9.  Fraulein of Habikino 街道グルメ。

文字数 3,292文字

  Re: ダブル・エフェクト

  府道43号線にロマンチック街道と呼ばれる区間がある。この道は国道171の牧落で交わり、最後、箕面駅に向けて伸びていく。そうこの牧落の交差点を越えてからのエリアだ。ここにあったお店のお話し。少し、侘しくも悲しいお話し...。

  お店との出会いは妻が切っ掛けを作った。彼女との縁があったればこそ。ボクとはないはずだ。そこは洋食が専門のお店だった。近く信号待ちで車を止めていると、そばの電柱に何やら張り紙をしている女性がいた。そしてその女性と助手席の妻は歩道とからで話を始めているではないか。「是非お店に来てください」だったそうだ。

  後日行ってみることにした。妻は人からの頼みを断れない性分だ(タイプ2)。しかも、なんでも割引があるとのことなので、妻は勇んでの協力となった(報酬かありきのおせっかい)。あの通りの小ぶりなビル二階に、そのお店はあった。間口狭く、急な勾配を降りたところ(地下)が駐車場だった。この駐車場がまた設計が悪く、とんでもなく停めにくい。無駄にでかい円柱の柱が数本ある為だった。車の停め方も不規則な感じで、6台でお終い。二階のお店は広すぎるように思えるほどの空間だった。照明はおさえ気味。客はまばらにしかおらず少し寂しい雰囲気であった。しかしお料理そのものは専門性が高く、この辺りではちょっとありえないぐらいのグレードだった。更には、割引期間ということで支払いも信じられないくらい安かった。こちらとしては緊縮ムードに、だだハマりだったので大喜びだった。以降もタウン誌にクーポンを見つけては飛んで行ったものだ。

  お店は三人で運営されていた。ご夫婦と一人の男性。みんな年近くお友達同士だったのかもしれない。調理は女性の方がメインで受けもってられた。二人の男性はフロアー担当。旦那さんはサブ的に厨房にもおられたかな..。手すきの時はこの女性の方もフロアーにおられ、ボクのまだ幼い息子の相手をしてくださっていた。可愛がってくださった。とても嫋やかでお美しい方だった。垢抜けたご様子だった。

  なんども通ううちに、これは「やはりおかしい」との思いが深まっていく。このままでは「ヤバイな〜」との思いがつのっていく。そこは、いつもシケているのだ。我が家の貸切状態が多いではないか!。原因は場所の悪さだ。建物自体の構造が問題なのだと思った。このビルのテナントに入ったのが間違いだったのだろう...。後で聞いた話では、かっては心斎橋のあたりで、お店をやられていたとのことだった。順調な経営であったと思われる。そこでソコソコの資金を貯めて、賃貸料の安いエリアへの移転を考えられたのだろう。おそらくこのビルの提示するテナント料は、広さからは破格に思え、飛びついてしまわれたのではないだろうか?。だが、いかに料理の腕前が素晴らしかろうと、構造的な制約には逆らえない。入り口である地下の駐車場がまず第一の障害。かつ二階へは階段を歩いて上がらなければならないこれが第二の障害。つまりは客を三階分歩かせることになる。家相的にも凶が潜んでいそうな雰囲気だった。何か違和感めいた感覚が建物全体にあった。ボクだけならまず近づくことはありえなかったろう。

  相手の懐具合を知りながらも、我が家は度々クーポン券を握りしめては、このお店を利用し続けた。更に付き合いも長くなってきたためたか、食後、妻と女性は親しく長ばなしを店内でするようにまでなっていく。妻は社交的だ。しまいには息子の定番メニューであったカレーのレシピまで教えてもらっている始末だった。ボクは、まだ他の客がいる内に、さっさと帰りたかったのだがそうもできない。関係が深まったがためか、聞きたくもない話が聞こえてきてしまう。そしてあちらの情感を感じ取ってしまう。じっくりと終わりゆくお店のエレジーを味合う羽目とボクはなっていた...。


