10. Secret Operation □連行。

文字数 3,156文字

   中途で会社に入った場合、いろんなことが分かり、持てる実力が発揮できるようになるまでには最低で、三年はかかるとボクは思う。たとえ、何処かで、既に厳しい練りを経てきていたとしても...。すぐには「無理だ」。*唯一、タイミングが味方すれば話は別にはなるではあろうが...。

  母が大いなる期待を寄せて採用した、鉛筆舐め舐めで書いた、さぞかしご立派な職務経歴書を、ついぞ最近は働かせることを忘れていた理性による最終確認の結果、大いなる満足感のもとで提出され、彼らは彼らなりの切羽詰まった懐具合の事情により、嫌々ながらも即座の実績を果たすをべきを条件として入社されてきた新部長さん、新顧問の皆様はどうであったであろうか?。*(〔ベルゼ風〕で書いてみたけど只の悪文やね、ゴメン)。まあ、母(社長)にしてみれば、彼らはすぐにも素晴らしい成果をあげてくれると思っての採用だった訳だが...。それも、彼女への忠誠心をしっかり保証された上で!。

  いつもの如く、最初は、派手に惚れ込み、やがては、これは彼女独特の不快感を伴う失望すへと変ずる。なにも成果が現れてこなかったということだけが原因ではない。契約時に彼等が求めた報酬に対して、社長がハッキリと確約をすることを避けたことにも原因はある。入社してみて、初めて、ここの社長や会社の状況というものが分かってくる。そして、不信感と不安感が彼等の胸中に芽生えてくるのに、そうさしたる時間はかからなかった。事実、大変優秀な方々でした...。そして、早々に会社を離れることを決断されていた。*しかし、老獪で浅ましいタイプは残ってしまうが....。

  Re: Secret Operation □を連行。
  ある土曜日の昼下がり、一人の女性社員が我が家を訪ねてきた。社長秘書をやっている子で、ボクはあまり馴染みがない。『リエちゃん』という呼称しか知らない。彼女は一人でやって来た。そして、糟谷先生よりの『メッセージです』と、会社の今ある状況についてを語り出した。なんでも、『危機』との話だった。

  経済同友会なる経営者の集いにおいて、母に取り入ってきた人間がいた。そして取締役として採用にすることを母は心算していたそうだ。。ボクも一度だけ、その人物を見かけたことはある。正体不明には思った。ボクは、大事には関わらせてもらえず、紹介もされなかったので、如何な人物かは定かにはできなかった。後で聞いた話では、その集いの裏では、「会社喰い」で有名な人間であったらしい。

  この人間の採用において、母は、何故か糟谷先生による確認を失念してしまっていたようだ。余程、母の懐に深く入るにおいて、卓越した能力をこの人間は備えていたのだろう。若しくは邪悪なる意思の介入がそこでは働いていたのかも知れない。とにかく、最終的な雇用契約が行われるのが、明後日の月曜日で、それは何としても阻まれねばならないとのことだった。糟谷先生が、どうやって状況についてを知られたのかは分からない。多分、母は、リエちゃんを代役として何かの相談事をさせに行かせたのだろう。その時に、彼女からの四方山の情報を聞いて、なにか悟られることがあったのだと思う。そして、今度は、彼女をボクへの使者として送られてきたのだ。『とにかく、どんな手を使っても社長を、私の前に明日、日曜日中に連れてきなさい』が先生の指示であった。昼前からは時間を空けておくからとのことだった。

  日曜日は母との予定はあった。午前中は孫と近くの公園を散歩し、その後ボクが運転手を務めて彼女の思う所へ送って行くことになっていた。その目的地は、阿倍野からは少し離れている。彼女に強引なことが出来得るとしたらボクしかいない...。折角の土日が偉く緊張を帯びたものになる。ため息と舌打ちばかりであった。そこそこの間、激しい怒りの発露に晒されながら、運転手を勤めることになるであろうと覚悟をする。

  この機会にボクの息子の話しもしておこう。とても色白で日本人離れしている。幼児の頃はキャスパーそっくり。生まれて間もない頃に、妻は『これは私のもの』と愛着心からそうボクにそう宣言してた。ボクは、これを聞いて、なぜかフレンチブルのいい出物はないかとペットショップに飛んでいったものだ。女性にとっては、とても母性本能を掻き立てる存在だと思う。これは母にとっても同じで素晴らしい愛玩の対象であった。二人して散歩をすることをとても楽しみにしていた。歳は未だ三才にもなってはいなかった。「その歳で、お前も明日は大切な務めを負うことになるのだぞ」との思いで可哀想になった。コード:『無垢なる存在』(*)。

  朝、息子を一人送り出し、戻りを待つ。いたく時間の経過が長く感じられる。無事にことが果たされることを主に祈った。やがて彼が帰ってきたので、じきにボクの出動となった。車中で息子に関して色々聞かされたが、ほとんど耳には入らなかった。気を損じることがないようにとだけ神経を働かせる。穏やかに気持ち良くとの応対に心を尽くす。まだまだ、こちらの思惑に彼女が気づく頃合いではない。ただただ、心を鎮めて、慎重な運伝を心がけていた。そして...、異変に母が気づくことになる。『あんた、どこ行くの?』。「ちょっと付き合って欲しいところがあるねん」。そんな、曖昧な話が通じるわけもなく、目的地を教えろとの追求が始まる。まだまだ先は遠い。面倒臭くなって、「糟谷先生のところ」とハッキリと伝えた。そして、次は『なんで?』が始まる。これは即座には訳を話さなかったが、少しづつ少しづつ、こちらとしての問いを交えつつ、理由もすべて話していった。案の定、不快感を露わにしてきた。そして『絶対に、私は行きません!』と後部座席で不貞腐れる。メチャクチャな愚痴を延々と聞かされるも、なんとか阿倍野に無事に入ることができていた。そして、先生の家へと続く、細い道に右折で入り、横付けで入口の前に車を停めた。ボクは、すぐに降りて、先生の家のチャイムを鳴らしていた。もうここからは、ボクの仕事ではない。先生が出てこられて、愛想良く母を家の中へと誘っていた。母は、既に、ボクなど眼中にはなくなってはいたが、一度睨みつける顔を向けたっきり、大変不服の面持ちではあったが、先生の招きには無作法はできず、車を降りてするりと玄関を入っていった。

  数日後にボクは先生を訪問し、ことの成り行きを知る。無事にあの話は流れたとのことだった。それだけで十分で、委細は聞かなかった。「ありがとうございました」と感謝の思いを先生に伝える。その後は、いつものごとく延々と先生のお喋りに付き合わされることとなったが...。


追記:

  ボクはあまり先生のところに行くことはしなかった。占い頼りは嫌いなのだ。それと、あの長々と続く先生のお喋るに付き合わされるのは、そこそこ大変なことにもよる。こちらは、恐縮しているので会話にはならない。軽く一時間は優に超える。リエちゃんも、『長い話は聞かされるかとは思いますが..』と要らぬアドバイスを伝えてはくれてはいた。見料は、各自の思う額なので、これは仕方がないと相談者はみな付き合うことを余儀なくされる。


補記:

精神的にも肉体的にも弱り切っている状態で、嫁取りをせねばならない男がいた。
周りのサポート役の人々の煽りもあって、女を家に招いた時に男は強引にことを行なう。ひと挿しで果てるも、それが着床となった。
できちゃった婚であったが故に、道筋は強固なものになってくれていた。

できた息子は、『奇跡の子』だと思っている。

可能な限りの『無垢』だと思う。
  
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