」
「鳴き声違うし! お前ニャン科だろうが!」



 何とか無事にライオンを撃退した。恐らくアイツが来る事は2度とないだろう。



「ニャン太さん、大丈夫ですか?」
「おう、何とか無事だった。かすり傷も無いだろ?」
「ニャン太さん、ありがとうございました。何度も娘を助けて頂いて」
「気にすんなよ。アイツが気に入らなかっただけだ」


 何とか一息……ってそんな場合じゃ無かった。



「そうか、また戻って人間を止めないと!」
「ニャン太さん?」
「悪いが、もうちょっとやる事がある。急いでいるから行くぜ」
「そうですか。でも気を付けて下さいね」
「ああ、また帰って来るから猫缶でも出しておいてくれ」



 そう言うとニャン太は再び走り出した。




 橋を飛び越え、虎の楽園を横切る。



「あ、また戻ってきた」
「虎のおっさん、またさっきの果実をくれ」
「おう、ほらよ」


 ニャン太は虎に投げて貰った木苺に飛び掛かって口に入れた。


「うめえ。今後買いに来るわ!」
「分かったが、俺はおっさんって歳では無い……って、もう行ってしまったぞ」



 水分補給をしながらも、主竜の塔付近まで来る。


「あ、さっきの猫!ここで会ったが……」


 ドンッ!



「はあはあ……ん? 今何かぶつかったか? まあ良い、先を急がなければ」





 塔の先に工場らしきものが見える。あの場所に人間が集まっているのだろうか?

 その場所は今の所、静かだった。いや、微かに人間の声が聞こえたか?




「何か様子がおかしくないか? 動物の村を壊滅させようとしているって話だったが」



 近付くにつれて人間の声が大きく聞こえてくる。機械っぽい音も聞こえてくる。大きなエンジンの様な音……車では無いみたいだ。




 工場の入り口は鉄格子みたいな門で塞がっていた。


「こんな隙間、楽に通ってやる。猫を舐めんなよ」

※猫ではありません。




 こうして工場の中へ侵入したのだった。





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登場人物紹介

【レイス】

本作の主人公。

200年前に魔王を打ち破った勇者。

光の精霊の加護を受けており、光属性の魔法や魔法剣を使用する。

【ニャン太】

勇者レイスの使い魔。

光の精霊がレイスに遣わせた精霊見習い。。

猫の姿は仮の姿である。


【ポコポコビッツ】

200年前に勇者に敗れた魔王。

封印されており、復活する時を待っている。

闇属性の魔法を使用する。

【ドーン】

ルファウスト王国の宮廷魔術師。

とある要件でとある人間を追っている。

主に無属性の爆発魔法を使用する。

【ヘンリー】

ルファウスト王国に住む魔法剣士。

世界大会で優勝するのが夢。

無属性の魔法剣を使用する。

【ポーン】

サーザリッド王国の兵士。

研修でルファウスト王国へ来ており、大会での案内等を行う。


【光の精霊】

レイスに光の加護を授け、ニャン太を遣わせた本人。

レイスに間違えて「不老不死」でなく「不死」を与えてしまったおっちょこちょいさん。

【魔王直属軍】

200年前は大きな軍だった。

レイスと戦って敗れた事でかなり数を減らしてしまった。

魔王が封印された後は、殆どの者が目的も無く過ごしている。

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