  Re: ビラ貼りまくりの料理店

  序(つい)でに、とある中華料理店の話もさせてもらおう。時は近い...。
これも街道沿い。「牧落の交差点」を超える手前にそれはあった。今度のは地上階。小ぶりな三軒続きの店を一階に束ねる二階建てのビル。右端のこざっぱりしたお店だった。駐車場もないし、寂れた様子でずっときていた。まったく縁のなかった一角。
  「もー」トンデモナイお店だった!。切羽詰まった人間が最後の悪あがきで新規に店をオープンしてたのだ。既に万策尽き果てて、もう残された手段は嘘八百に訴え出るしかなかったのだろう。具体的には、派手派手しい「ビラ」の大盤振る舞い。店の入り口のまわりに、それは人目を曳(ひ)くようにベタベタ貼りまくっていた。そのビラにある文言のまたあざとく大嘘だったこと。「どこそこの超有名店の料理長が独立して本日より新規オープン」だとか。「中華では何流で材料は全て現地仕込み」だとか。蘊蓄が長々と、色々と毛筆書きで「これを読みたまえ!」とばかりにベタベタ貼られてあった。とにかく大言壮語もはなはだしい。最初に客を多く呼び込んでしまえば、あとはなんとかなると踏んでいたんだろうな〜...。
  そして急にあの一角の様子が華やいでいることを見つけたボクは俄然関心を持ってしまってた。何やら面白そうということだけでボクは行ってしまう。それも嫌がる妻を引き連れて...。後に、このことは嫌になるぐらい妻からの恨みごととして聞かされる羽目となる。でもこの手のワクワク感は誰にも理解してはもらえないだろうか?。これも『男の甲斐性』だとボクは思うんだけど...。

でも思っきし「 ロッパー! 」だった。


追記:

フロアー専属の男性は、あの女性を「ボクの奥さん」と言っていた。じゃあこの男性が旦那さんなんだと思っていたら、そうではなかった。本当の旦那さんであったもう一人の男性は怪訝な顔をして妻の話を聞いていた。

安くて美味しいお店は汚いもんだ。これ定説!。そしてこれに飢えていた...。

当然、えの○調である。

潰れていくお店を多く目にする。始めるにさえ大変な資金が要るであろうに。そこで明日を築こうとされていた人たちを思えば不憫でしょうがない。経営はとても難しい。
飲食関係のビジネスは絶対やりたくない。流行り廃りが間違いなくある。

バカな客はボクだけではなかった!






追記2:

魂としては、まだ若く幼い存在なのだと思う。お嬢さん。亡き母が遠見をして、『ひゃ~っ、こどもみたいな人や~』と洩らしたことがあった。これはある意味正解だったと思う。ボクと連れ添ったことは、妻にとっては可哀想なこととなった。キャパオーバーもいいとこ…。今の彼女の思いとしては、ボクは『結婚を考えるべきではなかった』そうだ。なんの資格も、学歴も、更には頼るべき人間関係もないのがその理由だ。すべてはボクの家方に起因するが為、ボクは黙ってこの言葉を忍んででいる。もし、あの一件がなくて、ボクが会社を継ぐことになっていれば、さしたる問題はなかったであろうと思われる。いや最適なサポーターとして彼女はあり得たのだと思う。

人前式がために以下の誓いの言葉がなかったのも納得できる。

「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」

女性の方が、もし読んでくださっていれば聞いといてください。
旦那さんを応援してあげてください。元気付けてあげて下さい。期待を持ち続けてあげて下さい。特に困難なる時には。いかに絶望的な状況にあっても。『信じられなくてもです!』。この時期はやがては終わります。彼が頑張るなら決しておかしな顛末にはなりませんので...。苦しむ人の上に石を置くようなことはされないように...。アーメン。
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